戸惑いと彼の涙(2)








もう一度引っ張られると、今度は遥貴の横に座らされた形となった。

「ねぇ、何をそんなに心配してんの?」

遥貴は足でシートベルトの様に沙羽をソファーに縛り付けると、沙羽に尋ねて炭酸水を喉に流し込んだ。

「へ?」

核心を突かれた沙羽の心臓がドキッと跳ねる。

「だって、俺が飲む事に、良く思ってくれてないでしょ。何かに、豹変するかと心配してんの?」

沙羽の心臓が更に大きく跳ねた。

「そ、そういう訳じゃないんだけど。遥君が疲れてるだろうから控えた方がいいんじゃないかって思っただけで…」

そう辿々しく言い訳をする沙羽に、「へぇ…」と返すと、「それなら大丈夫。そこまで疲れてなかったし、それに少し寝たら疲れは無くなったから。」と、目を細めて笑った。

炭酸水のボトルをテーブルに置いた遥気が沙羽の肩に顔を預けて腕を回した。

沙羽は益々身動きがとれなくなってしまって「お風呂は?入ってくるんじゃなかったの?」と、戸惑いを隠すためにそう言ったものの、その声は裏返ってしまって失敗に終わった。

「まだいい。………わざわざブラ止め直したんだ…」

遥貴がそう呟いた時には、遥貴の手は既にブラの下に差し込まれていた。

「あ、また!まってダメ。」

沙羽が下着の圧迫感がなくなった事に慌てて胸元を抑え込むと、遥貴が「なんで?」と言って、背中や脇腹、腹部に手を這わせて沙羽が思わず息を漏らした。

「それは…」

どうにか声にしたものの、その後の言葉が出てこなかった。

それも当然だった。

一体なんて言えば良いのだろうか。

遥貴の唇が首筋に触れたかと思うと、甘噛みをされて歯と舌が軽く当たる。

「ふ、うぅ、だめ!」

声が裏返り、身体をくねらせると遥貴の手が更に下着の中に滑り込んできて、沙羽の乳房を包み込んだ。

「だ、だめ!とにかくだめなの!黒谷さんだからだめなの!」

沙羽が声を荒げると、遥貴に背を向ける様に身体を丸めた。

束の間の沈黙が訪れて、沙羽はハッと我に帰った。

思わず黒谷の名前を口にしてしまったからだ。

「…………」

「……………」

「…………………」

沙羽も遥貴も言葉を見失った。

沙羽は、次に言葉を発する可き事は詭弁かそれとも説明か…。説明するとしたらなんと説明すればいいのだろうかと、悶々としていると「黒谷って?」と、遥貴が低い声で問い質した。


遥貴に背中を向けている沙羽には、遥貴の表情が見えない。

どんな顔をしてるのだろうかと思うと、振り向くのも恐ろしく感じた。


怒ってる…訳、ないわよね。だって私達ちゃんと付き合ってるかどうかも怪しい関係だし。

でもなんで、怒ってそうな低い声で聞いたのかしら…

分からない。

とにかく不可解に思っているはず。それは間違いないはずだわ。

なんて説明したらいいのかしら…


沙羽が恐る恐る振り向くと遥貴の様子を伺った。

すると、遥貴が微笑んだので釣られて沙羽も微笑んだ。

だが一瞬で遥貴の顔からは表情が消え去ってしまった。

「で。黒谷さんだからだめって何?意味が分かんないんだけど。」

そう問い詰められてしまった沙羽が、思わず目をぎゅっと閉じる。


意味分からないのは、私もよ!

なんで機嫌悪いのかしら。ただ疑問に思ってるだけなのよね?

まさか、性欲を消化できない事に不機嫌になってる訳じゃないわよね…

遥君はそんな人じゃないものね。そうよね!絶対に違う!


「なんで、黙ってんの?黙ってると分からないんだけど。」

「…………」

「ねえ、黒谷って誰?」

沙羽の心臓がギクリと音を立てた。

そんな風にはっきりと聞かれたとしても、どう答えて良いのかすら分からない。


『貴方の本当の人格よ。』

なんて、言える筈がない。


『遥君、貴方は、本当は実在しない人格なのよ。』

と、本人を目の前にして言えと言うのか?


余りにも残酷だ。



ごめんなさい。

私は何も貴方に言ってやれない…。



そう思い巡らせていると、硬く閉じた目頭が熱くなってきた。

そして、じわりと涙が溢れ出してきた。

その時、「…まさか、好きな奴とか?」と、遥貴の言葉が続いた。

「え、違う!それは違うわ!」

沙羽が硬く閉じていた目を開けて、勢いよく顔を上げると遥貴と目を合わせた。

また暫く沈黙が続く。しかし、その沈黙を破ったのは遥貴の失笑だった。

沙羽は自分の目と耳を疑った。

「な、なんで笑ってるの?」

遥貴の態度に理解できずにいる沙羽は、今にも泣きそうな顔で声を上げた。

遥貴が俯いて口元を押さえて必死に笑いを堪えようとしているのが分かったからだ。

その遥貴の態度は沙羽にとって、とても信じ難いものだった。

「ごめん。別に泣かせるつもりはなかったんだけど。」

そう言って遥貴は、沙羽の目元を指でなぞった。

沙羽はまた言葉を失った。

遥貴もそんな沙羽の様子を見てからなのか真顔に戻り黙り込むと、今度は先程とは違う苦笑いを浮かべた。

「…ねぇ、俺達、付き合う?」

「へ?」

今日で何回目になるのだろう、沙羽の声がまた裏返った。

突然の事過ぎて、一体どういう事かと戸惑う沙羽は、遥貴の右目と左目を交互に見て目を泳がせる。

それは、願っても無い事ではある。

しかし、相手は実在しない黒谷の人格。

霧のような存在の人格なのだ。



無理に決まってる…



縦には振れない首を微かに横に動かした。

「え、もしかして…、俺の勘違いだった?」


勘違い?


遥貴が珍しく戸惑った表情を見せると、沙羽は何の事を言おうとしてるのだろうかと思いながら次の言葉を待った。

「沙羽も俺の事…好きでいてくれてるかと思ってたんだけど…。」

そう言って遥貴は沙羽から目を反らすと、テーブルの上のビールを手に取った。

「勘違いだった?」

もう一度遥貴が沙羽に目を向けると、自嘲の笑みを浮かべた。

沙羽はそれを見ると、居たたまれなくて大きく首を横に振った。

「違わない。私も、遥君が、好き…」


だけど…


そう言いかけて沙羽は俯いた。

「遥君も私の事、好き、なの?」

俯いたままの状態で遥貴に確認を取ると、遥貴は一つ返事をして手に持ったビールには口をつけずにテーブルの上に戻した。

「だから、こうやって誘って一緒にいる。………もっと一緒にいて、知りたいと思ったから…。沙羽の事を…。」


「俺じゃダメなの?」

そう言って、至近距離で真面目な顔をして見つめる遥貴。

本当だったら何の迷いもなく『ダメじゃない』と言って、その肩に手を回したい。

本当だったら手放しで喜びたい。

だけど。

沙羽にできた事は、必死で横に首を振るだけだった。

「それって、付き合ってもいいっていう返事として、受け取ってもいいって事?」

遥貴にそう聞かれて、直ぐに首を縦に振れなかった沙羽だったが、暫くすると意を決してゆっくりと頷いた。

「良かった。」

そう言って遥貴は横から沙羽を抱きしめた。

そんな遥貴に、沙羽はどうやったら上手く言えるか分からなかったが、とりあえず「だけど…」と一言だけ発すると、「いいよ、わかってる。」と遥貴が沙羽の言葉を遮った。

「嫌がってる相手に無理を強いるような事はしないから。…それに、潮干狩りで少し熱に中ってたしね。」

「え、………うん。まぁ…。」

「疲れてたのに、ごめん。」

そう言って遥貴は沙羽に向けてた体を動かすと、ソファーに座りなおしてビールを手に取った。

ソファーに縛り付けられた沙羽の身体が自由になる。

沙羽は、急に態度を改めて謝る遥貴に戸惑いながら「そんな…謝らないで…」と言うと、少しばかり怪訝そうに遥貴の横顔を見つめた。

だけど、どうにか事態を回避できた事に、ほっと安堵していたのも事実だった。

「飲み直そ。付き合ってよ。」

遥貴がそう言って微笑んだ。

遥貴に付き合い飲み始めて一時間程経った頃には、沙羽はもう随分と酔いが回ってきていた。




「そういう事って、よくあう事なの?」

テーブルで身体を支えるようにして、沙羽が前のめりで頬杖をつく。

所々呂律が回らなくなってはいたが、耳が慣れたのか、遥貴にはきちんと伝わっているようだった。

「うん、まぁ、ちょくちょくあるよね。そう言った事は。だからもう慣れてるけど。」

「そっかぁー。大変らったね。最初は戸惑ったれしょ?恐くらかった?」

「まあ、怖いというかね。うーん。驚いたかな…。」

遥貴はチーズを一口食べると、今にも目が潰れそうな沙羽を見て「それよりさ。明日…」と、話を切り替えた。

「帰りに何処か行きたい所とかないの?」

「え?明日?行きらいとこお?」

「うん。」

「え~、何処があうかしら~。悩むわ~~」

沙羽が顔を綻ばせながらうーんと唸ると、今度は突っ伏してしまった。

その状態で顔を横に向けると、また唸って「何処がいいかひら~。」と呟いた。

遥貴がビールを飲み干して沙羽の返事を待つ。

しかし、数分経っても返事は返ってこなかった。

「え?寝てる?」

遥貴が沙羽の顔を覗き込むと、沙羽は顔を綻ばせたまま寝息をたてていた。

遥貴は思わず笑ってしまった。

「その顔…。」

そう呟いて天井を仰いだ。

「………なんで俺は墓参りに行きたいなんて言ってしまったんだ?しかも本当の事まで喋って…」

本当の事とは、遥貴の職の事だった。


あり得ない…


遥貴は首を左右に振ると溜息を溢して沙羽を見つめた。

「俺も熱に中ったのかな…」

また一言呟いた。

すると、沙羽が急に、ふふっと笑って再び寝息を立てたので遥貴もそれに釣られてしまった。

ゴミは捨てれないし、基には飛び掛かるし、翔平なのに、…妙なところで節度はあるし。

料理も出来ない癖にお茶やコーヒーには拘って、嘘が下手で、なんか一人で色々考え込んで勝手に泣いてるし……

「なんなんだ、あんたは…」

そう言って手を伸ばすと、沙羽の顔にかかる髪をそっとかきあげた。

また、ふふふと沙羽が笑う。

「本当、翔平だし。」

遥貴は溜息をついた。


だけど、悪くない…


そう思ってしまってる自分自身に、遥貴は、やっぱり熱に中ってしまったんだろうと、自嘲する含み笑いを一つつくと「沙羽……」と名前を口にした。

また沙羽を眺める遥貴から、溜息が溢れた。







「ほら、ショウヘイ。取ってこい。」

そこには、猫にボールを投げて、取ってくるように指示する男児がいた。

だけど、指示された猫は視線を動かしただけで、ピクリともしない。

従順な態度を取るどころか、太太しい態度で仰向けのまま、更には昼寝を再開させようと目を閉じた。

「ショーヘー、なんで取って来ないんだ!太るぞ!」

身動ぎ一つしないそのショーヘーと呼ばれたその猫に、閉口した様子の男児ががくりと項垂れた。

「ハルキ。翔平は犬じゃないんだ。取ってくる訳ないだろ。」

少し離れたところで、壁を背凭れにして本を読んでいたもう一人の男児が、そのハルキという男児に向かって呆れ顔を作った。

「じゃあ、どうするんだよ。今でも太り気味なのに、これ以上太ったら…。」

そう言ってハルキは溜息をつくと、翔平をひっくり返し、その猫の背中を枕に寝っ転がった。

ハルキは翔平のお腹を掴むと、「お前、肥満は不健康なんだぞ?知らないのか?」と猫に話しかけ、フヨフヨとした猫の腹部を摩った。

すると、お腹を摩られた事が不快だったのか、急に身体を激しくくねらせると、ハルキの頭から摺り抜け立ち上がった。

その拍子でハルキは、フローリングの床に頭をぶつけて鈍い音を立てる。

「いってー!」

ハルキが頭を摩ると、もう一人が「馬鹿だな。大丈夫か?」と笑いながら言葉をかけた。

「この前テレビであってたレーザーポインターってのを買ったらいいんじゃないの?自分の小遣いで。」

笑ったことに対して睨むハルキに、そのもう一人が一つ提案をする。

「えー、ハジメも半分出してくれるんだったら買うけど。」

「………悪い、それなら別の手考えるんだな。」

「はー?ハジメは翔平が心配じゃないのかよ~!?」

「別に僕は、心配してない訳じゃないし。けど、ちょっと欲しい本があるから…」

口籠もらせて言い訳をするハジメに、ハルキが目を細め、冷めた色を浮かべて視線を送る。

「なんだよ。その目は!」

ハジメが尚冷めた目で視線を投げ掛けてくるハルキに異を申し立てた。

その猫の翔平が生涯を終えたのが、そんな会話が為されてから一年と三ヶ月ほど経った頃だった。

翔平はハルキとハジメの二人が生まれた頃から既にいて、十二年もの間生きてきた。

そんな翔平は、二人にとって家族であり、兄弟でもあり、友達のような存在だった。

そんな翔平が息を引き取ると、二人は当然悲しんだ。

「翔平もきっと、ハジメとハルキと一緒に暮らせて幸せだったと思うわ。」

母親の貴子が、落ち込んで涙を流す二人を柔らかい口調で宥めて二人の背中を摩った。

「だから二人が泣いてると、翔平も悲しむよ?」

そうやって二人を宥める貴子もまた、二人以上に涙を流していた。

貴子はとても涙脆く、情の厚い母親だった。


いつもそこに居て、下手したらここの家主はこの猫なんじゃないかと思われても可笑しくないくらい、いつもソファーの中央の特等席は決まって翔平が安座していて、人間の様に仰向けで寝て、人間以上に存在感が大きかった翔平。

その翔平が動かなくなると、その体は冷たくなって、骨壷に納められてしまった。

もうあのフヨフヨとして柔らかく、ふわふわで温かい毛並みの翔平に触れることも、翔平のお気に入りだったレーザーポインターで、一緒に遊んでやる事も出来ないのだ。

二人は、命が二度ない事を知った。

そしてハルキは、この頃から獣医になる夢を抱いた。

いつの日かハルキは貴子に聞いた事があった。

「なんで生き物は絶対死ななきゃいけないのかな。」

すると貴子は優しく微笑んで、ハルキに話し始めた。

「生き物はね、実は、死んだ様で眠ってるのよ。」

「眠る?」

「そう。眠ってるの。」

ハルキはそんな貴子に、一体何を言ってるのかと眉を寄せる。

「万華鏡ってあるでしょ?」

「万華鏡?…って、あの石川の婆ちゃんが持ってた望遠鏡の様に覗くやつ?」

ハルキは益々訳が分からず首を捻った。

「そう。その万華鏡。回すと色んな柄の形になって、全く違うものの様に見えるでしょ?一度作られた柄は、なかなか再現できない。だけどね、よく考えてみて。その中身の材料は何も変わってないのよ。この地球って星もね、それと似た様なものだと思うの。」

「え?」

貴子はふふっと声を出して微笑んだ。

「翔平も、お母さんもお父さんも、ハルキもハジメも、おじいちゃんやおばあちゃん達も、人間だけじゃない。動物も植物も道端の石ころ一つにしたって、この地球っていう万華鏡に納められていてね、この地球の一部なの。そして、生き物は、動かなくなって、死んで終わった様に見えるけど、この地球の中にちゃんと存在してるのよ。」

貴子がそう言うと、ハルキは顔を顰めて聞いた。

「それって、幽霊って事?」

貴子はまた微笑み返す。

「それが幽霊と言うのかどうかは、お母さんには分からないけど、だけど、ハルキが怖がる様な存在じゃないと思うわ。大丈夫よ。」

「いや、べつに!怖がってないし!」

貴子は目を細めると、強がってみせるハルキが可笑しくて笑った。

「だけど、植物を思い出してみて。学校でもう習ったかしら。花も草も木も、枯れてしまって姿形が無くなってしまっても、環境が揃うと、また芽を出してくるでしょ?それはね、植物だけじゃないと思うの。お母さんは。きっと、猫も人間も、環境が揃うと、また、同じ様な猫や人として生まれてくると思うのよ…」

「それって、どうゆう事?生き返るって事?」

ハルキは貴子の言葉を遮った。

「うーん、どうかしら。ハルキの思ってる様なものとは、ちょっと、違うと思うわ。記憶も無くなるだろうし、今の事は覚えてないだろうし。同じ様で全く新しいハルキやお母さんになると思う。」

「うーん、よくわかんないけど、リセットされて新品の状態って事?」

「ふふ。そうね。きっとそうじゃないかしら。だけど、そうね。多少は違ってくるかもしれないけど、今と似た様な姿形で生まれるって事は、少なくても今のDNAとも似通っているだろうから、ずっと先の、未来に生まれたお母さんの様なお母さんは、また、お父さんの様な人を好きになって、そして、ハルキやハジメのお母さんになるかもしれないし、その時に翔平に似た猫も飼って、今と似た様な形で暮らしてるかも知れないわね。」

「え?なんか良くわかんないけど、また同じ様に暮らせるかもしれないって事!?」

ハルキは目を丸くして驚くと、貴子はより和かに微笑んで、「そうね。きっと、そうに決まってるわ。」と言って続けた。

「お父さんもお母さんも、ハルキもハジメも、みーんなが、行いが良く、正しく生きて行けたらね。きっとまた、一緒に暮らせるんじゃないかしら。もしかしたら、今よりもっといい状況になってるかも知れないわね。」

九歳のハルキにとってその貴子の話は、とても印象深くハルキの中に残った。


行いが良ければ…


そう言って笑う母、貴子の姿が白ずんでいくと、今度は家族全員の日常の姿が浮かんできた。

父宏基に、貴子、ハジメに翔平もいて目の前には懐かしく居心地のいい居場所がある。


だけど。


そこにはハルキという人物は存在しなかった。

写真立てにある写真にもハルキは写っていない。

ハルキの机もランドセルもないのだ。

ハルキは理解した。


あぁ、そっか。当然だ。

俺の行いが悪かったからなんだな。

当然だよ。

こうなると分かってた。


だけど、どうしても許せなかったんだ。


出来る事なら俺だって、あんな記憶は無くしてしまいたかった。


だけど、そう上手い具合に記憶は無くなってはくれないし、どうしようもなかったんだ…


ごめん…


母さんごめん…



夢の中でそう思うと、遥貴の目頭が急に熱くなり、目尻から耳に向かって流れる温かい涙の感覚で目が覚めた。

遥貴は暫くぼんやりと天井を見つめた。

隣では沙羽が此方に身体を向けて寝息を立てている。

あれから眠ってしまった沙羽を、隣の部屋のベッドに運ぶと、片付けと入浴を済ませてから遥貴も沙羽の隣で眠りに就いた。

遥貴はゆっくりと体を起こして時計を見ると、まだ五時前で、白いレースのカーテンは明け方の薄明色に染まり、その色を変えていた。

遥貴は未だに涙を溢れさせる目元に手を当てた。

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虚空に泣く悪魔 理零人 @Rioto_kisaragi

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