第2話

気が付けば視界の左上に体力バー(HP)と魔力バー(MP)が表示されていてその左隣には自分の現在の職業「冒険者」と書かれている。顔を横に(現実では無くゲーム内での視界の事)振ってみてもその表示はその場を離れず常に誠一の目の中に入ってくる。


≪まずは手を前に突き出し下に動かしてメニュー画面を開きましょう。≫


先ほど聞こえた女性の声が再び聞こえてきた。どうやらチュートリアルや、解説などのナビゲーターのような存在だ。


そんな事よりも聞こえてくる会話やこの世界について知りたいが操作もよく分からないし戦い方もこの世界を楽しむ方法も知らない。指示を従った方が自分のためだろう。


目の前では指示をするかのように矢印が動いており手をその矢印の動く通りに動かしてみるとメニュー画面が開いた。


≪バッグ≫≪スキル≫≪ギルド≫≪設定≫≪ログアウト≫


の五つが右側一杯に上から順に並んでいる。指示された通りに動かし表示させると次の指示が飛んできた。


≪バッグを押してください≫


これもまた矢印が≪バッグ≫の方に刺されており右手を突き出し≪バッグ≫と書かれている場所に手を乗せると真ん中の下段の方に何もない空白の欄が出てきた。


≪バッグとは現在所持しているアイテムを管理する場所です。そしてそこに書かれている数字は現在の所持金の事を示します。≫


ナビゲーターが説明してくれた通り移動しながら持てる数の事だろう。6×8の45個の空白の欄があり消費アイテムは一つ99スタックまで溜める事が出来る。


防具はスタック出来ず、丸々一個潰れてしまうため注意が必要だ。


そしてもう一つバッグの欄の隣に自分のキャラクターの姿ともう一つ【頭】【胴】【腕】【足】【首飾り】

【ピアス】【武器】の7つの文字と共に8つの空白の欄が特定の箇所に配置されている。

どうやらピアスは2つ付けられるみたいだ。


≪左に見えるのは装備欄で計八つの装備が可能になります。≫


(これ装備のあれで見た目が変わるのかな?)


と適当に考えているうちに次の説明に移った。


≪次はスキルを押してください。≫


右側のメニュー画面はずっと出ておりそのままスキルの欄を押した。するとバッグで表示された画面が消え、新たにスキル画面が表示された。


≪これはスキル画面になります。説明は後程行います。次はギルドです≫


誠二が何も反応出来ないまま次々と話が進む。もう少し長く見たいがチュートリアルが終わればゆっくり見れるだろうから今は従っておこう。

そう考え、矢印が出る前にギルドの欄を押した。


同じようにスキルの画面が消え、新たにギルドの画面が出てきた。今までの説明は説明されずとも理解できるような物だったが不明な単語が出てきた。


(攻城戦?闘技戦?なんだこれ。)


どうも見慣れない単語がある。が、これもチュートリアルで説明される事になる。


≪ギルドというのはこのゲームの仲間の集まりです。ドンドン交流を深め、ゲームの楽しさを広げて行きましょう。≫


つまりは高校で言う部活みたいなものなのかもしれない。残念ながら中学では部活はしておらずあまり興味は持てなかった。


ふーん、とナビゲーターが面白げに言うにはあまり興味が湧かずそれよりも気になる隣の二つの単語を早く教えてくれと言わんばかりに待った。


≪隣にある攻城戦とはその先ほど言ったギルドに所属しているプレイヤー全員が集まり『国』という領土を奪い合います。そして勝ち取ったギルドには関税やらクエストの発行など様々な特権が貰えます。そしてその城と言うのはここ、『始まりの国 カルテア』です。他にも様々な国がありますので色んな国での冒険を楽しみましょう。≫


(つまりこの攻城戦に勝てればこの今いるカルテアって国とか支配出来るのかな?)


それに他の国というのも気になる。

誠二はそれを頭の片隅に置いて次の説明を頭に入れる準備をした。


≪もう一つの闘技戦とはギルドとは関係無く闘技場という場所で行われ、最大100人の同時対戦になります。最後まで生き残り勝利を飾ると大金が手に入ります。定期的に開催されるので気になる方は参加してみましょう。参加方法は攻城戦の欄を押して参加ボタンで開始時刻になりますと強制的に移動させられます。≫


試しに押してみようとして見るが反応がしない。闘技戦の絵は灰色で隣の攻城戦も灰色だ。恐らく灰色の時は押しても反応はしないが開催または参加資格が得られると色が付くのだろう。

ナビゲーターも解説していないし今初心者の誠二には無関係の内容だった。


≪次に設定になります。ここではサウンドやマイク、ビデオの画質など細かく設定出来ます。ご自由に設定してください。≫


サウンドとは今聞こえている音の事でマイクはそのままマイクの事だ


VPIにはマイクも備えられている。これはボイスチャット、通称「VC」と言い、仲間とコミュニケーションをする時に役に立つ。


コミュニケーションを取る方法は先ほど言ったマイクともう一つ、キーボードで打ち込む事で話さずとも相手に自分の言葉を伝える事が出来るとこの二つだけだ。


しかし戦闘中や作業中に仲間とコミュニケーションをする時に難敵での戦闘中や作業中に中断し、キーボードを打つというのはあまりにも非効率的で中断しなかった場合意思疎通が取れない。


「だけど喋るのは恥ずかしいし・・・」と思う人もいるだろう。しかしこのゲームには«ボイスチェンジャー»なるシステムがある。それは男の野太い声をまるで可愛らしい少女の声にする事も可能だし少年の声をおばあちゃんのような優しく温かみのある声にする事も可能だ。


それ故かこのゲームではVCでする人が殆どだ。現に誠二の耳に聞こえる会話もプレイヤーによるものが大きい。


ちなみに誠二は見た目そのままから分かる通り隠す気はないし恥ずる気も無い。流石に部屋に誰か入ってきた音がしたりするとVCはしないが一人でいる時はVCでコミュニケーションを行うつもりだ。


想像してほしい。自分の育てて来た息子がベッドの横になって「アハハそれな~」「マジかよ!!」と叫んでいる姿を・・・出来れば想像したくない。


ビデオは今見ている画面モニターの事だ。それはまるでモニターではないかのように高画質に、そして自分の意識と同じ動きで世界を見せてくれている。変更する必要は無い。


≪最後にログアウトです。ここを押すとYES NOと出るのでYESと押したらログアウトになります。メニュー画面を消すには出した時の手の動きとは逆に下から上にする事で消せます。それではメニュー画面チュートリアルを終わります。良い旅を。≫


どうやらメニュー画面のチュートリアルは終わったみたいだがまだまだ続きそうだ。


《早速冒険へ出ましょう!指示された道を進んでください!》


自分の情報(職業はHPゲージやMPゲージが書いてある場所)の下に❕と一緒に指令みたいな物が飛んできた。

そして誠二の画面の前には誠二を導くために道が薄っすらと白く光っている。


取りあえず現在位置を確認すると周りには沢山人がいる。後ろを見ると青と白と水色が綺麗に渦を巻いていて現実ではあり得ない神秘的な光景をしている。

思わず吸い込まれそうだ。


これはポータルと言って各国(かくくに)に配置されている。これを使う事でワープと言う、互いの国を歩かずに行ったり来たり出来る訳だが決してどこの国にでもワープ出来る訳ではない。


ワープをするにあたり条件が一つ必要である。それは『必ず徒歩で一度国の門を潜らなければならない』という事だ。

つまり誠二で言うと今いる「始まりの国 カルテア」から門を潜って出て行き、徒歩で歩いてどこか知らない国へと時間をかけて歩かなければならない。


ただし、そう簡単に移動できる距離ではない。


今いる「始まりの国 カルテア」から一番近い国の「灼熱の国 イグニル」までは急いで行っても1日、普通に歩くだけなら3日は掛かる。それはゲーム内時間=現実の時間と同じように常にログインをしなければならない。


ここで注意なのは国の外ではログアウトは危険だという事だ。国を出ると保護エリアから外れ戦闘エリアに出てしまう事になる。

ログアウトとは寝ているという事であり、魔物の徘徊する外(戦闘エリア)で寝るという事は死を意味する。


幸い死んでもその前に居た国の大教会で復活するためデスペナルティというお金と経験値の喪失、暫くの間のステータスの低下を除くと何かしらあるという訳ではない。


しかしあとほんの少しの所でログアウトしなければならず、なるべく安全な所でログアウトしたとしてもログアウトしている最中に魔物にやられログインした頃には大教会に居た。

となれば人に寄っては発狂するかも知れない。


だが必ず徒歩という訳でも無い。この世界にはペットという魔物を仲間にするシステムがある。

飛行能力のある魔物や戦闘能力の高い魔物、愛玩用の可愛らしい魔物など様々だ。

どれも現実と同じように同じ種であれば繁殖させる事も可能で食用の魔物までもが存在する。


どの魔物でもキャラクターが乗れるほどの大きささえあれば騎乗することが出来、手綱というアイテムを使えば指示した通りに動いてくれる。ただいずれも性能が高ければ高いほど入手難易度も変化するため基本はログアウトしている最中はペットに番をさせ任せるのが主流だ。


誠二は指示された通りに移動を開始する。もっとも風景や何があるのか楽しむためにゆっくりと歩く。

するとポータルの近くを離れてすぐに知らない人に急に話しかけられた。


「やぁ!君初心者かい?」

「はい、そうですけど。」


名前は【アンドレ】職業【盗賊】LV23 見た目は30代後半のおじさんの風貌をしていて戦闘用の装備ではなく少しくたびれたような衣類を身に纏っている。


急に話しかけられても冷静に対処出来たが既に誠二の頭の中には二つの選択肢が浮かんでいた。


見るからに初心者の、それも始めたばかりの初心者である自分に話しかけるタイプは主に二つ。

「親切心で交流をしようとする者」「初心者で無知という事を使い利用しようとする者」


まだ判断は出来ないためもう少し話を聞いてみよう。


「レベル1だと中々狩れないよね?そこでなんだけど僕が作ったロングソード買って行かないかい?本来は1gの所を500gで売ってあげるよ。」


Kというのはキロと読み1キロとは1000gの事、gというのは(ゴールド)と読み、簡単に1g=1円と考えていい。

他にもM(メガ)の百万、G(ギガ)の十億がある。この世界では1g=1円のためMは使う事はあるがGは使う事はまず無いだろう。


しかしながらこの男下手だ。セールスというのはあくまでも相手にお得感を持たせなければならない。例え本当に1Mを半額の500gにしたとして最近の人達はセールスという事自体に疑念を抱いている。これほどあからさまにアピールすると逆にマイナス効果だ。


誠一は一度メニュー画面を開き、バッグの画面を表示させた。現在の所持金を確認するためだ。

先ほどはまだ使わないかと思い見ていなかったが、所持金の欄には【1000】と表示されている。


値段はかなり良い所だろう。500ならどれぐらい稼げるか分からないが最初から貰えたお金、しかもゲーム内通過という事からこの1000gというお金に執着心を抱く者は少ないしその半額という事で手が出しやすい。


だが無知というのは罪だ。何も知らないからと言って安易に相手の言う通りに聞いているといつか痛い目を見る。今回は恐らく本当にお得なのだろうが今後のため、無視をする事にした。


「ごめんなさい、待ってる人がいて急いでいるんです。」


息を吐くように嘘を付き、本物よりも本物らしい偽物の困った顔を作り出した。

今まで人付き合いはしなかったが表情の練習をしたおかげかどうやらキャラクターはしっかり偽物の困り顔をしてくれたようだ。


「そっかそっか。この世界本当に楽しいよ、いつかまた会ったらその時はよろしく。じゃ。」


アンドレというおじさんキャラクターはすぐにどこかへ行ってしまった。


しかしゲーム内だというのに意識から認識し、キャラクターの表情がコロコロ変わるのは本当に相手とやり取りをしているみたいで楽しい。


先ほど誠二のキャラクターは誠二の意を汲み取り偽物の笑顔をしてくれたがそれは普段から表情の練習をしている誠二だからこそ可能で、プレイヤーの意識に反応して出来る表情とどこの筋肉をどう使うか理解して出来る表情がある。それはそれは現実世界でも変わらない。


それはともかくこの国を眺めながら歩いていると遠くにある武器屋が見えた。先ほどのロングソードやら、市場の値段を見てみたい。


この世界のお店は全てプレイヤーによって経営されている。この誠二が今みている武器屋も例外ではない。

武器屋を経営するためには武器を作るために必要な職業がある。

それは今、誠二の職業である【冒険者】のような戦闘職とはもう一つ、サブ職業として生産職を選ぶ事が出来る。

生産職は戦闘職よりも数が多く紹介が仕切れないので省くがこの『サガミネワールド・オンライン』が面白い理由としてこの生産職の数の多さが一番貢献しているのではないだろうか。


見てみるために記された道を外れて向かうと...


≪導きの道から外れています。ただちに元の道に戻ってください。≫


警告が出てしまった。どうやらこの任務を完了しない限りは自由に出歩けないようだ。

それに道から外れるがそれ以上は進めない。身体は歩いているのに前には進んでいない異様な感覚があった。


マイケル・ジャクソンもびっくりだ。


誠二は仕方なく元の道に戻り、今度は眺めるのは後にし、急いで任務を達成し自由になろうと走って移動した。


門に辿り着き、外を見ると何か羽の生えた可愛い魔物がふよふよと浮いている。


門を潜るとまたナビゲーターの声が聞こえてきた。

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