第18話 宝物が増えました

 桜坂公園での一件から1ヶ月。


「涼介クーン♡」


 桜坂高校剣道部の躍進を祝賀する会の会場で、美羽が涼介の腕に抱きついた。


「なんでお前、劇的にキャラ変わってんだよ!」

「だって、前のままだと涼介クンに覚えてもらえないもーん」


 美羽は高校剣士を卒業した後、髪を染め、ギャル風のメイクをするようになった。気分を一新するためだったが、やってみると、元々の性格に合っている気がする。


「そして、なんでお前ら1年女子は、当たり前のように俺にタメ口をきくようになるんだ。君付けすんじゃねぇ。『先輩』か『さん』をつけろ!」


「いいじゃないの、涼介君」

 と片倉沙織がオレンジジュースを片手に言う。


「マネージャーとしてよく頑張ってくれてるんだから。剣道部のマネージャーなんかやろうって子、なかなか見つからないわよぉ」


「まあ、それはそうですが」


 ***


 6月半ばから行われた関東高等学校剣道大会で、桜坂高校は、男子では伊吹涼介、女子では片倉沙織、浅村咲が個人戦に出場、揃ってベスト4以上の成績を収めた。


 さらに女子は、団体戦において、準決勝で神奈川県のとうしん学院、決勝で埼玉県のとうようだいあげという名門校を次々に破り、創部以来初の優勝を果たした。


 その快挙を成し遂げたメンバーは、こう記録されている。


  先鋒 浅村咲(1年)

  次鋒 そうなえ(2年)

  中堅 とうどう(2年)

  副将 おおめぐみ(3年)

  大将 片倉沙織(3年)


  マネージャー 大園美羽(1年)


 決勝は2勝2敗1引き分けで代表戦にもつれこんだ。時間無制限で、先に一本を取った方が勝ちとなる。

 チームリーダーでもある沙織は、その代表を1年生に託した。


「浅村さん、お願い」

「はい!」


 ***


「それじゃ、撮りますよー」

 と1年の男子部員がカメラを構える。


 さなしゅういちというゴールデンウィーク明けに仮入部した新顔だ。持ち前の親しみやすい性格で、早くも部内のいじられキャラとなっている。涼介からは「お前に真田という苗字はもったいないから、田中に改名しろ」と言われている。


「浅村さーん」

 と沙織が咲に呼びかけた。


「あなた、何でそんなはしっこにいるの? 真ん中にいらっしゃいよ」


「ボ、ボクはここでいいです。は、端っこが落ち着きます」


 咲は極端な照れ屋で、試合以外で注目されるのが苦手だ。

 そんな咲にとっても話しやすい相手が、涼介、美羽、秀一だった。 


「ダメ。あなたが優勝のたてやくしゃなんだから。大園さん、連れてきて」


「はーい♡」

 と返事をして、美羽が咲の背中を押していく。


 そのとき、一瞬だけ後ろから抱きついて、耳元でささやいた。


「咲、ありがとう。あなたに出会えて良かった」


 ***


 美羽の部屋には、宝物をコレクションしている棚がある。

 そこにまた一つ、掛け替えのないものが増えた。


 祝賀会のとき、桜坂高校剣道部のみんなで撮った写真だ。


 男子部員の中心には、2年生ながら団体戦の大将としても活躍した涼介。女子は優勝メダルを首からげた団体戦のメンバーたち。その中心には、団体戦優勝の賞状を持った沙織、個人戦優勝の賞状を持った咲がいる。


 その写真の端っこで、Vサインをしたマネージャーがニカッと笑っている。




(第二章「モブですらない私の生きる道」 完)

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