第7話 奥義

「パァン!」

 両の手が胸前で合わさり、軽快な破裂音が響く。肘を張り、五指を揃えて手首をきっちり90°に曲げ、お坊さんの合掌のようなポーズになる。

「それ…一体何の動きです?」

 青年は小首を傾げながら、師匠である老人に問うた。

「これが、お前の求めていた『奥義』、その根幹じゃよ」

 あまりにアッサリと答えるので、一瞬青年の顔はポカンとした表情になる。

「え…? そんな簡単に教えてしまって良いのですか? もっとこう…試練があったりとか難問が問い掛けられたり、そういうのは無いのですか?」

 老人は眉根をひそめて、さらに返答した。

「『奥義』を教えてくれと言ったのはお前じゃろ? ならばそれを教えてやるのが、師匠である儂の役目じゃ。まあ騙されたと思って、似たようにやってみんさい」


 青年も真似をしてやってみる。肘を張り手首を90°に曲げ、五指を揃えて胸前で力任せに叩きつける。

 ぺちっ

 なんとも情けない音しか出なかった。

「まあ、最初はそんなモンじゃろ。それがちゃんとした破裂音になったら、奥義の一旦は体得できておるて」


 それから何度も掌を叩きつけているものの、老人のような良い感じの破裂音は出せていない。

「しかし…これって何の修行になるのですか? いまいち容量を得ないのですが…」

 眉根にシワを寄せて尋ねる青年に、老人は「ふむ」と顎に手を添えて考える。


「なら、実際に試してみるかの」

 そう言って老人は土壁に向かい、しゃに構えて掌を土壁に添える。壁と掌の隙間は、1cmあるか無いかだ。

「むん!」

 ドシン!

 凄まじい衝撃音と共に掌が土壁に埋まり、無数のヒビが壁全体に行き渡った。

「お前のやっている事は、肩から先の動きだけ。そこに足の蹴り出し・腰や肩の回転が加われば、このくらいの威力はだせる。これが『奥義』じゃよ」

 その威力の凄まじさに驚愕した青年。自分の掌をまじまじと見つめ、さらにヒビ割れた土壁も見つめる。交互に見比べて、改めて奥義というものに触れた実感が湧いたのだった。


「それでじゃな…。この土壁、一緒に修理してくれんかの? やり過ぎでしもうたわぃ」

 老人はペロッと舌を出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る