ばなな。




バナナの皮が廊下に落ちてるなんて誰も思いやしない。


ましてや、それで滑ってコケるなんて……。




気がつくとそこは、檻の中だった。


正しくは、周りは岩場だらけ数十m先に檻がある。


ただ、檻に手は届きそうにない。足場から檻は数メートル離れている。


どこかで見たことのある景色。


でも俺は、いつも外から眺める側だったはず。


なのになぜ……。


ここはどこだ……。



あたりをよく見渡すと、檻の外にはたくさんの人。


人。人。人。


檻の中には、ゴリラ。


ゴリラ。ゴリラ。ゴリラ。


小さいのからでかいのまで様々。


自分自身の体を見れば、まるでゴリラのように毛深く、まるでゴリラのようにでかい手。


まるでゴリラのような、長い顔。


近くのガラスを見ればそこにうつっているのは、ゴリラだった。



俺は、人間だったはずなのに……。



「ウホウホ?(どうしたの?あなた。)」



1匹のメスゴリラが近づいてきて俺に話しかける。


ウホウホとしか言ってないように聞こえるが、ちゃんと意味がわかる。


なんで俺ゴリラ語わかるんだよ……!



一度冷静になって今までの経緯を整理しよう。



学校の廊下を歩いていて、廊下にバナナが落ちていて、気付かずに踏んで、滑って、後ろに転んで、頭打ったんだ。


でもたしか、誰かがなにか叫んでた気がするんだけど……、何も思い出せない……。



「ウホホ!ウホウホホ!(とーちゃん!遊ぼうぜ!)」



小柄な子どものゴリラがよってきて俺に向かってそう言った。


とーちゃん。……てことは、俺はこいつの父親なのか。


人間の時は彼女さえいなかったけど、今は妻も息子?もいるんだなぁ……。



キラキラと目を輝かせてこっちを見ている子どもゴリラが、とても愛おしく見えてきた。



「ウホ。ウホホ?(いいぞ。なにするんだ?)」


「ウホホホ!!(キャッチボール!)」



そう言うなり走り出した。


俺もその後について走り出す。


岩場だらけで正直走りづらい。


でとこの環境にもなれていた方がいいのかなぁ……。



「ウホホ!!!(危ない!!)」


「ウホ?(え?)」


バターンッ



俺はまた、バナナで滑って転んだ。


そこで意識は途切れた……。







「……ーくん。ーーくん!!」


「はっ?!」


「よかった、目を覚ました……。」



再び目を覚ますと、目の前には見たことのある顔。


確か、今席が隣の女子。なんでこいつがいるんだ?


ここは、どこだ?


白い天井、白い壁、体の上にかかっているのは、布団。


自分の姿を見れば、ちゃんと人間だ。


俺、人間に戻ったのか。



「えっ、大丈夫?どこか痛いの?」



気づけば泣いていた。


俺は静かに首をふった。どこも痛いわけではない。しいていうなら、心が痛い。


俺が消えてしまったことで、ゴリラのあの妻は、息子は、どうなってしまったんだろうか。


なんて考えたから。



「どこも痛いところはないかい?」


「先生。どこも痛くないです。」


「そう。にしても災難だったわねぇ、バナナで滑って転ぶなんて。」


「なんであんなとこのバナナの皮があったんですか?」



気になっていたことを保健医に聞く。



「あぁ、それはねー、ゴリラが動物園から脱走したらしいわ。それで学校に入ってきててあの廊下でバナナ食べてたみたい。そこに、運悪くあなたが通ってバナナの皮で滑って、ゴリラとごっつんこ。おかけでゴリラが捕まえられたわって感謝されてたわよ。」



……え。


ゴリラ脱走してたの?



ぼんやりとだけど思い出した。


後ろで聞こえた叫び声、



「おい!!!目の前にゴリラが!!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る