秋と冬。

春に、彼氏ができたらしい。

あの春に。

あの咲花に。

あの、高嶺の花で、コミュ障で、無口の、咲花に。


私のことを、唯一の友達と言っていた、あの咲花に。


最初は驚いた。

ただただ、驚いた。

私以外と話さないような咲花に。

寂しくはなかった。


けど、

付き合いだしてから、

一緒に帰ることは滅多になくなり、

話す話題は、全部日夏のこと。


つまらない。

つまらないつまらない。

おもしろくない。


いつもは、私の話ばかりで。

いつもは、ニコニコと聞いてくれて。

すごく嬉しそうで。

なのに、今は。


咲花が話してばかりで、

あれしてくれた、これしてくれた、嬉しかった、ドキドキした。

頬を染めて、耳まで赤くして、嬉しそうに話す。


むかつく。

むかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつく。


「なに、妬いてんの?だっさ。」

「あ”?」


イライラしながら、サーブ練をしているところへわざわざやってきて声をかけてくるこの男。

美冬。

ほんと、こいつはいつも私をイライラさせる。


「別に。あんたには関係ない。」

「いや~関係あるっしょ。誰がボール片付けると思ってんの。」


そういえばこいつ、マネージャーなんだっけ。

なんだっけ、故障したんだっけ、確か手首。

まあ、どうでもいいけど。


つかこいつ、男子の方のマネージャーだし。

私関係ないし。


「あんた男テニでしょ。女テニ関係ないじゃん。」

「マネージャーはどっちも一緒だろうがこら。なんもしらねーのな。」


うわムカつく。

なんなの。

ほんと嫌い。

こいつも、その友達の、日夏も。


「てか、私が誰に妬くのよ。」

「日夏にだよ。」


は?

何言ってんの?

ばかなの?

それじゃまるで、私が咲花に恋してるみたいじゃない。


「私は別に咲花のことが好きなわけじゃないから。」

「へえ。じゃあなに、親友取られてさみしいんだ?」

「寂しくなんてない。」


寂しくなんてない。

寂しくなんてないはずだった。

気づけば、頬に何かが伝っていた。


「素直になればいいのに。」


アホだね。そう言って美冬は私を抱きしめていた。

私と美冬しかいない、テニスコートで。

私は美冬に抱きしめられていた。


それは、咲花とは違って、少しゴツゴツしていて、私より背が高いから、肩のところに顔が来て、包み込まれるってこういうことなんだろうなって思った。

それがとても、気持ちよかった。


気づけば静かに泣いていた。


どうして泣いているのかわからない。

何が寂しいのかわからない。

喜ばしいことじゃないか。

あの咲花に彼氏ができただなんて。

私が心配することは何もないじゃないか。


なのに、この心にぽっかり空いた、大きな穴はなんなのだろうか。


「俺にしとけば?」

「え?」

「俺だったら、お前にそんな顔させねえし、こんな悲しい思いさせないし、ずっとそばにいるよ。」


なんでそんな事を言うのだろう。

でも、それはそれでありかもしれない。

この咲花への思いもわかるのかもしれない。

けど、それは、美冬を利用するということ。

美冬はそれでいいのかな。


「あんたは、それでいいの?」

「いいよ。好きなだけ利用すればいい。そっから、俺に落ちればいいから。」


……は?

ナニイッテンノコイツ。

『俺に落ちればいい』

って。え、どゆこと。


「……俺、お前のこと好きだから。だから、いつか、こっち向かせるから。」


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