第二章 モブですらない私の生きる道
第1話 モブにはなりたくない!
高校に入学するまで、美羽は自分のことをそれなりの剣士だと思っていた。
中学時代には、区立の強豪として知られる
そんな美羽が一般入試で私立桜坂高校を受験したのは、
「ここでなら、あたしもレギュラーとして活躍できて、全国大会に出場できそう」
と思ったからだ。
たとえば、
その点、桜坂高校は剣道の名門校ではない。近年、にわかに実力をつけて、強豪校の一角として知られるようになったが、部員数がそれほど多くないし、女子で有名な選手といえば、今年3年になる
ここでなら、あたしも団体戦で全国大会に出場できるかも知れない。
もしかしたら、ヒロインにだって……。
そんな野望が打ち砕かれたのは、入学前、合格者たちが自主的につくっていたSNSグループで、ある剣士が桜坂高校に入学することを知ったときだ。
この学年で剣道をやっている者なら知らない者はいない、超有名人だ。
剣道日本一の座に二度輝いている剣豪・
しかも、モデルや芸能人としても人気が出そうなルックスを持ち、剣道関連の雑誌でしばしば取り上げられているだけでなく、一般誌やネットでも「美少女剣士」「可愛すぎる天才剣士」などと呼ばれているのを美羽は見たことがある。
最悪だ。
「何であんたが桜坂なのよ!」
と叫びたかった。
もっと剣道の名門校に行けばいいのに。そこでだってヒロイン確定なのに。
***
入学式の当日、美羽はさらに最悪な事実を知ることになる。
「何であんたが同じクラスなのよ!」
桜坂高校にはスポーツ
咲は当然、その制度による入学者だろう、と思っていた。
ところが……。
入学式後に美羽が指定されたクラスに行くと、彼女がいた。
咲が一般入試で桜坂高校を受験したのは「勉強もしっかりさせたい」という両親の願いによるものだったが、そんなことを美羽が知る
嫌みだ、これは嫌みだ、と思った。
さらに不運は続く。
最初の席順は出席番号で決められたが、浅村咲が1番、大園美羽が2番。窓際の黒板に近い目立つところで、前後の席になってしまった。
「何で『い』『う』『え』がいないのよ!」
伊藤とか上田とか榎本とか、クラスに1人はいそうなものなのに。
***
担任の教師が来て、クラスごとのオリエンテーションが始まるまでの時間、男子たちが早速、咲を取り巻き、ご機嫌を取ろうとしはじめた。
「ねぇねぇ、浅村さんって剣道強いんでしょ?」
「ネットで見たことあるよ。『可愛すぎる天才剣士』って」
「写真より実物の方が可愛くね?」
あの、あたしも剣道やってるんですけど。
そこそこ強いんですけど……とアピールしたい。
しかし、そんなことを言い出せば、実績で比較されて、墓穴を掘るだけだ。ここは、相手を立てる性格の良い子を演じる方がいい。
「ねぇねぇ。あたしも剣道やってるんだけど、浅村さん、本当に強いんだよー」
と明るい感じで会話に入ろうとした。
ところが……。
男子の一人が冷たい目をして言った。
「あ、ごめん。君に話しかけてないから」
これには深く傷ついた。
(こんな公開処刑がこれから毎日続くのか……)
美羽は早くも、学校をやめたくなった。
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