特集「政治と人事と…」

本日、お話を伺うのは、旅行代理店最大手、WST(ワールドスペーストラベル)の宇宙船担当副社長でいらっしゃる、ジョセフ・ベーカー氏です。ベーカー氏は事故当時、連邦航空宇宙局の人事部に配属された新人職員でした。ベーカー氏には謎の多いアンダーソン大佐の経歴について伺いたいと思います。


― ベーカー氏は当時、どのような仕事をなされていたのですか?


私の当時の仕事は人事部長の補佐官をさらに補佐する仕事でした。要するに雑用係です。でも、仕事柄常に人事部長と行動を共にしていたので色々勉強はできました。


― アンダーソン大佐とも面識があったそうですが、どのようなきっかけで出会われたのでしょうか?


アンダーソン大佐と始めて会ったのは、人事部長面談の時でした。まあ、面談という名の査問会ですね。酷いもんですよ、アンダーソン大佐は職責を全うしていただけだったのに。


―当時、アンダーソン大佐はどのような業務に従事していたのでしょうか?


メリフラワー号の設計チームにエンジニアとして入っていました。しかし、試作品の受注業者と揉めることも多く、長官からの督促に反抗したのがきっかけになって査問ののち訓練センターに送られました。


―訓練センター勤務は左遷だったということですか?


事実上の左遷でしたね。なんて言ったってネバダですから。アンダーソン大佐は体制批判を辞さないし、ものすごい苛烈なのに人望は厚い不思議な人でしたから、鬱陶しい存在だったんでしょう。もっとも大佐は当時「将来、宇宙船に乗る人間を育てるのは、その宇宙船を作るのと同じくらい大切な仕事だ」と言っていましたが。


— 厄介払いとして、言い方はともかく閑職へ追いやった割には、1年で再配置転換となっていますね。通常、人事異動は3年に1回と聞いたのですが。


それは、当時航空宇宙局が置かれていた状況が影響しています。当時の政権は世論の後押しを受けかなり強引に宇宙開発を推し進めていました。「ニューフロンティア政策」ってやつです。

その結果、月面基地のドックではメリフラワー級惑星間宇宙船1番船メリフラワーが艤装中、同2番船エンタープライズが進宙間際、メリフラワー級無人輸送船シャングリラがドック入りと言った状況でした。さらに地上の宇宙船整備本部ではメリフラワー号のデータを基にした新型宇宙船の計画が進んでおり、その建造予算まで議会を通過している状況だったのです。


— 確か、月面有人探査に続く航空宇宙局第2の全盛期でしたね。


ええ、確かに。でも、人事の人間に言わせると、その裏には大きな問題がありました。宇宙船ばかりどんどん出来上がり、それに乗る宇宙飛行士の量や質が不足してきたのです。長官はこういう時に政治に歯止めをかけて貰わなければいけなかったのですが、長官自身が大統領選挙への立候補予定だったので、それまでに輝かしい成果が欲しかったのでしょう。そしてアンダーソン大佐の当時の指導は優秀でしたが、規定の練度に達した訓練生に対しても不合格を出していたため人事部として行動を起こさざるを得ませんでした。

なんせ、現場には人がいない、訓練センターには練度の高い新人が居る。やることは一つだけです。しかし、アンダーソン大佐はこれに猛反対しましてね。あの喧嘩の場面ほど職場放棄の衝動に駆られた場面はありませんでした。

一方、月面基地では建造中の3隻の宇宙船の建造が計画通りに進まないことが問題視されていました。そこで人事部長は、訓練センターから大佐を引き剥がしたい自らの目的と、大佐を出来るだけ遠ざけておきたい、大統領選挙への出馬を控えた長官の目的を擦り合わせ、なおかつ月面基地への督促の意味も兼ねた正に切り札とも言える人事権発動でアンダーソン大佐を月面基地技術総監として送り込んだのです。


— アンダーソン大佐の経歴には政治的な側面が強いですね


ええ、彼女ほど政治にキャリアをいじられた飛行士はいないのではないでしょうか。一方のアンダーソン大佐は政治にはからっきし無関心で、ひとつだけ「成果が出る前に異動になるのはつまらない」とだけ言っていました。彼女らしいエピソードです。


— 少し気になっていたのですが、随分と大佐とは仲良くされていたのでは?随分とコメントの数が多いもので。


確かにほかの人よりは食事などに誘っていただけた数が多いかもしれませんね。宇宙飛行士と人事畑の新人事務員なんて不釣り合いも甚だしいですけど。


— アンダーソン大佐に女性的な魅力を感じていらした?


私には長年連れ添ってる妻がいるんです。冗談にしても際どいですよ。(笑)


— これは失礼いたしました。本日はありがとうございました。



最後の質問は確かに見方によっては不謹慎であったかもしれませんが、後ほど記事に載せて良いか尋ねたところ笑って快諾していただけました。

今回は、当時の政治状況とアメリア・アンダーソン大佐の関係について観てきましたが、次回は趣を変えて大佐の幼少期について聞いていきたいと思います。


(聞き手:ジョン・ジュール)

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