第27話:協力者
ダンジョン内でも比較的魔物が出没しにくいエリアに移動した俺たちは、ようやく泣き止んだニクラスに事情聴取を始めた。気分は警察官。
「なんで今更事実を打ち明けたんですか?」
「それは、もとはと言えばアイラが泣いているところを見てしまったからだよ。こっちの世界に戻ってきているときに通りで偶然見かけてしまってね。アイラはめったに泣かない子だと知っていたから、気になって後をつけていったんだ。そしたら君たちのもとにはツヴァイがいて、もう全部ばれたんだなって悟ったよ。だから謝ろうと思った。でもその時にはまだ覚悟ができていなくて、今こうしてここへ来たのさ」
「な、なるほど」
予想以上に長い答えが返ってきて若干ビビったが、要するにばれちゃったからいっそ打ち明けてしまおうと踏ん切りがついたわけか。よくある話かもな。
「もう一つ質問良いですか?」
「ああ、いいよ」
赤くなった目をこすり、時々鼻をすすりつつ質問に対応する元アイラ兄。――ん? アイラが認めるなら現アイラ兄でいいのか。ま、とにかくアイラ兄。
「個人的な質問になるんですが、俺を応援するってどういう意味だったんですか?」
「あぁ、それは言葉通りの意味だよ」
「はい?」
「異世界人養成計画の被害者を、アインスやツヴァイを救ってほしかったんだ。もっとも、ツヴァイは自力で逃げ出してたけどね」
ほうほう、そういう意味だったのか。
ならば、オレの分まで頑張れ、というのはつまり『オレが一度は迷惑かけちゃった相手を救おうと決めたけど無理だったのでオレの分まで頑張ってください』という意味の発言だったということだろうか。それって……。
そばで話を聞いていた昴がフッと鼻を鳴らした。続けて口を挟む。
「随分と人任せですね」
「……ごめん」
ざっくばらんな物言いに対し、しかしニクラスは頭が上がらない。
「ツヴァイには本当に悪か」「昴です」
「あぁ、そうか。スバルには本当に悪かったと思ってる。もう取り返しはつかないし、許してもらおうなんて気はないけど、これからできることだけでもやらせてくれないか?」
「……まあ、それくらいなら」
冷たい表情こそ崩すことはないものの、昴はニクラスを完全に突き放してしまおうというわけではないようだ。安堵したらしいニクラスはほっと胸をなでおろした。
「で、これから何をしてくれるんです?」
安心したのもつかの間、今度は揚げ足を取るような発問がなされた。がしかし、ニクラスが動じる様子はない。事前に返答を考えてあったようだ。
「オレに、君たちの作戦を手伝わせてほしい」
おおっと、そうきたか。
各々が案を吟味するための時間が流れる。
「……でも、兄様は戦闘が苦手ですよね?」
遠回しに反対意見が突きつけられた。でくのぼう帰れ、と妹様が申しております。
「確かにその通りだよ。でも、これ以上人任せにするのは嫌なんだ。オレにだって狼になって敵の気を引いたりすることぐらいはできる。あとは、そうだな、ワームホール……が何に使えるのかは分からないけど……うーん……」
どうやらお兄さん、自分で言い出しておいてその使い道に困ってしまったご様子。
ならば、ここは助け船を出して差し上げましょう。
「良い使い道がありますよ。ワームホール」
「えっ、ほんとに⁉」
お兄さんの目がキランキランしてる。
「本当ですよ。じゃあまず作戦の概要から伝えますね……今のところこうなっていて……変更を加えると……で、ここでニクラスさんが……という感じですかね」
「君は天才だっ!」
「初めて言われました」
うん、貴重なお言葉だから否定するのはやめておこう。
俺はコミュ障の壁を越えて考えが人に伝わった喜びを密かにかみしめた。
一方で、明かるくなったはずのニクラスの表情はだんだんと曇っていく。
「……そうだ。オレは君にも謝らなくちゃいけなかったね」
その視線は俺に向けられている。
「あと、君にも」
今度は氷月に向けられた。
「君たちはアインス……じゃなくてユイを失ったことで人生が狂ってしまった人たちだ。……公園で姿を見かけるたび、胸が痛んだよ。だって結局はオレのせいなんだから」
お偉いさんの記者会見みたいに、直角に腰が折りたたまれた。
「本当にごめん」
俺と氷月が顔を見合わせると、どっちから話し始めるかを決する流れが生まれる。
俺が適当に首で促すと、氷月が先に口を開いた。
「……私は別に大丈夫。……唯には、これからまた会える」
「俺ももう気にしませんよ。何とも思わないかと言われればそんなことはないですけど、今から会いに行けるなら問題ないですし」
「ありがとう……」
感極まったというように体の前で両手を組むニクラスお兄さん。そのしぐさ、お兄さんじゃなくてお姉さんに見えるから注意してほしい。ってかまた泣き出しそうだぞこの人……。
「なー、そろそろいかねーかー? もう暇だよ俺ー」
ちょうどいいタイミングで琥太郎が音を上げた。コイツ、さっきからずっと端っこで土いじりしてたもんな。確かに琥太郎にはつまらない話だったのかもしれない。
「そうだな。そろそろ……」
「よっしゃぁー、時は満ちたなり! いざ参らせてみせよーう!」
平和な空間に後ろ髪をひかれつつも、謎の掛け声とともに一同が動き出した。
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