第7話
会場はこの国を治めているギルドが住んでいる城を入ってすぐの所にあった。
ガヤガヤとボランティアのようなこの活動に思った以上の人が参加している。
何か物凄い強そうな人や見た目が凝っている人も沢山いる。その中ではいくら個性的と言える有野も霞むほどに特色のある人が多すぎる。
「凄いな・・・。なんかやばい人が沢山いる。」
言葉では言い表せない感嘆と恐怖が入り混じった声で呟く。
何故かゲームの中で物凄いデブのキャラクターを作っている人、明らかに現実じゃあり得ないような目の大きさと髪の毛の人、歴戦の戦士の風格を漂わせる人を見ながら、(こう見ると有野って普通だな。)と感じる。
「まぁ、キラーサーカスは中堅のPKギルドで普通のレベルの人は太刀打ち出来ないでありますからな。」
「え?じゃあ何で俺達来たの?」
全く計画性のない発言に呆れた声ではなく、素で聞いてしまった。
だが誠二の目的はキラーサーカスを解散まで追い込むことではなく有野に友人を作らせさっさと茶柱を育てに戻ろうという事だ。
茶柱は現在バッグのペット管理のウィンドウの中でお休みをしている。
それはともかくとしてこうも個性的だと逆に簡単だ。殆どの人が自分の姿に自信を持っているためにそこさえ突けば簡単に懐柔、もとい仲良くなれそうだ。
誠二は早速有野に話しかけた。
「誰と仲良くなりたい?思ったよりも簡単そうだから選ばせてあげる。」
有野は少し考え始めたのか黙ったまま周りを見渡して
「ウン。」
と小さく頷くとようやく答えを出した。
「流石にこんな人達と仲良くなりたくはないであります。」
「お前自分を鏡で見ろよ!!今そういうボケ要らないから!俺何のために来たんだよ!」
「あれ?キラーサーカスを倒す・・・じゃなかったでありますか?」
素なのかボケなのか分からないが何だか話の流れが危ない。
さっさと帰ろうとした瞬間、城の方から一人の男性が出てきた。
この『サガミネワールド・オンライン』に関する知識がまだ疎い誠二でもその姿の人は知っている。
ネットのwikiでも取り上げられている人でこの国の自治をしているギルド「チーム 白夜(ホワイトナイト)」のギルドマスター「白夜(びゃくや)」だった。
現実は知らないが男性でかなり爽やかな風貌をしている。見た目はそれほど凝ってはいないのか髪の毛が長い以外は至って普通の人で誠二も安心した。
この人なら適当に有野を押し付けて逃げられそうだ。
もう少し待ってみると白夜はスピーカーという現実と同じ、拡声器のアイテムを手に持ちここにいる全員に聞こえるような声で話し始めた。
「僕はチーム 白夜(ホワイトナイト)のマスターの白夜と申します。思ったよりも多くの人に集まって頂き感謝します。早速ですがキラーサーカスは知っての通りPK集団です。確かにPKはシステムにより容認されてはいますがそれは許される事ではありません。この些細な問題がゲームに対する偏見を生み、僕達ゲーマーは白い目を浴びせられる、そんなのは御免です。前にも告知した通りレベルは問いません。それぞれ何か出来る事を見つけ、必ずキラーサーカスを解散、そしてPKをしているプレイヤーに制裁を加えたい!」
白夜は力説し、自分の本心を語る。
おぉ、結構熱意があるじゃないか。有野ともうまくやっていけそうだ。
と話を聞いていない誠二は他の人と比べて陽気な顔をしていた。
その後の今後の予定を聞き流し、隣の有野を見ていると目を輝かせていた。
これは相当重症だ。急性憧れちゃった症候群が発症している。残念ながら治療は不可能のようだ。
「あいつと仲良くなってみるか。下手したらギルドに入れて貰えるかも知れないぞ?」
「いやいや!!!!!そんな滅相も無い!!!」
「おい、俺と態度が違い過ぎるだろ。」
あまりにも否定をしてイラっと来たが、まぁいいかと話を進める。
「でも出来るでありますか?自分達のような低レベルが仲良くなれるとは思えないでありますが。」
「さっきあいつ言ってただろ。レベルは問わないって。わざわざ2回言うって事は低レベルでもやりたいって意思のある奴の事が好きって事だ。都合がいいな?」
「確かに見たところ自分達以外に初心者の人はいないでありますな。」
有野は周りのキャラクターのレべルを見てみるとどいつもこいつも異様にレベルが高い。確かにこの中だと特別視されてもおかしくない状況と言える。
現実味が湧いてきて有野のテンションは少しだけ落ち着いた。
「ま、この話が終わったら一目見ようと皆話しかけるだろうしそれに乗じて取り入るか。なるべく最後の方が良いな。長々と話が出来るし遠慮を知っているって思ってくれる。」
話が終わり、白夜は疲れたのか疲労の顔が見えたと同時に一気に我さきにと白夜に話しかけに行った。
半分は興味本位、半分は誠二同様何とか取り入って仲良くなる事で自分のステータスを上げようとする者。
しかしそれは許されなかった。白夜の近くにいるこれまた強そうな女性キャラクターがその話しかけようとした人達を拒み、退けた。
「白夜は疲れてるんだからさっさと帰りな!」
「何でだよ、ちょっとぐらい良いだろ?」
「アァン?」
女性キャラクターが凄むと誰もが仕方がないと諦め、城を出て行く。
これは一見無理そうに見えるがチャンスだ。後ろの白夜を見ると申し訳なさそうにしている。
多少無理やり白夜自身に話しかければ少しは話をしてくれるだろう。
「よし行くぞ。」
「えぇ!?だってあの「椿(つばき)」さんはこの国の中でもトップ中のトップの人、それに気性も荒いと有名で白夜さんのギルドに入るまでに沢山PKしたことあるらしいでありますよ!?」
「失う物が無いってのは凄いな?」
誠二が言いたいのは例えPKされても失って困るほどの物は何もないという事で、それを察した有野は諦め誠二に着いていく。
誠二は俺についてこいと自身満々に歩いて行くが、相手がこちらに気付き始めた瞬間におどおどとしたまるで何も知らない純朴な人のようにふるまい始めた。
この態度の急変に呆れながらもリーチに任せようと有野は黙り込む。
「あっあの!!感動しました!僕あんまりゲーム得意じゃなくてここに来たのも知り合いに無理やりだったんですけど演説を聞いて僕も一緒に頑張りたいと思ったんですっ!・・・でも初心者だしこんなレべルだとどうすればいいのか分からなくて・・・。」
「そうか!君達そんなにも感動してくれたのか!初心者だからって気にする事はないよ!せっかくだし城の中を案内しよっか?時間があればお互いに何が出来るか相談してみようよ!」
演説でもそうだったがかなり熱意のある人物のようでするすると懐の中に潜り込めた。こういう人がいるから思い通りに動かすのは楽しい。
ただ隣の椿という女、かなり警戒心が高いようでニコニコとしているリーチを睨みつけている。
だが心配はない。こういう奴は確かに勘が鋭いがそれ以上に信頼があまりされていない。多少気を付ければ簡単に諦めてくれる。
「是非っ!有野もいいよな!?」
「え?あ、勿論であります。」
有野も出来るだけ誠二に似たように振舞う事を心掛ける。
無事、城に入る事が出来、どこに向かうか分からないが二人に案内されていく。
そんな中、椿はしきりに後方にいる誠二達を見てきていた。
「なぁ白夜こいつなんか嫌なんだけど。」
椿は「ら」を付けず、リーチの方だけを睨みつける。野性的な人だなとただただ普通に思う。
しかし白夜は椿の警戒心を気にも留めていなかった。
「あんまりそういう事いうとまた嫌われるよ。」
「だけどさぁ。」
納得のいかない椿に誠二が面白半分で余計に煽ってみる事にした。
「しょうがないですよね・・・。僕初めて会ったのにこんなに図々しくしちゃって...。ごめんなさい僕帰りますね、椿さんに嫌われているみたいですし。」
足をピタっと止め、顔を下に向け俯き喉から出たような雑の入った声をして悲しんでいる事を表現する。
ちらっと有野を見ると顔が引きつっている。
「駄目じゃないか椿!前にも言ったけど君はもう少し空気を読むって事を覚えろ。例え本心だとしても相手の嫌がる事はしちゃ駄目だって前にも教えただろ。」
「げ、現実だとちゃんとやってるよ・・・。」
「ここはゲームだ!現実と一緒にするな!」
(普通逆じゃないか?)
流石に椿もいつも親しげにしてくれる白夜の言う事は聞くのか強気な態度は白夜には見せていない。
「有野あいつらチョロいな。」
「リーチさん・・・。」
ボソっと椿と白夜に聞こえないよう有野に耳打ちするが共感は貰えないようで呆れた声だけが返ってきた。
この城は大きいが殆ど空き部屋で基本的にギルドメンバーがログアウト用に使う部屋がある程度。使うとすればギルドマスターである白夜がいる大広間でギルドメンバーの皆はいつもそこで過ごしている。
その大広間にはギルドマスター用の大きなワークデスクとその前にこれまた大きな机とソファーが配置されていて、その周りでは相談したり雑談したりと沢山の人が居る。
白夜と椿は皆に事情を説明するために少し離れて行った。
「じゃあ皆に説明してくるからちょっと待ってて。
「はいっ!」
誠二が元気の良い返事をする。
その間に隣の人がうずうずと首を振りながら周りを目を見開きながら見ていた。
「り、リーチさん凄いでありますな・・・!」
「有名な人でもいるのか?」
興奮を抑えきれない様子で有野はポンポンと肩を叩いてこの興奮を発散させたいためリーチを呼ぶ。
残念ながら誠二は一番有名な白夜しか知らないためあまり興味はないがこの状態で話をすると変に思われる可能性があるので仕方なく付き合ってみる。
「何を言ってるでありますか!あの人を見てくだされ。」
「・・・女だな。」
流石ゲームというべきか。凄い可愛らしい。
有野もこんな変な言い方をするやつだがイケメンに作ってあるし楽しみ方の一つなのかもしれない。
「あれ知らないでありますか?あれ女優でありますよ、ゲーム好きで見た目もそのままご本人であります。」
「ふ~ん。」
10人に10人は見ただけで鼓動が早くなるほどかなり有名な人なのだがあまりリーチの反応が宜しくないと思った有野は失礼な事を尋ねた。
「まさか・・・男好き!?」
「んな訳ないだろ。ただ知らないだけだよ。」
「は~、知らない人も居るんでありますな~。」
有野の振りを受け流して否定すると有野は大きく息を吐き口を開けたまま止まった。
「俺子供の頃から親から他人と関わらないように躾けられてさ。女って言われてもよく分からないんだ。テレビも見てない。」
「え?じゃあ何で今は許されているでありますか?」
「・・・分からない。」
考えていなかった、という訳では無かった。考えてはいけなかった。初めは確かに誠二もいきなりゲーム、それもオンラインゲームをしていいなどと言っていた父親に疑問を抱いたが今までの経験でそれを質問する訳にはいかなかった。
その事情は省くがゲームが下手でも楽しんでいられるのはこうして人との付き合いがようやく出来るという喜びがかなりの率を背負っている。
それはともかくとして白夜と椿が帰ってきた。
「お待たせ、じゃあちょっとお話でもしようか。」
二人はソファーに案内され座る。その向かいのソファーに白夜が座るが椿がいない。てっきり常に付き添っていると思ったがそうではないようだ。
座ったというのは様式美のようなもので特に意味はない。この世界は筋肉の疲労が存在しないためいつでも空気椅子が出来るがこちらの方が気持ちは楽だ。
「自己紹介は・・・必要なさそうだけど一応しようか。僕は白夜、このギルドのマスターだ。職業は2次職の魔術師。サブ職業はまだ罠師。よろしく。」
罠師とはまた面白そうな職業だなぁ。
隣を見ると有野は緊張しているようなので先に誠二から自己紹介を始めた。
「リーチって言います。ゲームはこれが初めてですけど頑張ります!・・・ほら、有野。」
腕を曲げ、肘で有野をつつく。
「は、はひっ!有野平五郎軍曹であります!精一杯頑張らせていただくであります!」
リーチの自然な挨拶とは違い、有野は声が若干うわずっている。
誠二は白夜の表情を見てみると有野の強烈な個性を見てもびくともしない。これは相当歴戦のゲーマーなのだろうと推察し、にっこりとほほ笑む。
「ちなみにキラーサーカスってどんな人達なんですか?見た目とか・・・。」
「見た目は変わらないただの人達だよ。それにこのゲームの中だと個性的な人だって珍しくないし。」
個性的と表現したのは有野に配慮をしたからかチラリと有野の方を見る。
白夜は話を続けた。
「一番気になるのは捕まえた後どうするかでしょ?ちゃんと考えてある。ただ事情があってそれを教える事は出来なくてね、捕まえ方だけでいいかい?」
「はい!」
白夜の提案に間も空けない返事をする。しかし裏では少し気掛かりだった。
(事情...ここで隠し事は分からないな。)
捕まえた後どうするかなどどうでも良かった誠二だったがどうにもここでその事を隠す必要性が分からない。教えて不利益が生じるなら分かるが、初心者二人に教える事も出来ないとなると「誰でも出来る。」「広まれたくない。」の二つの理由が挙げられる。
どっちにしろ現在の誠二には殆ど無関係の話だったため、頭の片隅に置いた。
「彼等を見つける事は結構簡単だ。僕のギルドにアサシン系の2次職、忍者が居てね。彼に追跡させれば集まっている場所ぐらいは分かるんだけど・・・。彼等が怖いのは対人戦が異常に強いって事なんだよ。」
「対人戦・・・?」
「プレイヤー同士戦うって事。元々アサシン系は一対一が強くてね、逃げるのも上手だから見つけても捕まえにくいんだよ。」
誠二の疑問に補足まで付け加えて懇切丁寧に説明した後、少し困った表情を浮かべていた。
「人数が多ければ二人で一緒にってのを考えてたんだけどこれだと厳しそうだったから相手を追い詰めてまとめて捕まえる事にする。」
「相手人数多いんですか?」
「中ぐらいの大きさだけど多いね。」
誠二には中ぐらいの大きさというのも分からないがあの広場に居た人達だけでは足りないとするとざっと20人はいるだろう。
なんだか面倒臭そうだ。
誠二は少し不審に思われるかも知れないが興味が無い事を延々聞かされたり真面目な演技をするのも疲れるため、さっさとお暇させてもらう事にする。
「あっ!いっけない!僕この後用事があってログアウトしなきゃいけません!」
メニュー画面の左上にある時計を確認してそう発言する。
勿論用事も無いしログアウトもしない。ただこのままだとずっと白夜と二人だけで話す事になってしまうかもしれない。
「もう?」
白夜はやけに早いなと思ったが、こちらから言った事だししょうがないよねと好都合にも不審には思われなかった。
「ごめんなさい、そうだ。有野はどうする?全然話せてなかったし残ったら?」
「あ、自分も一緒に帰るであります。」
誠二の予想では
「ななな、何言ってるでありますか!自分も帰るであります!」
とでも慌てて言うと思ってたが何を思ったのか冷静に返してきた。
「良かったらまた来てね。」
「また機会がありましたらよろしくお願いします!(来ねぇよバーカ。)」
誠二は最後まで貫き通し印象付けたまま帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます