第1話 バックカットサーブ

彼は一次観測者としての観測を開始する。


この目はたとえば、ミックスダブルスの練習試合のとき、役立った。


月島レイはエンドラインの少し奥にて、レシーブの構えをとった。

ペアの天沢ミオは、ネット前でポーチボレーに出る準備をしていた。


「!」


相手チームの後衛は、バックカットサーブの構えをとった。

硬式テニスにおいて、カットサーブを繰り出す選手は珍しい。

バックカットサーブなら尚更。

予想外のことで、レイは慌てながらサービスライン前に移動した。

レイがバックカットサーブを返すのは、初めてだ。


「否……!」


レイは目をこらした。


相手選手が手から離したテニスボールは、吸い付くようにラケットに当たった。

レイはそれ、『共感覚の矢印』を見逃さなかった。


レイは、矢印の様子がサウスポーのカットサーブと同じだと気づいた。


「返せるっ」


回転をかけられたボールは、レイの予想通りの軌跡を描き、予想通りに跳ねた。


レイは右に足をはこんだ。


ぱこん、と、レイは相手コートのサイドラインにレシーブを打ち返した。


ミオはそれを目で追った。


「っ、ナイスレシーブだよっ」


ミオはレイにハイタッチを求めた。


レイは、ぱんという音と、お互いの手のひらで作用反作用の力を感じた。

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