第5話

後日


「つ、遂にパーティーが・・・フレンドも!あっ、もうリーチさんログインしているであります。」


時刻は8時40分、ゲーム内での待ち合わせにしては早い方でそれだけにどれだけワクワクしているのかが目に見えて分かる。


有野はメニュー画面を開き、フレンド欄にいる【リーチ】と書かれている所を見てはにかみながら急ぎ足でポータルの所へ移動している。まだ朝だという事で人の数は少ない。


内心のワクワクを胸の内でのみ展開し、それを表情に出さないようにパンっ!と一発、両頬に両手で喝を入れポータル付近にいるはずのリーチを探すといたにはいたが何か昨日と様子が違う。


「中々いないな・・・あっ、有野さん早いね。」


有野が近づくとリーチは独り言が口から洩れていたが気付いていないのか特に慌てる様子も無く有野に気付き、反応を示した。


しかしその姿はまるで違っていた。ポータル前の階段に腰を下ろし、まるで観察でもしていかのように両方の肘を足の乗せ、手で顔を支えているポーズを取っていた。


腰にはレベルに不相応の剣をこさえていて、レベルも上がっていないのにたった数時間でどうやって手に入れたのか気になる。


「あのぉ、それどうしたでありますか?」

「この剣?貰い物だよ、レベル適正とやらで攻撃力は上がらないけど判定は剣の方が長いみたいだし。」

「貰い物って・・・その剣は確か草原のレアモンスター【フレアーネ】のレアドロップで確か適正レベル30だったはずであります。普通ならば売れば相当高い値段で買い手がつくでありますが一体どうやって?」

「おっ、丁度いいから見てて。」


リーチは獲物を見つけたのか眉を上げ、そのままゆっくりと立ち上がるとその獲物のキャラクターに向かって歩き始めた。


「お~久しぶりだなぁ!」

「・・・!?」


有野は自分の知っているリーチの態度とは全然違う事と物凄く親し気に会話をしている彼の変貌を見て会話が終わり戻ってくるまでの間驚きで言葉を発せずにいた。


「ん?誰?」

「あ、そっか。覚えてないか。俺だよ、俺はアバターと名前変えてなかったからすぐ分かったんだけどなぁ。」

「えっ!?もしかしてお前【桜吹雪】か!?うっわ、懐かしいなぁ。」


急に知らないキャラクターに話しかけられた【茨の騎士】は、誠二の演じている態度や自分のこのキャラクターの見た目と名前を知っているという事から一人の知り合いを思い浮かべていた。


「あれから離れてたけど面白そうだなこのゲーム。久しぶりに熱が出てきたよ。」

「初心者の頃は世話になったからなぁ、始めたばっかり?初心者でも着れる防具持ってるけどいる?丁度バッグ圧迫して捨てるとこだったし。」

「マジで?頼むわ。」


誠二は上手く話を持っていき、【茨の騎士】のキャラクターから鉄装備一式を受け取った。


防具は一式装備することでボーナスで防具の性能が向上するため、まず初心者は【ドラりん】やその他の敵モンスターを倒しお金を集めて一番安いこの鉄装備一式を買う事が最も効率の良い道になる。


【茨の騎士】は何か操作をすると誠二の画面上に装備一式の受け取りウィンドウが出現し、【受け取りますか?〇 ×】の所の〇を押し、バッグに受け取った鉄装備一式が詰められた。


「あと要らない軽装備もいる?俺、竜騎士(ドラグーン)になるつもりだから装備出来ないんだよね。」

「良いのか?売れば金になるんだろ?」

「そりゃあ多少はなるけどお金稼ぐつもりじゃないし。」

「じゃあ貰っちゃおっかな~。」


誠二はついでに装備はまだレベルが足りないため出来ないが比較的強めの胴の防具を受け取った。


「ありがとな、助かったよ。」

「どうするフレンドなる?」

「いや、こっちから話しかけて悪いけどこのゲームはこのゲームで楽しみたいからさ、悪いな。」

「そうだよな、あれから結構経ったし・・・。」


【茨の騎士】は少し悲しそうな声をしたが理解は出来るようで割り切る事になった。


「じゃあな、お互い頑張ろうな。」


最後に別れの言葉を言って、誠二の操っているリーチは有野の傍まで戻っていった。


近づくと何やらプルプルと身体を震わせて心境を伝えてこようとしている。しかし、それを気にも留めず


「まぁこんな風にこの剣も貰った。」


誠二はメニュー画面のバッグを開いて貰った防具を装備していくと、見た目も装備した順に変わっていく。

このアイデアは【アンドレ】という盗賊とのやり取りで、プレイヤー同士の品物のやり取りが出来るという事を知り、思いついた方法で、わざわざお金を払う必要も無く装備が充実する・・・一石二鳥と言う奴だ。


これが成功すると踏んでいたため、鉄人のお店から何も買わなかった訳だったのだが思ったよりも収穫が少なかったため、誠二は少し軽めのショックを受けている。


誠二は思いついたのはいいが何も手当たり次第にという訳では無かった。

ポータルの付近で観察をするみたいに色んな人の様子を伺っていたのも話しかける人を選ぶための行動だ。

昔馴染みを装う演技をする事は簡単だが、それを疑いもせず自分から物を与えようとする人間を選ぶためには一人一人見極める必要がある。


まずはその人の周辺に知り合いが一人もいない事を確認する。人付き合いが得意な人だと、冷静に疑われてしまう危険性があるし、何よりも人付き合いが苦手な人なほど知人を大切にする。有野みたいに。


次にこのゲームをあまり楽しんではいないという事だ。具体的には『楽しめていない人』ではなく『楽しんでいない人』の事。これはMMORPGをやり慣れている人を判断する必要があり、過去に他のMMORPGをしたことがある人でなければ話にならない。


これらに加え、【茨の騎士】は単純だったためすぐに貰えたが過去を捏造して相手の表情を読み取り上手くほんのりと装備品が欲しい雰囲気を作り出す会話術も必要になってくる。


その様子を一部始終みていた有野は抑えていた物が一気に噴き出した。


「詐欺だ!これすっごい詐欺だ!」

「語尾忘れてるよ。」

「詐欺であります!」


(単純な人だなぁ。)


有野は興奮を抑えられないまま、フーフーと息を荒げている。


こんなに愉快な人は親しい人が少ない誠二から見てもこの世に数少ないだろう。顔に出したつもりは無いがVPIはその無意識な気持ちを受信し、キャラクターの表情を柔らかなものになっていた。


別に言い訳をしなくてもいいし、それを伝えたとしても理解し難い事は理解している。それでもこのまま黙っていても関係が悪くなる一方だったため、話す事にした。


「さっき見てたと思うけど俺は何もしてないよ?向こうからあげるって言ってきたじゃないか。」

「それはリーチさんが嘘を言ったからであって・・・っ!」

「相手は嘘かどうか分からないよ?知らぬが仏って言うし、それにあんな簡単に騙されるような人は一度騙されて痛みを知った方が治るんだよ。」

「それでも人の良心に付け入るのは良くないと思うであります!」


(まぁこういう人もいるよな。)


誠二は自分と意見の違う人とは決して討論はしない。そういう考えの人はそうでいいと思うし、間違ってもいない。

それに討論をした所で時間の無駄だ。ただ有野の正義感は無視をするだけでは満たされない。こういう時の解決策は「少し抵抗して諦める。」だ。


「相手のいらないものを貰うのが悪い事なの?」

「自分が言っているのは騙したという事であります!」

「別に騙したつもりは無いぞ?」

「意図して相手に誤解を与えるというのは悪意でありましょう!?」

「分かったよ、もうしない。これから気を付けるよ。」

「分かればいいであります。」


なんてチョロいのだろうか。正義感が強い人はすぐ人を信じたがる、利用するにはもってこいの人材だ。正義という名をかざせば簡単についてくる。


誠二は実はかなり不安になっていた。この有野という男性は少なからず親切にしてくれた。どんなに利用しやすい人で、こちらの利益のために動いてくれるとしても何故か心がそれを許そうとしない。


今まで人と関わってきたせいか情が移り過ぎてしまったようで今までには感じた事のない感情が誠二の中に芽生え始めそれを感じ取った誠二はこの関係を本当は続けたいのに、断ってしまおうかと考えてしまう。


「神殿・・・いこっか。」


誠二は本当は有野が居なくなった後に何度かやってしまおうと思っていたが次の一言を発するまでの間にそんな気持ちは薄れていて、気付きはしたものの異常を感じる事は無かった。


「神殿、でありますか?何故?」

「サブ職業知らないの?」

「あー確かそんなものありましたなぁ。忘れていました。」

「えぇ...。」


なんで下層エリアは知っているのにサブ職業は忘れるんだよ・・・。

と、有野の記憶力の優先度に疑問を抱き、動揺してしまったが仕切り直す。


恐らくこれからもこんな反応が続くし、いちいち動揺してられない。


頭を切り替えて冷静を保ちながら話を続けようとする誠二。気が付けば今後の関係まで想定しているのは無自覚だった。


「え?じゃあ行くでありますか?」

「え?何行かないの?」

「あ、いや行くなら行くでありますが。」

「嫌ならいいんだけどさ、いつでも出来るし。」

「いや、行くと言ってくれれば行きますよ?」

「あ、そう?じゃあ行こう。」


どちらも何だか先ほどのやり取りで気まずくなりお互い譲り合った結果、まずは誠二が最初に言った神殿へ行く事にきまった。


事前にマップも買っていて神殿の場所はすぐに分かった。


着いてみると彫刻でよく見るような神殿があり、その施設の真ん中に機械が置かれている。せっかくこんな雰囲気なんだしNPCでのやり取りでいいから雰囲気を出して欲しいなどと愚痴を胸に溜め込みならが、神殿の奥へと入っていく。


朝だという事と殆どの人が始めの段階で終わらせているという事もあり、人が少ない。

待っている人がいないというのは気楽なため気にせず機械の前に行くと神殿の端から白い服だけで他は一切何も装備していない、ローマ帝国時代の服装を思い浮かべられるような恰好をしている男性が現れた。


「ようこそ神殿へ。」

「あれ?NPC?」


「いや、俺は趣味でここの管理してるだけで説明とかしてるんだ。」

「物好きもいるんだな。」


何故ここにこんな人がいるか分からなかった有野は質問をした。しかし、ただのプレイヤーのようでこんな所で暇人をやっているとは有野に負けず劣らずの変態だ。


嫌味を隠そうともせず誠二ははっきりと言うと機械を覗く。中にはずらぁっと沢山の文字が書かれていてどれも現実に存在するような職業ばかりだ。


男性は気にも留めず、まだ理解していない誠二に対して助言をした。


「やりたいサブ職業が決まったらそれを押して。そうすると確認ボタンが2回出るからどっちも2回丸を押せば終わるよ。」

「ん。」


簡素な返事をした所で男性を捨てて、職業欄を見つめる事に没頭し始める。


「どう?決めにくいならお勧め教えてあげようか?」

「いや、要らない。」


助けようとした手も勢いよく払うと今度はショックを受けたのか何も言わなくなった。

その代わりなのか、有野に突っかかっていると勝手に隣で何か言い合いをおっぱじめていた。


「君変な遊び方してるね。」「貴方に言われたくないであります。」「いやいや、君も大概でしょ。」「ずっとここにいるでありますか?ニートでありますな?」「い、いやまぁそうなんだけど。どうせお前も似たようなもんだろ。」「残念学生であります~♪」


優勢は有野のようでニートと学生の差は広いようだ。しかもまだ続けている。


その間にも誠二は色々とやりたい職業を絞ろうとしていた。


なるべく自分の戦闘下手なのを隠せるようなのが良い。だとすれば補助系の職業に回るべきなのだろうけどそれは何か悔しい。なら戦闘のアシストをしてくれるようなサブ職業があるかと言えば見ている限りではそれらしき物は見つからない。


「ねぇねぇ、悩み事?」

「・・・。」

「ね~。」


男性は言い合いが終わったのか負けたのか悩んでいる誠二に向かった再び話しかけた。

その時一つ面白そうな職業に目が留まった。


「【ペット使い】・・・いや~あんまりお勧めしたくない職業かなぁ。」


視線を読んだ男性は目に留まった職業を口にしその感想を零した。


「したくない?」

「【ペット使い】自体は面白いよ?普通はペットは最大3体まで飼えるんだけど【ペット使い】は10対まで。それに戦闘にも1体の所を5体まで参加させられる。」

「本当?凄いな。」

「まぁ実質戦闘職みたいなもんだけど、その代わり1次職までしかいけないんだよねぇ。」

「あ~それは確かに嫌でありますなぁ。」

「何が?」


二人は分かっている様子で有野は頷いているが、誠二はよく分からないため、率直に二人に聞いてみる。


「いや、【ペット使い】を好き好んで選択して遊んでる人もいるし、知り合いにも一人【ペット使い】の人いるんだけどね?1次職だけだとどれだけ武器が良い物でもボスには勝てないんだよ。」


ボスというのはこの国の近くにある草原、その主の事を一般的に【草原のボス】と言い、他のモンスターと比べるとかなりというか相当強いモンスターの事だ。


1次職で装備出来る最高の武器のものでも2次職で装備出来る中で、強いと言われるぐらいの武器とどっこいどっこいの性能だ。それに加えて1次職はステータスが2次職と比べるとはっきりと低いと分かるしスキルも2次職の方が良い。


それは当たり前だが【ペット使い】を選ぶとそういうペナルティがつく。3次職と比べるとどれだけプレイヤースキルが高い人でもステータスという名の暴力で一方的にやられてしまう。

そのため、ペットを育成し強くしていく必要があるが廃人向けで育成するためには人よりも倍以上狩らなければならない。


あまりにその労力から見合わないため面白い職業ではあっても敬遠され、選んでもキャラクターを作り直す人が大多数になっている。


「ペット使いは特別にペットを配合、育成、進化出来るけどすっごい疲れるよ、知り合いの【ペット使い】の人は1日に16時間INしてるし。」

「寝てる以外の時間殆どか・・・俺には無理そうだな?」

「まぁ、わざわざ選ぶ必要はなさそうでありますな。」


有野に同調を求める。

しかし、本音はちょっとまだ面白そうと思っていた。ただ選ぶには少し早計過ぎるようで、今回の所は見るだけで辞めておく。


「決められそうに無いし明日また考える。」


誠二は機械の操作を止め、一歩後ろに下がる。

そして有野はならば自分がと機械の前に足を出しパネルを操作して流し読みしながら確認していく。


ス~っと下に職業が流れて行くとピタリと止まる。


「これにするであります。」


即決即断で反応を待たずに一つの職業に就職した。


「ちょっと決めるの早すぎないか?結構重要だぞ?」

「でも自分に合ってるであります。」

「【軍人】・・・おぉぉ。」


誠二はどう反応していいのか困り、なんとも言えない声を漏らす。


確かに見た目とマッチしていて似合っているが運命的な決め方過ぎやしないかと不安になる。

何が必要なのかどうか考えてから行動する誠二にとっては中々出来ない事で尊敬はするがしようとは思わない。ただ確かにこんな遊び方をしているならそれが使えなくてもネタにはなる事だろう。


「じゃあ行くか。ずっとここに居る訳にもいかないし。」


誰か待っているという訳では無かったが、周りには殆ど誰もおらず要るのは隣にいる変態二人だけになっていた。

同類と思われてしまうとかなわないし、何より無駄にでかいだけで中は機械がただ一つ置かれているのはつまらない。ここに居たところで何か出来る訳でも無さそうなのでさっさと用事が済んだら敵を倒したりした方がよっぽど有意義と言える。


「また来たね~。」


神殿から出て行く時に後ろでこちらに手を振り送り出してくれる先ほどの男性、サブ職業を決める以上また来なければならないのを知っているためかなりたちが悪い。

ジロリと自分が思っている腹が立っているという気持ちを目にして睨むと、男性は「アハハ~」と更に呑気な反応になってしまった。


今まで考えつかなかった人種で何故あそこまで嫌われているという気持ちを受けておいて動揺の一つもしないのか分からず、考えようとすると興味が無かったから確認していなかったため名前を知らない。

というより今まで上に表示されているため嫌でも目に着くがそれが無かったような気さえする。


「あの人名前何て言うの?」

「そういえば見てませんでした。・・・あれ?」

「なんか違和感があるような・・・まぁいいか。」


二人は何か大事な事を忘れているような、しかしそれが思い出せないし考える必要も無いと、最初の目的地である国の外にある草原まで足を動かす。


草原には誠二のトラウマである【ドラりん】が堂々と徘徊している。ざっと見たところ遠くのも含めると20体は居そうだ。


「狩場に行くでありますよ。」

「狩場?ここじゃ駄目なのか?」

「ここでも良いでありますがなにぶん湧くのにもここら辺は時間が掛かりますので一番湧く時間が早い場所まで行くであります。」


たった一体だけでもあれだけ苦戦したのにそんなところに身を投じてもしかして死んだりしないか思わず有野から目線が斜め上へと動いてしまう。


「・・・分かったよ。」

「どうしたでありますか?はは~ん、さてはリーチさん怖いでありますな?」

「は?そもそも知らないのに怖いとか思い必要も無いし防具だってあるし剣も一応長さだけだけど装備してるから。大体神殿の奴とも話せたからって少しうざくなってきてるんだけど。別に手伝って貰う事に関しては感謝してるけどそういう事言われると気分を害すると言うか明日からもう」

「分かった!分かったでありますから!」


誠二は図星だったために眉を曲げ、怒った様子であること無い事言ったり脅したりして話題を強引に切り替えた。

有野は緊張しているリーチを和まそうとしたのだが思った以上に怒られ、反省してしまう。


一方リーチも人付き合いが足りなく、こういった場合笑って許してあげるという事が出来なかったために後悔をしていた。

そのせいで互い話題を切り出せずに有野の後ろを追う形で気まずい雰囲気のまま狩場へと向かった。


狩場に着くと【ドラりん】の他にも狼型のモンスター【ウルフ】、亀形の【タートル】といった現在のリーチのレベルでは戦力が足りない敵も沸いていたがそれでも【ドラりん】はこの密集とした地帯の中で既に15体は確認できるほどうじゃうじゃいた。


「自分が他の敵を倒していくのでリーチさんは【ドラりん】をお願いするであります。」


有野は言い残すと誠二からの反応を聞かずに【ウルフ】【タートル】を的確に、そして効率よく倒していった。


狩場は【ドラりん】のみが生息する国周辺の草原と【ウルフ】【タートル】の生息する森林の間に存在し、誠二が草原、有野が森林のモンスターと区別して狩っっていく。本来ならもう何人か居るのだが朝早いという事で運よく独占状態のパーティータイム。

順調にリーチのレベルが上がっていく。


つい楽しくなり10分ほど狩り続け、そろそろ切り上げて奥に向かった方がいいかなとリーチのいる草原へ戻ると、パーティー左上にあるリーチのHPバーのゲージが赤く染まっていた。


急いで帰ると数え切れないほどたくさんの【ドラりん】に囲まれ、手も足も出ない状態になっているリーチの姿がそこにはあった。

本来なら一体一体倒していくのがセオリーだがどこで間違ったのかいくら防具が優秀だからと言ってあれだけ囲まれては長くはもたない。


「てやぁ!」


冒険者のスキルの一つにある範囲攻撃と持っている装備で2回の攻撃で殲滅が完了した。その中心では蹲(うずくま)って、事が過ぎるのを待っていたリーチがこちらに気付くと一つ咳払いをし、平然と立ち上がる。


「大丈夫でありますか?もしかして列車に巻き込まれたであります?」

「列車?」

「列車というのはプレイヤーが付近のモンスターを引き連れ過ぎて逃げ回っている状態の事で、巻き込まれるとそのモンスターが押し付けられ最悪死んでしまう事をひき殺されるというであります。」

「死ぬとどうなるの?」

「実際まだ自分は死んだ事が無いので分からないでありますが、攻略サイトではこの世界では死ぬと10秒間その場で《死体》となり、持っているアイテムを剥ぎ取られるらしいであります。」

「ふぅ~ん・・・。」


有野はリーチの身の安否のため、教えた事だが何かよからぬことでも企んでいそうな雰囲気がする。

大体この装備だって相手を騙して手に入れたのもだしそれを実行する行動力と考えつく思考力からしてすぐにこれを使ってまたアイテムを取ったりしようとしている事を考えているというのは容易に想像が付いた。


「前もって言っておくでありますがこれを使ってアイテムを取るのは駄目でありますよ?」

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」

「駄目でありますよ!?」」


いくら待っても反応が無く、もう一度年を押すとようやく「分かってる。」と変わらぬ無表情のまま絶対に分かっていないと分かった返事が飛んできた。なんかこの人はいつかやらかしそうだと危機感さえ覚える。


「で、列車じゃないとなるとどうしたでありますか?」


呆れ声で尋ねると、何だか覚悟を決めた男の目をし始めた。


「今日はもう終わりにしよう。」

「え?まだ初めたばかりでありますよ?」

「用事思い出した。」

「・・・分かったであります。」

「別に一緒に居てつまらなかったわけじゃないんだ。ただ急用が出来ちゃって。午後からなら出来るけど。」

「午後は家族と予定がありまして。また今度にしましょう。」

「分かった。」


二人はポータル付近の宿屋まで徒歩で行き、ログアウトを済ませ今日は突然な終了を迎えた。


・・・はずだった。


誠二はメニュー画面にあるフレンド欄を確認し有野平五郎軍曹がログアウトしたことを確認すると速やかに草原に移動し、狩場まで直行で走った。


現在リーチのレベルは5、【ドラりん】を倒すには十分過ぎるレベルで装備もレベル10までは使える防具一式、武器は長さしか意味が無くとも前よりは倒しやすくなっている。


もう一度今度こそと目の前にいる【ドラりん】に斬りかかる。大振りから繰り出された剣は【ドラりん】の見事頭上をかすめ、鮮やかなミスを生み出した。


ただそれだけでは終わらなかった。たまたま後ろに居た【ドラりん】にまで剣が届き、何故かそれは本体に刺さった。ダメージは出たがその【ドラりん】と攻撃を受けたという判定になった最初の【ドラりん】がリーチをターゲットにし、襲い掛かる。


(またこれか!)と急いで倒すべく剣を振るうが1体倒す度に敵が2体増える構造になっているのかどんどん周りを巻き込みいつしか行列が出来上がった。有野が言っていた列車という物だろう。


急いで逃げた先には・・・通りがかった一人のプレイヤーが居た。


たまたまそこを通ってたまたまその人がそこに居た。何の問題も無い。悪いのはこんな状況にした運命の方で誠二は悪くない。


何気なくその人の前を通る。


「あっ!お前くんなよ!」

「・・・。」


面倒くさそうに逃げるプレイヤーに向かって【クイックステップ】【クイックステップ】【クイックステップ】。


それはあんなお粗末な剣を振っていたとは思えないほど鮮やかな軌道を描き、その逃げたプレイヤーの前を通り過ぎる。


すると情報通り、巻き込むことに成功し、離れた所から【ドラりん】の行列を処理するプレイヤーを眺める。

そのプレイヤーは強かったせいか余裕で倒していくのでこのままでは怒られそうだとすぐにその場から離れ若干プレイヤーが倒れなかった事を残念に思い舌打ちした後、国の中へと戻っていった。


向かった先は神殿、中をキョロキョロと見渡しあの男が居ない事を確認すると、すぐさま機械を操作して【ペット使い】を選択し、急いで宿屋に泊まりログアウトを済ませた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る