風来荘のシンフォギア

にらたま

第1話

頭上で30型魔灯がちかちかと星のように瞬く

弱々しい光だがこの小さな路地を明るくするには十分な光だ

だが大都市であるこのアルトの公的サービスがしっかりと行き届いていないことは分かった

「…….」

その下を歩くカザミは憂鬱だった

それはなぜか―————

「……..金がない」

―———そう金がなかった

生きていくために必要な金が

日雇いのバイトで食いつないでいるとはいえそれでも足りない

「………….」

財布を開くと中にあった金は32円

もやしかウメェ棒三本しか買えない

「今日も、もやしいためか……

 あっ!」

とつぶやくと手を滑らせ10円玉を落としてしまい側溝の方に転がっていく

「あーもう」

このままでは今日の晩飯がウメェ棒になってしまうので慌てて取ろうとすると

ゴヅン!!

「ぶへっ!」

「ぐはっ!」

何かがカザミの顔にぶつかる

「なに!?」

痛む顔を前に向けると

―———そこにはフードかぶった小柄な人がいた

「うぐ……なんでこんな時にこんなところを歩いているんだ!」

「なんかすげえ理不尽に怒られたんだが!?」

「はやくあそこに行かなきゃいけないのに…」

声が高いので顔は見えないがおそらく少女

「おい!こっちから声がしたぞ」

今度は野太い男の声

「ってああもう….助けてください!」

問答無用でカザミの後ろに隠れる

「ちょっ…おい!」

「—————ちょっといいかな?」

つい声を荒げそのことを咎めようとすると、いつの間にかいた黒服の男に声をかけられた

仕事でガードマンでもしているのか体は鍛え上げられており普通の人間が殴られたらひとたまりもないだろう

「えっ あ、はい?」

「このくらいの少女を見なかったかい」

その男は手を160センチくらいのところで停止させる

「ん? いや知らないっすね」

「————そうか、時間を取らせてしまってすまなかった」

そう言うと、男は走り去っていった

それを見送りながら後ろに隠れた少女に話しかける

「—————とっさに嘘ついちまったけど

 良かったのか?」

隠れられたのは魔灯が期限切れ間近だったことでこの少女に優位に働いた結果だろう

「はい、ありがとうございまふっ……」

バターンと少女は後ろに倒れこむ

「あーーおい 大丈夫か?」

心配して後ろを振り向く

午前中に降った雨のせいの水たまりに倒れこんだのかビショビショだ

完全に伸びている

「おい おーい」

ペチペチとほほをたたくが反応はない

「…….どうしよ」







「ただいまー」

と声をあげ我が家―———風来荘の門をたたく

我が家である風来荘は昔はどこかの貴族の家だったそうだが

今ではその時の面影は消え去りところどころの装飾から昔は『すごかったんだろうなあ』

と、思えるぐらいだ

なんやかんやあってその貴族は没落しこの家を手放し

今の大家さんに転がり込んできたというわけなのだが

その大家さんが変わり者で

『居場所のない人たちの居場所にしたい』という気持ちから、格安の家賃で貸し出している

そんな風来荘の住人たちは風来荘の名の通り風のような居場所のない人が集まってきた

皆、風来坊

そんなことだから奇人変人異人しかいない

―——その一人が俺なのだが

「誰もいないのか」

やたらと広いホールを見渡すが人の気配はない

確か今日は祭りだと誰かが言っていたからそのせいだろう

―———俺は行かなくていいのかって?

金がないからいけないんですが何か?

脱線した

取り敢えずこの少女をどうするか………

「ビショビショなんだよな」

このままでは風邪をひいてしまう

「脱がすか」

そう言ってホールのソファーに少女をのせフード付きのコート脱がす

あくまでも人命救助 やましい気持ちはない

「!?」

裸だった

コートの下は一糸纏わぬ裸だった

「なぜ裸……?」

下着も何もつけておらず大事なところも丸見えである

整った顔立ちに真っ白な肌と髪

ひとつの芸術である

「…….?」

だがその少女の体におかしいものが二つあった

その一つは下腹部に紋章があるのだ

「なんだこれ……..」

そう言ってその紋章に触ろうとする

―————と

「ただまー!おなかを減らしているであろうカザミにお土産だよ!」

そう言って玄関をあけてやってきたのは風来荘 205号室住居人アイラである

「感謝するがいい…….って、ん?」

そう言ってこちらを見る

否―———凝視する

―—————さて、読者の皆様に問題です

『Q 男子(17+童貞)が裸の少女(推定15~6)を押し倒していたらどう思いますか』

『A 性犯罪』

「貞操の危機!」

「あぶねぇ!」

そう言って一瞬で距離を縮ませ俺の顔に膝をぶち込もうとするアイラ

間一髪でかわす

「童貞こじらせすぎてペドに堕ちたか……」

「こじらせてねえよ!」

童貞なのは否定しないが!

「じゃあなぜ脱がせている!」

「風邪ひきそうだからだよこの子が!」

「え?」

そう言うと少女を見る

ビショビショなことに気づき少し落ち着いたのかてくてくとこちらへ向かってくる

「——————誰?」

「知らん」

そう言って今まで経緯を簡単に話す

「—————怪しすぎない?」

「かくまってくれって言われたんだ

かくまうしかないだろ」

「優男すぎるでしょ」





「ん…ここは…?」

眠り続けていた少女は目を覚ました。

周りを見渡すとそこには本の山。

普通に積み上げられているのもあればピラミッドのようになっているのもある

取りにくくはないのだろうか

それと座椅子で眠る少年。この部屋の主カザミである。

周りは雑に積み上げられた本の山が置かれ動きづらそうだ

「ここはどこだろう....」

少女は半ば無意識的に呟くと起き上がり部屋の出口へと向かう。

その時に本の塔にあたりバラバラと崩れ落ちる

『————!』

少女は声にならない叫びをあげカザミの方を見るが当のカザミは

「飯…..肉をくれ….」

などと寝言を呟き起きる様子はない

『今のうちに出ていこう…..』

そう思い少女は部屋を抜け出し駆けだす。

出口を探し今すぐ『あの場所』へと向かわなくてはと

「早く抜け出さないと….フブッ!」

「ぬおぉ?」

ゴス!と鈍い音がし少女は尻もちをつく

「いったぁ…」

何かにあたった少女は顔を上げる。

そこには2mほどの裸の男(ムキムキ)が立っていた

下はもちろんはいてない。真っ裸。裸族

「」




「あれ?」

カザミが起きると先ほどまでいたはずの少女の姿がない

部屋を見渡すと組んであったはずの本タワーが崩れている

「まさか逃げたとか….」

「どうしようか」とカザミが考えていると廊下から

「はなせ!放してよこの変態!!」

と怒号が飛んでくる

「なんだなんだどうした」

そう言ってドアを開けるとそこには全裸の男に脇から支えられ持ち上げられる少女の姿があった。

「はっはっは元気ですなあ。新入りさんは。」

「はーなーせー!!....ってあ!あの時の人!助けて!」

『うっへえー関わりたくねえ―』

心の中でそう思いつつも

「ヘラクさん」

「おお!これは異端の二階、階長カザミ殿ではないですか。ご機嫌いかがかな?」

「やめてください。俺だってなりたくて階長になってるんじゃないですから。

 あとせめて自分の部屋以外では服を着てください。」

「はっはっは何をおっしゃいますか。我が筋肉は芸術。服など不要ですのに。」

「そんなんだから奇人の三階に住まされてるんですよ」

「はっはっはこれは手厳しい」

先ほどから大仰に笑う2mの変態の名前はヘラク。

奇人の三階のなかでも変態性の高い変態だ。

夏でも冬でもずっと裸。服を着れない呪いにでもかかっているのだろうか

本人曰く筋肉こそ至高の服らしい。

「それにしてもヘラクさんが二階に来るなんて珍しいですね。」

「いやあ、たまには外を走ろうかと思い玄関に向かっていたらこの階層で少女が我が筋肉に飛び込んできたのでな。見たことないから新入りであろうし二階の住民かと思い二階生の判断を仰ごうと思っていたのだよ。」

「裸でか。」

こんなふうに自ら自警団に捕まりに行く変態とコミュニケーションをとる

「取り敢えずその子の事下ろしてやってください。不憫です」

「おお、これは失敬。」

そう言って少女をゆっくり下ろすヘラク

すると少女はすごい勢いでカザミの後ろに隠れる

「さあ!やっちゃってください!あの時の人!この変態に鉄槌を!」

「いやいや何言ってんだお前。倒せるわけないだろ仮にもうちの最強格の一角なんだから」

「はっはっは。してこのお嬢は二階生かな?」

「いや?俺が保護した子だが」

「ふむ、ならば新入りになる可能性はあるという事か」

「いや?こいつなんか行かなきゃいけない場所あるとか言ってたからな」

「そうですよ。何を言っているので変態。私はこんなところに長居はできません」

「そうでしたか。なら早くそこに迎えるといいですな。」

「えぇそうです。私、風来荘に行かなきゃならないのですから」

「「ようこそ新入り。」」

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風来荘のシンフォギア にらたま @arashi0831

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