第2-3話正義の白③ 亜紀side



 私たちは無事、燃え盛る火の手から逃げ出すことができた。


 そして丁度私たちが外へ出ると、家は完全に崩れ、ただの燃えた残骸となった。

 道沿いには沢山の人が集まり、興味深そうに燃えていく私の家を皆眺めている。しかし、私の姿を見た瞬間突然拍手が起こる。

 きっと皆は火事の中、逃げ遅れた私を助けた少年を称賛してるのかもしれない。

 

 私はそんな皆の喜びに、素直に喜べるわけは無く、只々悲しみが強くなってくる。そして......。

 

 

 「おばあちゃん...おばあちゃん......わああああああ!」

 

 

 さっきまで散々叫び、さらに焼けた空気を吸い続け、喉も限界なはずなのに、それでも私は泣き叫ぶ。泣き叫ばなければ、心が壊れそうになるからだ。

 

 すると、まるでその壊れかけの心を優しく包むように、導いてくれた少年は私を優しく抱いた。

 

 

 「大丈夫。君のおばあちゃんは無事だよ」

 「っ?......」

 

 

 言葉にならない聞き返しをすると、少年はゆっくりと集まる人達の方へ向かわせる。そこにはおばあちゃんと仲の良い近所のおばさんが、さっきまで脱衣場に倒れていたおばあちゃんを、簡易のベンチのようなものを持ってきて、そこに寝かせていた。

 ここから見てもしっかり息はしているように見える。



 「おばあちゃん、生きてるの?」

 「うん。君が化け物を引き付けてくれたおかげで、助けることができた。君の勇気と魔法のおかげで、おばあちゃんを助けることができたんだ」



 その言葉を聞いた瞬間、私の体から力が抜けてそのまま座り込む。少年も察してくれたらしく、私の体を支えながらゆっくり座らせてくれた。


 

 「すごいね!おねえちゃん。マジシャンズスーツを着けなくても魔法を使えるなんて!ああ、僕の名前は『尾野上龍矢(おのがみりゅうや)』よろしくね!」

 


 私も泣きながらも自己紹介をしようと声を出そうとした、しかし私の声は全く龍矢に届かなかった。



 「でも、いろいろ無理しすぎだよ。魔力も薬の影響と感情的になったせいで酷使しすぎたから、結構ボロボロだよ。ほら鼻血」



 龍矢の言葉に思わず自分の鼻を触る。血だ。しかも想像以上の出血量だった。

 その自分の血を見たショックと魔法を使いすぎた事。そして体の疲労によって意識が遠のいていく。



 「ゆっくり休んで。君とはもっとお話ししたいことがたくさんあるから......」

 

 

 

 ●●●●●


  

 病院(?)

 


 

 次起きたときは、見慣れない天井があった。

 

 

 「病院?私...」

 「目が覚めた?」

 

 

 病院のベッドに寝ていた私の側には、二度も私を助けてくれた少年が、パイプ椅子の上に座っていた。

 

 

 「なんか...二度も助けられちゃったね」

 「ううん。二度目はむしろ失敗だよ。本当は君を助けた後も無事に安全な暮らしが出来なければ助けたとは言わない。ましてや、魔物が君をマーキングしていることも気づかずに、お姉ちゃんの安全性を怠った。本当に、ごめんなさい!」

 

 

 少年は後悔と罪悪感の混じった声で、深々と頭を下げる。

 

 

 「ちょっと!お願いだから頭を上げて。そもそも私があんな人気のいない危険な路地に入っていったんだから、君ほ悪くない!」

 

 

 少年はゆっくりと頭を上げる。ふと少年の赤い瞳がより赤くなって、目の周りが腫れていた。

 それを見てすぐに分かった。

 辛かったんだ。私がおばあちゃんを助けることが出来ず、自分の無力さを感じる辛さのように、きっと少年は辛かった。

 そしてずっと泣いていた。私が寝ている間、ずっと泣いていたに違いない...。

 

 私は思わず少年を抱きしめる。

 

 

 「ありがとう...君は凄く強い子なんだね」

 

 

 少年は黙っていた。でも私を抱き寄せた。

 きっと少年にもなにか辛いことがあったに違いない。こんな小さな子が、魔物と戦っている。それだけでも壮絶な人生なはず。せめてこうやって甘えさせるのもいいかもしれない......。

 と、思ったら突然少年の手が私の胸を掴んだ。

 

 

 「うん。僕は強い子だよ。だから僕と付き合ってよ!僕、お姉ちゃんのこと好きだよ!」

 

 

 え?えっと...これは、って...。

 

 私は気づいたら魔法で作った柔らかハンマーを握りしめ、少年の頭を叩いた。

 

 

 「おっぱい揉みながら告白する奴が、いるか!!」


 

 どうやらこの少年は、色んな意味で凄い少年みたいです......。

 

 

 「いたたたた。それほど元気があれば大丈夫だね!」


 

 少年は叩かれた自分の頭を撫でながら、笑顔で言う。

 と言うか励ますならなにかもっと良い方法は無かったのか...まあこの子がもう少し大人になれば付き合ってもいいけど......。

 

 なんてプチ妄想をしている間に、少年は話を続ける。

 

 

 「...だからお姉ちゃんの力を貸してほしいんだ」

 「えっ?」

 

 

 うまく聞き取れなかったので、聞き直す。

 

 

 「お姉ちゃんには魔法の才能が他の人よりも抜群に有るって、昨日の戦いで分かった。だからこそ僕を助けてほしい!」

 「あっ、えっ?いや...そんないきなり」

 

 

 戸惑う私に、少年はさっきとは正反対な真剣な顔をして私の目を見る。

 

 

 「僕は、昨日と一昨日のお姉ちゃんみたいに、魔物や魔法関係で苦しんでいる人達を助ける活動をしている」

 「え?でもそういうのって警察の仕事でしょ?そういうものに関わるのは駄目な気が」

 「その警察が動けないもの。例えば、警察の戦力では対処できない。証拠が掴めず捜査を断念したもの。政府が隠蔽している悪行などを、僕達『白翼の使い』が取り締まっている」

 

 

 なんか怪しい組織名っぽいのが出てきた!

 だ、大丈夫なの?この子。

 なんて考えている間にも少年は続ける。

 

 

 「僕らは警察ではない。ただのアルバイト。確かにお金は貰っているけど、決して誰からも見返りもない。ただ純粋に人を救うことが僕達の仕事。苦しんでいる人に手を差しのべる仕事が僕達の活動だよ」

 「見返りのない...純粋に救う......」

 

 

 それは、まるで子供の頃に憧れた魔法少女そのものだ。

 



 私は子供の頃、魔法少女というのは、正義のヒロインのように困った人を助け、危険を顧みずに戦う。そんな理想な存在だと私は信じていた......。

 

 でもその思いは、一人の魔法少女によって打ち砕かれ、『私のなりたい魔法少女』という夢は消え去った。

 

 

 「本当に、私は魔法少女みたいになれるの?」

 

 

 最初少年は私の言った言葉に理解できずに黙っていたけど、しばらく考えると理解したのか、笑顔でうなずく。

 

 

 「なれるよ!お姉ちゃんの理想の魔法少女にきっと!」

 「う、うん。ありがと......」

 

 

 こうはっきり言われると恥ずかしいものがある。でもおかげで私は決意が固まった。

 

 

 「私、やるよ君の力に。えっと......」

 「りゅうやだよ。尾野上龍矢。りゅーって呼んで!」

 

 

 少年、龍矢の笑顔を私はいつも通りの満面な笑みで返す。

 

 

 「うん!よろしくね!りゅーくん!」

 

 

 私にとってこの週末は、私の人生を急展開に変える分岐点となってしまった。それは辛いことの連続だと思うし、楽しいことが起こることもあるかもしれない......でもそれは私にとってとても大切な事だと気付くには、今の私はまだ幼かった。

 

 もし私が主人公ならこう言うかな。

 これは私と、私の相棒が、魔法で繁栄した世界で、魔法を通じて出会っていく人達と共に成長していく。壮大な物語。なんてね......。

 

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