インタビュー、元乗組員

お久しぶりです。ジョンジュールです。この連載記事もとうとう大詰めにいたってまいりました。本日お話を伺うのは、この事件を語る上で欠かしてはいけないメリフラワー号内部の状況を知る人物、当時メリフラワー号においてアメリア・アンダーソン船長とともに船の運行を行っていたアレクサンダー・シモンズさんです。

シモンズさんは現在は講演活動を中心に活躍しておられます。


—当時、メリフラワー号で起きたことについてお聞かせ願いますか?


いいでしょう。先だってきみつかいじょされた事故原因の報告書には様々なことが書かれていますが、私から見ればどれも責任の押し付け合いです。実際は不運も含めた様々な要因によって事故は引き起こされましたが、今日はただあった事を述べることにしましょう。


—よろしくお願いします。


我々メリフラワー号は当初の任務である木星軌道への探査機輸送を終え、地球への帰路についていました。メリフラワー号は長期にわたる運用を想定しているので一度帰還軌道に乗れば目的地を目視する距離に接近するまで我々飛行士の仕事はありません。全てコンピュータがやってくれます。

最初の異変は道半ばで起きました。史上稀に見る大型の電磁嵐です。メリフラワー号はあまりにも繊細な機械でした。通信機器が故障し、メインコンピュータの一部にも損傷が発生した形跡がありました。この時私たちはそのまま進み続ける事を選んだのです。調査委委員会ではこの判断が大いに糾弾されましたが、私はこの判断はあっていたと思います。軌道変更を試みるにも地上からの支援が得られない状況下での軌道変更は危険が大きすぎます。

幸い、地球帰還の手順はメリフラワーのメインコンピュータが記録していたので帰還は順調に進んでいるものと皆思っていました。

しかしその時にはもう事故へ至る歯車は回っていたのです。最初に異変に気付いたのはコントロールで当直に当たっていた私でした。私は何の気なしに進路方向を見たのです。そこに見えたのは、地球でした。


—地球への帰還中に進路上に地球があるのは普通では?


そうですね、でも違うんです。宇宙飛行は綿密なスケジュールに基づいて行われます。なので、まだ見えてはいけないものが見えたということはスケジュールに深刻なズレが生じたということです。

我々は焦りました。しかし、驚きはまだ終わりませんでした。

私はアンダーソン船長の指示で進路予測を行いました、そしてこのままではメリフラワー号は地球への衝突コースに入るとわかったのです。


—しかし、メリフラワー号は地球へ衝突しませんでした。


ええ、アンダーソン船長の英雄的行動によっておおくのひとびとが救われました。あの時、コンピュータの損傷によってメインエンジンの手動制御が出来ない状況でした。使えるのは姿勢制御用の化学エンジンだけ、その化学エンジンもコンピューター制御はできない状況でした。そこでジレンマが発生したのです。メリフラワー号の進路予測と並行して行われた脱出限界地点の計算結果で脱出した場合、衝突回避のためのエンジン制御ができないことがわかったのです。


—それで、アンダーソン船長が残ったのですね?


そうです。あの時、船長は死を覚悟していたのだと思います。「なんのために脱出艇が2つあるんだと思っているんだ!」と怒鳴られて押し切られてしまいましたが、あのアンダーソン船長がマニュアルにも記載された2つの脱出艇の射出システムが独立していない欠陥を見逃していたはずがありません。これが私が体験したメリフラワー号事故の経緯です。


—では帰還後の経緯などをお聞かせ願いますか?


わかりました。私たちは月面基地の救難部隊に回収されました。その後、月面での療養を経て地球に帰還しましたが、家に戻る暇さえ与えられず入院させられてしまったのです。名目は心的外傷後ストレス障害の治療でした。当時は「ちょっとやりすぎではないか」程度の感想でしたが、今になって思うとせんきょが終わるまで余計なコメントをして欲しくないということだったのでしょう。実際、外界とは完全に隔離されていましたから。当時は知りませんでしたが、ほかの元メリフラワー号乗組員も同じ状況だったようです。

晴れて退院した後は様々な委員会に呼ばれて証言をさせられました。うんざりしましたよ。何度も何度も同じことを聞かれて、自分たちの主張にとって都合がいいように証言を言換えさせようとする目的を隠そうともしていなかった。一通り証言が終わると次は新聞雑誌テレビのインタビューだ、こっちはこっちで世間が我々にどんな幻想を抱いているのかを突きつけられたようで驚くと同時に恐怖したね。


—すいません。


いや、いいんだよ。たしかにあの時代の人々はヒーローに飢えていた。そして、メリフラワー号事故を含む様々な出来事をへて、人々の飢えは宇宙への進出へと昇華していったのだと思っている。


—では最後に、あなたにとってのメリフラワー号事故はなんですか?


メリフラワー号は私の生き方を変えてしまった。もし事故が起きていなかったら今頃火星の植民団にいたかもしれない。さすがに歳をとりすぎているかな?

とにかく、あの事故で私は宇宙を政治の舞台としか見ていない人を見過ぎてしまった。政治とは自分が正しいと信じて疑わないもの同士の終わりなき争いだ。言葉でやっているうちは良いがね、人間はそんなにお利口さんではない。あの事故を経て私の生きる目的は宇宙で活躍することから宇宙を政治家から守ることへと変わってしまった。



シモンズさんの「宇宙を政治家から守る」という時の表情に見られた決意の色が非常に印象的でした。次回はこの連載の最終回となりますが、40年間口を閉ざし続けたあの方へのインタビューを予定しております。どうぞご期待ください。


聞き手;ジョン・ジュール

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