決断
「大統領の決断を仰ぎたいと思います」
ウィンプス長官は電話越しに大統領に泣きついた。泣きついたといっても泣いたわけではないがその実は同じであろう。
『つまり、君の話を聞く限りだと最大の問題は月面基地の行動に対する君の既存命令と委員会からの勧告が食い違ってしまったことだね』
「はい、このまま私が判断を覆せば現場に混乱が起きます。しかし委員会からの勧告では権威が欠けます。なのでここは大統領に出てきていただいて、方針を示していただければと思います」
『この件に関しては時期に大きな動きがあるだろうから、今焦って決めることはない。月面司令官はよく知っている男だ。それよりもいい機会だ、君に政治家としての心得でも説こうではないか』
「為政者たるもの意見を変えるべきではないと仰りたいのですか?」
『それは少し違うな。為政者は少ない情報で素早く大きな決断をしなくてはいけない情報が集まるに連れて微調整を施すのは必須といていい』
ウィンプスは電話に応じながらも壁にかけた時計を見つめていた。
『いつも言っているが、私は君に期待しているのだよ。次期大統領候補としてね』
「光栄です」
『ここで大事なのは、君の支持者が君に何を求めているのかを常に意識することだ。今の君はそのことを忘れている』
「私の支持者は、大統領の政策の継続と宇宙開発のさらなる促進を求めていると考えています」
ウィンプスは大統領の言っている意味が分からなかった。
『正解であり、不正解だ。確かに支持者に求めていることを聞けばそう答えるであろう。しかしだ、その要望はもっと根本的な欲望の発言なのではないかね?』
「根本的な欲求?」
『君は組織人としては優秀でも、世論という化け物を操るのには慣れていない。世論は組織と異なり論理的には動かないからね、君には苦手かもしれない。根本的な欲求とは、「強くありたい」という欲求だよ。人々は宇宙開発で我が国がイニシアティブをとることによってみることのできる夢を求めているのだ』
「我々は有権者の夢を投影する存在だと?」
『その通り、君がどんな決断をしようと決してしてはいけないのは、航空宇宙局が混乱していると見られることだ。わかるね?』
「はい。しかし、もし私が救援作業中断を徹底するとなると委員会が動く可能性があります」
『彼の動きから見るに、彼はスキャンダルで脅されているのだろう。勝手に失脚させればいい、宇宙局に逆らったら失脚する先例を作るのも悪くなかろう』
「しかし、もしスキャンダルが宇宙局や大統領に及んだら?」
『その心配はない、彼が握られているネタはすでに連邦捜査局が把握している。うまく立ち回れば宇宙局の失態から世論の目を背けられるたちの物だ』
「愚問でしたな」
ウィンプスは少し大統領が怖くなっていた、「この人に逆らえばすべてを失う」そう思わせるオーラも実力も大統領は持ち合わせていた。
『最後に、決断をするのは君だ。その後の立ち回りも含めて、私の後継者足りえるかのテストだと思ってほしい』
受話器を置いたウィンプス航空宇宙局長官に迷いはなかった。
歴代長官の写真を見つめる儀式はもう必要としなかった。
「これは好機だ。反乱分子はすべて闇に葬ることができる」
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