第8話 ワイン

 ワイングラスの脚を人差し指・中指・親指の三本でつまみ、クルクルとグラスを回して、中のワインを回転させる。『スワリング』という方法だ。


 それからグラスの中に鼻先を差し入れ、立ち上る香りを嗅ぎ取る。細かなニュアンスまで。


「カシスにオレンジ、ミント系のグリニッシュな香りも含まれているようですね。印象としてはかなりの良品です」


 グラスに口をつけ傾けて、わずかに口の中にワインが入るようにする。舌の上で転がし、体温でさらに味わいと香りを明確にさせる。


「うん。チェリーのような酸味と柑橘の甘味が印象的ですね。渋味は軽いですから、ボディはライト。軽くスイスイと飲めてしまいますね」


 彼は苦笑しながら評価した。彼はそこまでお酒が飲めるクチではないので、スイスイ飲めるのは彼にとっては危険な誘惑だった。


「では、今宵の一杯に敬意を表して。乾杯サンテ!」


 ワイングラスを高く掲げてから、今度はゆっくりたっぷりと口に含む。舌に・鼻に・喉に、味覚を感じるあらゆる器官が、その美味しさに打ち震える。


「さあ、あなたもいかがですか? 良いワインは人を幸せにしますよ」


 パチリとウィンクをして、彼はあなたにワインを勧めた。この豊潤な味わいを。

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