1-3 打ち上げ
今日は非リア充にとって祝福されるべきではない日、そうサークルの打ち上げである。非リア充の諸君はわかるかもしれないが、とにかく会話が弾まなくて、その場に居ずらい。
かと言って、参加しなければ、今後のサークル活動への影響は想像しただけで恐ろしい。特に、僕が所属する映画研究サークルはキノコみたいに、ねちねちしたやつが多い。敵に絶対回したくはない。
だから今回も参加するしかないのだ。
僕は、生唾を飲み、ゆっくりと居酒屋のドアを開ける。金曜日という事もあり、満席でワイワイとした声が耳障りだ。僕は、連絡通りの部屋に行き座った。ここで、だれも気付かないのはいつもの事。
ここまでは良いのだ、しかし、大抵は影山がいないという杉田達也こと、たっちゃんのフリに対して、僕が突っ込みを入れるという儀式のようなものが行われる。
「あれ、影山は?」
「後ろにいるわ!!」
…………………………。
そして、十中八九滑り倒す。
たっちゃんは長い付き合いで悪くない性格だが、どうも空気が読めないとこがある。
「たっちゃん、だだすべりー」
「わるいわるい、メンゴー!!」
だが、明るいからみんなからは好かれている。
しばらくして、いつも道理の飲み会が始まる。飲み会の席は基本的には自由だが、必然的にイケイケと陰キャラの二つに分かれる。さいわい、サークルがサークルだけあって陰キャラは多くはないが、少なくもない。
僕はその同胞たちといつも杯をひっそりとかわすのだ。席替えタイムと言っても、無理に動いちゃいけない。話しかけられないというあの気まずさを考えただけで、もう恐ろしくなってくる。
今日も、前回と同じく、隅っこでスマホゲーム片手に過ごすだけだ。
「影山くん」
「ええええええ、み、御津さん!?な、なんで!?」
「先週からサークルに入ったの。まさか、影山君がいたなんて」
先週はサークルは休みだったし。完全に無警戒だった。こんな隅っこに居たら、より一層つまんない陰キャラだと思われちゃうよ。
「そ、そうなんだ、み、御津さんって映画好きなの?」
「うん、大好きだよ!!洋画のほうが好きかなー」
やめてくれその笑顔。ギャラリーからの威圧で、別の意味でやばい。
「影山君は?」
「おれはアニメかな、あははは」
割り箸をおるめがね佐藤、急に酒を飲みまくる岩田、そして恨めしそうに見てくる宇津木。このまま飛鳥さんと話を続けたら、下手したら生命にかかわるかもしれない。でも、無理に追いやったりしたら、飛鳥さんに嫌われるし、そもそも、返事するだけで精一杯で、すぐ話続かなくなって、絶対気まずくなる。
「席替えタイム!!」
「あ、席替えか、またね影山君」
ナイスタイミングたっちゃん。今回は奇跡的に空気を読んだ。これで俺の恋も生命も保たれた。
とはいうもの、こいつら3人やっぱりねちねちしてるな。しばらくは、隅っこでおとなしくスマホゲームでもしといたほうがよいかもしれない。
そして一時間ほどたった後、無事一次会は終了した。二次会への参加は自由であり、徴兵はかからない。間違っても、二次会には顔を出してはならない。朝帰りになるし、何よりカラオケな苦手な僕は絶対にいかに方が身のためだ。
一次会解散後、二次会メンバーと帰宅メンバーに分かれた。帰宅メンバーには陰キャラしかいない。あたりまえっちゃあたりまえだが、数人はいるのに会話一つないのもなんだか気まずいものがある。
道を進むにつれて、だんだんメンバーが少なくなっていく。しだいに、離れて歩くようにまでなった。
「影山君。おつかれー」
「み、御津さん」
幸いあのねちねちトリオはいない。安心して良いのか、悪いのか。バスも時間的にないし、やっぱり長時間飛鳥さんと話すことになる。そう考えると、やはり二次会へ行くべきだった。
「影山君は、彼女とかいないのですか?」
「え!?」
あまりの予想に反して質問が来たので、近くにあったゴミ箱へ向かって滑ってしまった。
「お酒弱いんだね」
僕は、おしりを軽く払いながら立ち上がる。
「彼女、ってってなんで?」
「ただ聞いただけだよ、この年頃の人ってみんないるのかなって思ってさ」
「あー、なるほどね、今はいないよ」
実は年齢=彼女いない歴、だが見栄を張ってしまうから非リア充なんだよな。逆に、見栄を張らなければ非リア充に生きる術はないのかもしれない。
「そうなんだね、案外みんないないんだね」
「案外いないよね、あははは」
「ま、お互いがんばろうね!!じゃあね」
そう言うと飛鳥さんは曲がり角を曲がっていった。
「お互いかあ」
夜空に浮かぶ三日月は、嬉しそうで、どこか悲しげに見えた。
影山君は影が薄い 非生物的因子 @hiseibutuinnshi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。影山君は影が薄いの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます