第21話 探求V

「失礼ですが……天沢ミオさんですか?」

「は?……そうですけど」


「あなたのことは調べさせていただきました

こちらを……」


黒いスーツを着た彼女はミオの家の前で、アタッシュケースを少し開けた。


「なにこれ……なんなんですか」


「取引です

こちらを差し上げるかわりに、月島レイの居場所を教えてください」


「は……なに、そういうこと……だったらそれは無理よ」

「どうしてですか?」


「私はレイの居場所を知らないもの」


「……」


「今すぐお引き取りください」


「天沢様、あなたは大学を退学なさり、就職しなければならないほど、困窮されているそうですね

しかしあなたは大学を辞めるわけにはいかない」


「……」


「月島レイが、いまやあなたの人生のテーマだから」


「だから、何よ

私があなたに提供できるものが無いのだから、取引ができないわ」


「我々は……この他に、天沢様のご家族全員の生活を保証する用意もあります」


「!……」


「もちろん、天沢ミオ様の学業を保証する用意も」


「なによ……」


「ご希望でありましたら、私立大医学部医学科への推薦も可能です」


ミオはため息をついた。


「……ドイツよ……どこの研究所だとか、大学とかは知らないわ」


「月島レイ様がドイツへ出国されたのは我々も存じております

月島レイ様からコンタクトはございませんでしたか?

電子メール等は制限されているでしょうから……たとえば、手紙、とか」


「ふん……全部知ってたわけね

でも、差出人の住所氏名はばらばらよ

内容も当たり障りのないものだし、私との対話は成り立ってないし!」


黒いスーツの女性は、ふっと笑った。


「結構です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る