第25話:作戦会議

 アイラが戻ってきたのは、それから約一時間後のことだった。

「あっ、アイラっち!」

「こんなところにいたのね……アタシ抜きで盛り上がっちゃって」

 俺、昴、氷月、琥太郎の四人はそのときちょうど四人で食卓を囲んでいるところだった。琥太郎が先導してギルド内の飲食店に来ていたのである。いつもはこみこみで長蛇の列ができる人気店なのだが、夕食にしてはいささか早い時間帯だったので店内がそれほど込み合っていることはなかった。

「アイラ、もう大丈夫か?」

「……へーきよ」

 とは言ってるが、顔はやはりしょげたままだ。泣きはらして赤くなった目も相まって、本当は大丈夫ではないことが丸分かりだった。

「アイラさん、ほんとにごめんよ」

 同じことを感じたのか、昴が素直に謝る。

「気にしないでいいわ。ツヴァ……スバルは事実を伝えただけだし。悪いのはおとうさ……シュテルなんだから。だましてた本人が全部悪いのよ」

 自分に言い聞かせるような、噛んで含めるような、そんな口調だった。

「それより、今後の方針について話しましょう。グダグダ言っててもしょうがないわ。はい、もうしんみりムードはおしまい」

 氷月のナイスな心意気ではからわれた追加の椅子に座ったアイラが、場の空気を切り替えるようにパンパンと手を鳴らす。

 さすが、切り替え早いな。

「よし、分かった。じゃあお望み通りこれからのことについて話そう。まず、アイラの目的の達成が不可能になった件についてだが……どうする?」

「あーそっか、アイラっちの目的は父親を助けることだったもんなぁ」

 琥太郎がぽんと手をついた。一応ぐーすか寝てたこいつにも事情は説明してある。

「……つまり、目的は唯の救出のみになったということ?」

「そういうことだ。アイラにはあんまり関係ない話にはなるかもしれないが、協力してくれるか?」

「もちろんよ。もともと巻き込んだのはアタシだし。それに、全然関係ない話じゃないわ。リインハート家の一員として、迷惑かけちゃった相手はちゃんと助けないとね」

 裏切られても、血はつながっていなくとも、世界は違えとも、アイラはリインハート家の一員だと主張するようだ。確かに、お世話になっていたことには変わりないからな。

「じゃあ、僕から少し話をさせてもらっていいかな?」

 小さく手を挙げた昴に全員の注目が集まった。目で誰も異論がないことを確認すると、満を持して話し始める。

「まず、みんなが知らなそうなことから話しておくね。えーと、魔族の監獄についてなんだけど、実はあれ、各地に散在してるんだ」

「えっ、一つだけじゃない!?」

 アイラから驚きの声を上がる。

「そうだよ。いくつあるのかは知らないけど、点々と存在してるのは間違いない。魔族たちが監獄を行ったり来たりするのは、監獄同士で情報を交換するためなんだ」

「……全然知らなかったわ」

「無理もないよ。監獄に近づいて帰って来られる人なんて本当にごくわずかだから、情報が全然回ってないんだ。僕が逃げられたのは運が良かっただけだからね」

 昴が小さく肩をすくめてみせた。

 かと思えば今度は大まじめな表情になり、

「そこで一つ提案があるんだ」

 まるで狙いすましたかのように、店内のざわつきが収まった。

 そのことに満足したらしい昴が、ニヤリとしてそのまま話を続ける。

「魔族は情報交換をすると言っただろう? その情報交換は大体一か月に一回ぐらいのペースで周期的に行われるんだ。で、だね……肝心なのはその時にヤツらの監視が甘くなることにある」

「……もしかして、その隙を狙おうって話か?」

「その通りさっ」

 愉快な感じでズビシッと指をさされた。適当に流れを汲んだだけなのに、そこまでされると面はゆい。

「だから、僕たちは二日後に魔族の監獄に挑戦するべきだと思う」

 面はゆさが一瞬で吹き飛んだ。

「まさか、二日後に監視が甘くなるってことか……?」

「そういうことだよ。周期的に考えて間違いない。僕は脱獄してからもずっと計算してるから、信頼してくれていいよ」

 いや、自信満々に胸を張られても……。

「いくら監視が甘くなるとはいえ、相手が魔族であることに変わりはないのよ? まだまだアタシたちのレベルも高いとは言えないし、二日後っていうのはちょっと気が早いんじゃないかしら」

 昴を除いたその場にいる全員の気持ちをアイラが代弁してくれた。みんなうんうんとうなずいている。 

 しかし、反駁を加えられてもなお、昴の意志は揺るがない。

「確かに言いたいことは分かる。でも、できるだけ早く唯を救いたいだろ? それに――」

 そこでぶつりと言葉を切った昴は、俺の方を向いて、ニコッとこれまたさわやかな笑みを見せつけてきた。

「啓太に、どうやら良い案がありそうなんだ」

「ふぁい?」

 ちょ、急に俺に振るなって。

「良い案、って何よ? 言ってみなさい」

「さっすが俺っちの相棒だ。もうなんか思いついてたんだな!」

「……教えてほしい」

 みんな食いつきすぎだろ。あと申し訳ないが俺が琥太郎の相棒になった覚えは一ミリもない。

「うーむ……」

 まあ、実のところ少し考えていたことはあるんだが、それを話せばいいんだろうか。

「さあさあ言ってみてよ、啓太」 

「……分かった」

 作戦とも呼べるか微妙な拙い案だけど、話すだけ話してみるとするか。

 それにしても、昴ってまさかエスパー?

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