第2話 どSな副主将
男子剣道部の部室は、グラウンドに面している。咲がそこまで辿り着くと、ドアが開いていた。誰かが「週刊少年ジャンプ」を顔に載せて寝ている。
それが伊吹涼介だった。
「あの……」
と咲が声をかけると、涼介は「週刊少年ジャンプ」を顔に載せたまま言った。
「入部希望者か? だったら、女子の部室に行って、ノートに名前を書いとけ」
「いや、まだ入部するとは決めていない」
「だったら見学か? 女子は今日、剣道場で練習してるぞ」
「見学する気もない」
「じゃあ、何だよ?」
そう言いながら体を起こした涼介は、少女を見て「おや?」と思った。見覚えがある顔だ。
咲は、男子顔負けの実力に加え、その美貌から、剣道関連の雑誌やサイトでしばしば「美少女剣士」として写真入りで取り上げられている。
「お前、全中を二連覇したやつだな。名前は、えーと……何だっけ。『ごはんですよ』みたいな名前だった記憶があるんだが」
「ボクは浅村咲だ」
「おお、そうだった。『江戸むらさき』だな」
「浅村咲だ」
「で、その
「この剣道部でいちばん強い人と勝負がしたい」
「いちばん強いって言えば、3年の片倉沙織先輩だな。お前も知ってんだろ」
「片倉さんのことは知っている。だが、女子ではなく、男子も含めていちばん強い人だ」
「男子でいちばん強いのは3年の
「やってもみないで分かるものか」
「何でお前はいきなりタメ口なんだよ。……まあ、それはいいか。とにかく、天童さんとやるのはやめておけ。お前が並の男子高校生より強ぇって話は聞いてる。だが、あの人の強さは人間の領域じゃねぇ。あれは、野獣だ」
「そんなに強いのか?」
「ああ。とんでもなく強ぇ。ただし、知能も野獣並みだから、ルールをろくに覚えてなくて、大会での成績は大したことねーけどな」
「その天童という人は今どこにいる?」
「教えねーよ、バカ」
「じゃあ、ボクが君に勝ったら教えてくれるか?」
「何で俺がお前と勝負しなきゃならねーんだよ!」
「ボクに負けるのが怖いのか?」
「何だと……?」
咲はわざと挑発していた。
強い剣士と戦いたい。戦い、勝って、自分がどれだけ強いのか確かめたい。それが咲の思いのすべてだった。
伊吹涼介という名前に咲は聞き覚えがある。どこで耳にしたのかは忘れたが、自分が知っているということは、この男もそれなりの剣士だろう。
「よーし、上等だ。やってやるよ。ただし、お前が自信満々に吹っかけてきた勝負だ。負けたら、どうする?」
「何でも、君の言うことを聞く」
「俺はどSだ。とんでもねーことさせるぞ」
「かまわない」
「じゃあ、今日の夜8時に剣道場に来い。その時間なら、女子は練習を終えて帰ってるはずだ。ただし、条件が五分と五分の勝負はさすがにやる気にならねぇ。俺が三本取る間にお前が一本でも取ったら、お前の勝ちということにしてやるよ。体当たりもなしだ。それでどうだ?」
「分かった」
こうして、咲はまず涼介と勝負することになった。
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