とある夫婦の話
その家は西部の温暖なリゾート地にあった。妻と夫の二人暮らしで、一人娘は3年前に結婚して東部の街へ引っ越していた。
夫の仕事は某映画会社の技術者、大学院時代は画像処理の研究をしていて、本当は天文学者かその助手になりたかったそうだが、結局星空を見るのではなく観客のために星空を作る仕事に就いた。もっとも、当人曰く「収入は天文学者より良いので満足している」そうであるが。
夫がいつものように、定時で仕事を終え自分が作った星空が使われてるドラマの放送を妻と見ようと車で帰宅すると、妻が困った顔をしていた。
話を聞いてみると、「なんだか放送が延期になりそうなの」と言う。
少々驚いたが、付けっ放しになっているテレビを見て夫は納得した。
『政府からの公式発表はされていませんが、専門家によりますと民間衛星からの画像を解析した結果、救難艇と思われる部品の離脱が確認されており、乗組員は月面基地に保護されている模様です』
夫の記憶によれば、史上初の核融合パルスエンジンを搭載した宇宙船「メリフラワー号」、開拓者たちをかつて乗せた船の名を冠した宇宙船が、木星圏への航海を終え帰途についているはずだった。
「確か帰還予定は明後日だったと思うが…、事故か…」
夫はもともと天文学者になりたかっただけあって宇宙開発関連のニュースは全て目を通すようにしている。当然ながらメリフラワーにも人並み以上の関心を払っていたので、楽しみにしていたドラマが延期になったことが気にならないくらいニュースに没頭していた。
夫の脳内では先ほど見たニュースの「画像を解析した結果」というフレーズがリピートしていた。
夫がここでテレビの電源を切って夕食の準備を手伝えるような男であれば、大学院まで粘ることはなかったであろう。彼は思った「俺もやりたい」。
その後、彼は夕食もとらずに書斎に籠ることになり重要な発見をするのであるが、それはまた別の話。
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