第3話

≪あれは魔物です。倒す事で経験値やお金が貰えます。試しに倒してみましょう。≫


(倒してみましょうって・・・)


正直気が引ける。近づいてみて更に分かるが結構可愛い。それに近づいて分かったが魔物の上にその魔物の名前が書いてある。


【ドラりん】


名前も可愛い。


名前から分かる通りドラゴンの子供をモチーフにしている。トカゲに翼が生えた形で牙や鋭い爪も持っているが目がくりくりとしていて癒される。


ただまぁ倒せと言われると倒す以外道は無いし、倒す事にする。


どうやってダメージを与えるのか分からないため試しに殴ってみる。

すると魔物の体力バーが発生し、先ほど殴ったダメージ分減少を始めた。


大体一割ほど削れたため【ドラりん】が体力10だとすれば1ダメージ与えた事になる。

すると【ドラりん】は怒りだして反撃してきた。意外と素早く5メートルほどあった距離を一気に縮められ尻尾で胴を攻撃してきた。


6のダメージ


  47/53


思わず現実の世界でも一緒に攻撃が来るであった場所に両手を前に出し交差させて受け身の構えを取ってしまう。


次は俺の番だ!と殴ろうとすると今度は【ドラりん】は爪でひっかいてきた。


5のダメージ


  42/53


(え?ターン制じゃないのか。)


ファンタジーゲームの印象としてターン制があったのだがどうやら完全にプレイヤーの技量に任せたシステムでそれがMMORPGの醍醐味でもある。


【ドラりん】の攻撃  尻尾


7のダメージ


35/53


(ぬっ!)


【ドラりん】の攻撃 噛みつき  


クリティカル! 12のダメージ!


23/53


(やばいやばい・・・!!)


クリティカルとはダメージが倍になるシステムでプレイヤーも発生させる事が出来、武器の特殊効果に【クリティカル確率UP】や【クリティカルダメージUP】といった、クリティカルを主軸とした戦闘方法も存在するが、かなり不安定でダメージ自体に乱数があるため時として強力のアタッカーにはなるが完全にロマンの戦闘方法になる。


乱数というのはダメージが固定化されると何発で倒せるかとか考えてしまい作業と化してしまうので、乱数は冒険としては「いつ倒せるのか分からない」状態にする方が盛り上がるためのシステムで基本的に武器にもよるが剣だと

【-(武器の基礎攻撃力×0.1】~【+(武器の基礎攻撃力×1.1】という計算式でその間の数字でダメージが変動する。


他にもダメージはキャラクターの基本攻撃力に相手の魔物の防御固有値や弱点部位、属性耐性など様々な計算式で計算されるため強敵を倒すために作戦を練る必要があるため奥深いゲームとなっている。


(もう体力ゲージ半分以上持ってかれて黄色くなってしまった。)


体力ゲージは体力の5割を切ると黄色くなり、2割を切ると赤く変化する。


本来なら倒しているのだが誠二はゲーム自体プレイするのが初でゲームが下手だった。


誠二は急いで目の前にいる【ドラりん】に向けて拳を振るうがひらりと交わされ当たらない。

次に【ドラりん】が攻撃をしてくるが今度は交わし今度はそれに合わせる形で殴った。


すると【カウンター】【クリティカル!】という文字と共に敵の体力ゲージが残り3割に一気に減った。


とにかく良く分からないけどこれはチャンスだ!


とにかく自分の体力が無くなるまえに倒すためにひたすら殴って【ドラりん】を倒した。

【ドラりん】の体力ゲージが無くなると【ドラりん】は地面に落ち、光となって蒸発した。


テンレレンテン♪


中々に惨い倒し方をしたがどうやらレベルが上がったようで目の前に先ほど倒した【ドラりん】のドロップアイテムと取得経験値、お金の画面(以降、画面の事をウィンドウとする)と一緒にレベルアップウィンドウが表示された。


ウィンドウにもあるが左上を見るとHPバーとMPバーの数字が変わっていて


【 HP 53 → 60

  MP 22 → 24 】


に変化している。他にもレベルアップウィンドウには【基礎攻撃力】【基礎防御力】と言った基礎ステータスの向上した数値が書かれている。


【ドラりん】を倒した事でお金とアイテムも貰え、【5g】と【ドラりんの尻尾】×1【ドラりんの羽】×1も入手出来た。

何については現時点では謎だが如何にもなファンタジー要素だ。

流石に剥ぎ取らなければならないみたいなシステムだったら止めていた。


色々情報を頭に入れているとまたナビゲーターの女性の声が聞こえてきた。


≪レベルアップおめでとうございます。スキルポイントを入手しましたね。先ほどメニュー画面でもあったスキルを開いてみましょう。≫


レベルアップウィンドウのステータス上昇の文字列の一番下に

【スキルポイント+1】

と書かれていた。


大体予想は出来る。というよりこれから先の展開を予想出来ない人は少ないだろう。

スキルポイントを使い好きなスキルをそのポイントを使って入手、もしくは強化をする。


誠二は手を前に突き出し上から下に手を移動させて出てきたメニュー画面の中からスキルと書かれた項目に手を乗せ、前にも見たスキルウィンドウを見てみる。


前に開いた時は詳しく見なかったがそのスキルは冒険者という初期の戦闘職業だとしても多種多様だ。

スキルに一つ一つデザインされているアイコンの事を【スキルアイコン】と呼び、これをタッチすることでそのアイコンのスキルの詳細を確認できる。


スキルには【基本スキル】と【パッシブスキル】の2種類が存在し

【基本スキル】とはダメージを出せる、あるいは戦闘職なら戦闘に活かせる特殊なスキルも存在する。

【パッシブスキル】は『常時発動しているスキル』の事で代表的なのは【常時移動速度10%】【戦闘時ガード率+2%】などがある。


【パッシブスキル】は【基本スキル】と比べるとその倍率はかなりシビアで一見後から取るべきスキルだが中には結構無視出来ない、他職にも影響を与える事が出来るスキルも存在する。


≪スキルポイントを所有しているとご覧のようにスキルの上下に【+】【-】が出てきます。欲しいスキルは【+】を、振ろうとしたけど止めようという場合は【-】で操作し右下にある【確定】をタッチするとスキルの割り振り完了となりもう一度振りなおす事は出来ませんので注意してください。試しに【クイックステップ】を取って見ましょう。】


(あっ、最初は決められないのか。)


すっかりどれを取ろうか悩んでいた所に水を刺され渋々、解決のために薄っすらと光っている【クイックステップ】のアイコンの上にある【+】をタッチし【確定】をタッチすると【+】【-】が消えた。


≪取得完了しましたね。早速使ってみましょう。アイコンをタッチして発動する動作を確認しましょう。≫


発動する動作?


一瞬何言っているのか分からなかった。

普通のMMORPGでは取得するアイコンをクリックやタッチすることで発動するはずなのにこの言い方はおかしい。


MMORPGについては事前に予習していたがために頭が混乱する。


しかしこればかりは考えても仕方がないと、誠二はスキルアイコンをタッチし、詳細を確認してみた。


《【クイックステップ】  消費MP 2

 【発動条件】

  軽く飛ぶようにジャンプ(方向制限無し)》


するとしっかりと【発動条件】の下に何か書いてあり詳細と言うには情報が少ない。

要約すると「やってみろ」って事なのだ。


軽い気持ちで左足だけに力を入れ横にジャンプしてみる。


グンッ!といきなり身体が移動し同時に無理やり意識が持っていかれる感覚に陥った。

最初何が起こったのか分からず、しかしナビゲーターは未だ混乱している誠二を放って話を終わらせる。


≪おめでとうございます。スキル取得を完了しました。プレゼントとして【初心者応援ボックス】が送られています。全チュートリアルはこれにて終了となります。お疲れ様でした。】


本当に必要最低限の説明しかしてくれなかった。


確かに現実世界でも親とか周りを見て生き方を学ぶけどここまで同じにしなくても・・・。


怒るというよりも呆れの方が先に来た。この世界の住人の全員がこれを経験してまで楽しんでいるというのが驚きだ。一番初めにプレイした人はどういう気持ちでこの世界を生き抜いているんだろう。と興味も同時に湧きある意味現実的な思考になった。


「まぁ、取りあえず武器屋見に行くか...。」


このゲームを始めたはいいが目的がよく分からない。現実では生きるために人は生活しているが空腹は現実だけでゲームシステムの中にはそんなシステムは無い。

だが生きるという点においては間違ってはいない。生きるとは死ぬと表裏一体、「生きなければ死ぬ」「死ななければ生きる」というようにこのゲーム世界においての死を定義すれば簡単だ。


それは『引退』。つまりこのゲームを止めるという事。だとすればおのずと生きるという事が分かってくる。


もうお分かりだろうが正解は『このゲームを楽しむという事』になる。

誠二はこれを10秒ほどで考えた後、楽しむために何をしようか。と門を潜り城の中へと入っていった。


「さっきの武器屋どこだったかなぁ。」


目的はまず武器屋を探しこの世界の市場を調べる。お金の価値・使い方。これを知る事はとても重要な事で知らなければ良かったという情報はこの現実世界でもだがどこにもない。

無知ほど罪なのがこの世界だ。


覚えのある道を辿り、奥に【ポータル】を見つけた。

ポータルを見るとかなり若者の風貌をした人が多い。これは春休みという事で学生が多いからだろうか。


実際誠二も今が春休みで2週間後入学式がある。今は関係の無い情報なため詳しい事情は省略する。


(確かこの辺りのはず・・・あった。)


お目当ての武器屋を見つけて気分がこのゲーム始めて最高潮に達した。

急ぎ足で向かうと人だかりが出来ている。ゲームの中の武器だというのにプレイヤーが一人一人店の前に置かれた木箱の中から欲しい武器種を選び吟味している。


人だかりから少し離れた所で様子を伺っているが同じ形をした武器を数個比べて何か悩んでいるように見えるがそれ以上は分からない。


人だかりの奥では「カーン! カーン! カーン!」と鉄と鉄が打ちあう音が聞こえる。この武器屋の主人だろうか。


誠二は人ごみの間を縫い、前へ出ると見るからに職人風のおじさんがオレンジ色で光りながらオレンジ色に光っている鉄にハンマーで力強く叩いている。


「あの~すみません。少し良いですか?」


周りはまだ悩んでいる人が多く今の隙に目の前にいる職人に話をしようと思い話しかけた。


「おう!なんじゃい!ちょっと待ってろな?」


言い方も声もTHE・職人のように野太い声をしている。ボイスチェンジャーを使っているのか分からないが違和感はない。

職人は一旦作業を切り上げるために現在叩いている武器の刃を水に付けた。鉄の温度により水が蒸発する音も鮮明に聞こえてきて始めて30分ほど経った今、現実と全く区別が付かなくなっていた。


「鉄人さん。これ貰うよ。」

「へい、毎度あり。今後も御贔屓によろしく!」


鉄人という名前に職人が反応した。

職人のキャラネームは【鉄人】と呼ぶらしい。さっき見た鉄を叩いている姿を想像すると似合っていて中々面白い。


近づいてみるとキャラクターの上にしっかりと【鉄人】とキャラネームが表示されていた。


「お?お前初心者か?そうだな、お勧めは防具だ。使い慣れない武器は最初敵に当たらないもんな。まずは安定して敵を倒してレベルを上げて行った方がいいぞ。」


誠二のキャラクター【リーチ】のレベルを見てまだ始めたばかりの初心者だという事が分かった鉄人は次々に話を捲り立てる。


「聞きたいのはそうでは無くて」

「なんだ?まさかお前さん【鍛冶師】になりたいのか!?だったらまずは神殿に行ってサブ職業を選択せなならんぞ。」


ここでちょっと気になる情報が出てきたが今はそういう事が聞きたいのではない。

それにしても話している最中に口を入れてくるとはかなりせっかちな性格をしている。


「そうでも無くてですね。これってどうやって売ってるんですか?」


最初は市場を見るだけのつもりだがどうも個々で違うらしい。それが気になった誠二は鉄人に聞いてみた。


「じゃあこれ触ってみな。」


鉄人は奥に会った売り物ではなさそうな武器を一つ持ち出し、誠二に手渡した。すると画面上に【武器の詳細】が書かれたウィンドウが出てきた。


《 【ショートダガー】 短剣  攻撃力10 》


「次はこれだ。」


今度は店の前に売り出している武器の中から同じ形をした物を渡してきた。

手に持っていたダガーを鉄人に渡すと出ていた武器のウィンドウが消え、鉄人に渡されたもう一つのダガーを受け取ると次の情報が出てきた。


《 【ショートダガー】  短剣  攻撃力19 

   460g 》


先ほどまで持っていたダガーと違うのは【攻撃力】と【値段】だ。

一見同じような物に見えるこの二つの武器は職人の腕によって攻撃力が大きく変動する。

それは職人の腕が良ければ良いほど攻撃力が上がりその分、値段も跳ね上がる。


この二つ目の【ショートダガー】は会心の出来とは言わないが中の上ぐらいの完成度で一般的な【ショートダガー】が380gの所を見るとやはり違うのだろう。


「へ~、面白いですね。全部違うって手作業なんですか?ゲームなのに?」


単純な疑問だ。わざわざゲームの中だからと言って手作業で時間をかけてまでする必要は無いと感じていた誠二はその事を言うと鉄人は盛大に笑い出した。


「ガハハ!だからこのゲームは面白いんだよ!それにな、俺このゲーム始めて1年になるけどよ。このゲームで武器を作るのが楽しくてニートだったけど職人に弟子入りしたんだ。まだ見習いだけどな。あ、お前ゲームの中で現実の話を持ち出すのはNGだから気を付けろよ。」


(ほ~。)


これは一本取られたと素直に関心した。それはこの鉄人と言う人に対してではなくこのゲーム自体に対してだ。

確かにこのゲームはリアルだ。現実と殆ど遜色なく生活出来る。それが現実にも影響を与えるのは固定概念が覆された。それでもまだ「たかがゲームだし・・・」という意識があるがそれもこの世界で生きていくと変わってくる。


「はい、ありがとうございました。」

「お?防具見てかねぇのか?お前面白いから安くするぞ?」


話を聞くと早々に立ち去る誠二を鉄人は引き止めた。

利益のためでは無く初心者に対する親切心で最初に話しかけて来たアンドレという盗賊とは訳が違う。


こちらとしても買ってあげたい気もするがショートダガーだけでも460gするし別に今は冒険に出たいとは思わない。それに所持金が1005gでは少々心もとない。もう少しお金をためてから来るべきだった。


「神殿とやらでサブ職業決めてきますよ。」

「ま、その方がいいか。サブ職業は多いから慎重に選べよ。ほれ、フレンド送ったぞ。メニュー画面開いてみろ。」


仲良くなってきた記念なのか鉄人からフレンド申請を送ってきた。

ピコン♪と可愛い効果音がしてメニュー画面を開くと《【鉄人】 〇 》とある。

(〇(白丸)がオンラインで、●(黒丸)がオフラインという表示。)


タッチしてみるとフレンドである【鉄人】の情報ウィンドウが出てきた。


《 【鉄人】  職業【ランサー/鍛冶師】   【LV23/SL15】 》


他にも装備品や構えている店など細かな情報があるが省き、SLとは(スキルレベル)と言いサブ職業は戦闘職であるメイン職とは違ってレベルが存在しない。

代わりにスキルレベルというシステムがあり、今鉄人がやっている武器作りのようにサブ職業に合った作業をするとスキルレベルが上がりその作業がより効率的になる。


ウィンドウ内とは別に、その枠組みに【承認】と書かれた所がありそこをタッチすることで承認することが出来た。これで鉄人とは互いにフレンド状態という事になる。


フレンド状態になる事で互いが『ログインしているのか』『どこにいるのか』が分かる。他にはフレンド専用の協力イベントで一緒に参加出来たり、フレンドチャットと言う個人での会話も可能になる。


「承認しました。これで良いんですかね。」

「何か欲しくなったら相談してくれよ?報酬によっては作ってやらんでもない。」

「機会があればお願いしますね。」


誠二はなるべく礼儀正しい印象を植え付け、その場を退散した。


鉄人の話によるとサブ職業を修得するためには【神殿】という所に行かなくてはならないらしい。

何か面白そうな物であったらなぁ、と気楽に考えながら誠二は神殿に向かう事になった。

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