大統領就任演説

 親愛なる国民の皆様、私はまず今日という日を迎えられたことに対して深く感謝いたします。私たちが今ここに立っているのはひとえに3か月前、英雄的な行動に出た宇宙飛行士アメリア・アンダーソン大佐のおかげです。アンダーソン大佐への取材は健康上の理由によりお断りさせていただいておりますが、彼女は現在国内の病院にてリハビリを受けており、快方傾向にあると報告を受けております。我々は彼女の一日でも早い回復を祈るものであります。

 私は当時、航空宇宙局長官として事故対応そしてアンダーソン船長の救出作戦を監督する立場にありました。この事件、あえて事件といいましょう、この事件の真相はより多くの人に理解していただく必要があると感じております。また、この事件を通じて私は今後の政治決定にもかかわってくる一つの決断を行いました。よって、大統領就任式という場ではありますが、メリフラワー号事件についての説明をさせていただきます。

 航空宇宙局からの公式発表で明らかにしたように、事故の直接の原因は電磁嵐の影響で深刻なシステムエラーが多重的に発生したことです。しかし、みなさん、今後さらに増えるであろう深宇宙へのフライトに際して常に電磁嵐に震える必要は本来なかったのです。我が国にはすでに電磁嵐から電子機器を防護する技術も安全に予備系統を作動させる技術もあったはずなのです。当時航空宇宙局を担当していた私が言うのだから間違いありません。

 皆さんは疑問に思うでしょう。「なぜ、メリフラワー号は事故に遭ったのか?」と。その理由も明らかです。使えたはずの技術を使わなかったからにほかなりません。

 では、なぜ使われなかったのか?その理由は些か複雑になります。我々は国際社会と強調した宇宙開発を長らく掲げてきました。その結果、惑星間航行宇宙船プロジェクトでは多くの部品を外国に発注しなくてはいけなくなったのです。エンジニアリングの知識をお持ちの方はすでに気づいているでしょう。そう、考え方の異なる技術を一つに束ねようとすれば必ずどこかに綻びが生じます。ではなぜ国際社会と協調して宇宙開発を進める必要があるのか、皆さん疑問に思っていることだと思います。答えは「我が国が宇宙を支配することを恐れているから」です。当然私たちには宇宙を支配する意思はありません、宇宙はオープンなものです。しかし、ある勢力は我々の宇宙進出に足枷を嵌め宇宙開発を遅らせるばかりではなく、多くの人々を危険にさらしました。

 私はこのような勢力を決して許しません。人類は宇宙へ出るべきなのです。我々はアンダーソン大佐に命を救われた身だ。我々を命がけで救った英雄の意志を尊重するのは助けられた我々の義務なのではないでしょうか?アンダーソン大佐は宇宙への夢を胸に抱いてきた飛行士です。

 私はここに誓います。我が国はここに我が国の宇宙進出に足枷を嵌めてきた宇宙開発枠組み条約からの脱退を宣言します! そして、国内において政治の事情を優先して人類の進むべき歩みを遅らせようとたくらむ輩を決して許しません。一人の人物の名を挙げましょう。トーマス・ウェッジ前大統領。彼は表向き宇宙開発促進派として活動していましたが実態は宇宙開発を促進するふりをして関連企業の利権をむさぼる醜い政治家です。メリフラワー号に最新の電磁嵐対策が施されなかったのも大統領による入札操作が存在したことは明々白々であります!

 彼だけではありません、私は国家の上層部にはびこるこのような離反者を決して許しません。我々は離反者を洗い出し、そして新しいフロンティアに踏み出すのです!




(以上、ウィンプス合衆国大統領就任演説冒頭より抜粋)

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