第17話 ラスボス来襲
打ち終わりと同時に祐介の裏に抜けていた涼介は、くるりと反転して竹刀を中段に構え直すと、祐介に声をかけた。
「まだやるか?」
二本目をやる意味はないだろう。
すでに決着がついていることは、誰の目にも明らかだ。
涼介はできることなら、彼らにこの場から大人しく去ってほしいと考えている。
本来なら、祐介たちは警察に突き出されるべきだろう。
しかし、今回はこちらも十分に反撃したし、警察沙汰に巻き込まれたくない時期でもある。それに彼らに恨みを残すと、美羽が何をされるか分からない。
戦いに勝った上で、寛大に対処する。
それが涼介の方針だった。
ところが、祐介が竹刀を下ろして、
「いや、もう……」
と言いかけた瞬間。
「おーい、涼介」
と
「面白そうなことやってんじゃねーか。俺も混ぜろよ」
桜坂高校剣道部3年(2回目)、天童豪太だ。
***
身長が190センチ近くある。
まくり上げたシャツからのぞく肩や腕のたくましさが尋常ではない。
(な、何だこのバケモノは……)
と不良少年たちは驚愕した。
物干し竿のように長い木刀を肩に
全員束になってかかっても、暴力では絶対に勝てない、と一目で分かる男だ。
「ん? なんだこいつらは。ぶちのめしてもいいか?」
と言って、豪太が木刀をヴォンッと振った。
当たれば死ぬと一目で分かる。
しかも、猛烈に頭が悪そうで、常識や言葉による駆け引きも通じそうにない。
事態が終息しかかった今になって現れた圧倒的ラスボス感のある男に、不良少年たちはドン引きしたが、それは涼介たちも同じだった。
涼介が桜坂公園に来たのは、祐介の悪評を知っていたものの、どうすればいいか分からなかった咲が相談したからだが、2人は他の誰にもしゃべっていない。
咲が涼介に駆け寄って言う。
「なんで豪太が来たんだ!?」
「俺にも分からねぇ。あの人は争いの匂いを嗅ぎつけて、どこからともなくやってくるんだ」
「あいつ、本当に人間なのか」
「だから言っただろ。あの人は野獣だ」
「野獣にそんな能力ないだろ」
***
豪太の目に美羽が映った。涙と鼻血の跡が顔に残っている。
バカなりに考えていたのだろう。少し遅れて、顔に怒りの表情がみなぎる。「何だかよく分からないが、うちの部員が傷つけられたようだ」と理解したのだ。
それを見た涼介が言う。
「おい、深町。逃げろ」
「何だよ、急に。全員怪我人にしてもどうってことないんじゃなかったのか」
「怪我で済むならいいが、大量虐殺はまずい。お前らのために言ってるんだ。早く逃げろ」
「わ、分かった」
そう言って祐介たちは逃げ出したが、ブランコとシーソーに座っていたモブキャラが逃げ遅れた。その2人に豪太がゆっくり歩み寄っていく。
「おう、お前ら」
と言って、木刀をヴォンッと振り、顔に剣先を突きつける。
「ひ、ひぃ……」
「今度暴れたくなったらよ、うちの道場に来い。俺が……」
と言いかけて、言い直した。
豪太の後ろに涼介、咲、美羽が控えている。
「俺たちが稽古をつけてやる」
「は、はい……」
かくして、事件は豪太の来襲により、涼介の配慮はあまり関係なく終結した。
***
不良グループが全員去った後で、涼介が言った。
「ところで、天童さん。下駄箱に退部届を入れておいたんだが、あれは……」
「おう、それなんだがよ、涼介。さっき便所に入ったとき、トイレットペーパーがなかったもんだから、それでケツ
咲と涼介は
「やっぱり最低だな、この男」
「天童さん。あんた、なんで剣道部の主将なんか引き受けた……」
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