メリフラワー号、真実2

メリフラワー号のレコーダーの中の私が気を失うのを確認すると私はゆっくりと再生を止めた。もう十分だった。

 レコーダにはハッキリ映っていた。他の乗組員を乗せた脱出艇が離れた瞬間、画面の中の私は泣き出していた。泣きながら様々なことを言っていた。最初は様々な人や組織に対する罵詈雑言、それらは徐々にトーンダウンし最後には親しい人と思われる人物への感謝の言葉や償いの言葉に変化していった。そうやって喚き散らしている間もその眼は常に数少ない正常に稼働している計器を監視し手は姿勢制御エンジンの制御パネルに添えられていた。

 私はまるで他人の懺悔を聞くような気持ちで画面の中の私の行いを見ていたが、どうやら私はあまり人から好ましく感じられる人間ではなかったようだ。他人からどう思われているかを理解したうえで一方的な愛情を不器用に押し付けるタイプの人間であったのかもしれない。特に訓練センターで教えた未来の飛行士たちへのメッセージでは「危なっかしくて見てられない」というフレーズを5回も使用していた。

 

 「私がこのまま息絶えたら、まあ息絶えるんだろうけど、どのくらいの人が悲しむのかな?」

思わず口をついて出てきた言葉に対して、私は考え込んでしまった。

記憶がない中で考えるのは無意味なことかもしれないが、時間ならたっぷりある。少なくともレコーダーの中で私が言及していた人物は悲しんでくれるかもしれない。あの中には恋心を寄せていた人物も含まれているのだろうか?もしそうだとしたら今死んでしまうのは少し惜しい気がする。


 「いい機会だ、さっき保留にしていた宇宙飛行士になった理由についてもゆっくり考えてみることにしよう」


 まず判明している事実として、私はこの宇宙船の船長だった、そしてこの宇宙船は世界初の核融合パルスエンジン搭載船。つまり私はかなり優秀とされる飛行士であったか危険な任務で死んでもよいと思われていた飛行士の中で最も優秀だったかのどちらかであろう。両方かもしれない。

 さっきレコーダーで判明した限り私は様々な権力組織に強い憤りを覚えていたそうだ。この憤りを普段隠す努力をしていなかったとしたらこの機に私の存在を消そうともくろむ輩がいてもおかしくはない。しかし、その目的を達するためであれば殺すまでしなくても失脚させるだけでいいはずだ。例えば、船を意図的に故障させて責任を私に負わせるとか・・・。


「あ・・・」


心当たりがあった。レコーダーでみた最初のほう。いくら電磁嵐があったって言っても生命線ともいえる通信機材とメインエンジンの制御システムが予備も含めてすべて使えなくなるというのは少し異常ではないか?


「証拠はない、しかし十分にあり得る」

私は気分転換に壁を足で蹴って無重力空間を利用してその場でぐるぐる回転してみた。

「証拠がないことを考え続けても仕方ないわ」

それよりも、そんな命を狙われていそうな現場にい続けた理由のほうが気になる。

宇宙飛行そのものがリスクの高い行為であり他殺のリスクを相対的に低く評価していたのか。


「どうでもいいか」


ここまで来た動機はともかく最後は地球への落下を阻止してたくさんの人を救えたんだ、それで十分じゃないか。

「さて、いろいろあって疲れたな。音楽でも流しながら寝ようか」


私は、私物の中からスピーカーを取り出してきて音楽をかけた。

ホルスト、惑星組曲2番「金星」平和をもたらすもの

よほど疲れていたのだろう、ヴァイオリンソロを聞きながら私は眠りに落ちていた。

レコーダーにあったようにアイマスクをつけて無重力に漂いながら行う睡眠は今まで経験したこともないほど心地よかった、体中から力が抜けそもそも体などそこにないような快感が私を包み込む。

私は実のところ、この素晴らしい睡眠を打ち切り目覚める予定は一切なかったのだが、運命というものはこちらの言い分など聞いてくれないらしい。運命とやらに今後会う機会があったらたっぷり愚痴を言ってやらねばいけない。


そのころ漆黒の虚空を一隻のいびつな無人船が私をたたき起こすために突き進んでいた。

私が心地よい睡眠を楽しめるのもあと3時間といったところだろう。

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