第14話 認めない

 目が覚めたとき、咲は病院のベッドの上にいた。

 体を起こすと、誰かがベッドを囲むカーテンを開け、中を覗き込んだ。


「気がついたか?」


 涼介だ。


「ここはどこだ?」


「都立桜坂病院。お前、救急車で運ばれたんだよ。のうしんとうだそうだ。あと、けいついねんしてる。だが、安心しろ。脳にも頭蓋骨にも異常はねぇ。大した石頭だ」


「なぜだ? なぜそんなことになった?」


 咲がそう問いただすと、涼介は自分のスポーツバッグから咲の竹刀を取り出して見せた。真っ二つに折れている。


「お前は天童さんの諸手面を竹刀で受けた。だが、あの野郎は竹刀ごとお前の面を打った。それで、この通りだ。天童さんの竹刀も折れたがな」


「そんな……そんなことがあり得るのか?」


「普通はあり得ねぇだろうな。だが、あの人は普通じゃねーんだ。面を打った後、相手の裏に抜けようとか、引いて間合いを取ろうとか、あの人は一切考えない。そのまま振り下ろす。相手を股の下まで真っ二つに斬るつもりでな」


「それでもあり得ない!」


 と涼介の方に顔を向けようとして、咲は「痛ッ」と首を押さえた。


「無理すんな。頸椎の方は全治3週間だそうだ。……だから言っただろ。怪我するだけだって。お前がいくら強いっつっても、常識の範囲内の強さだ。あの人だけ漫画の世界なんだよ。セオリーも駆け引きも通用しない。人間の世界に一匹だけ野獣が紛れ込んで剣道やってる。それがあの人、天童豪太だ」


「……認めない」


 と咲がつぶやいた。

 悔しさのあまり下唇を噛んでいたのか、血が滲んでいる。


「そんな剣道、ボクは絶対に認めないぞーーー!」

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