3時間目
宇宙船とは、左右対称である。
これは、人類が始めて宇宙に人工物を送り出して以来、少数の例外はあるものの、基本的には受け継がれていた。
「絶対、他の出入り口があるはずだ」
実際、私が設計者なら複数の出入口を作るはずだ。
酸素残量2時間。呼吸が荒くなっている。落ち着かなければ。
おそらく、もう一つのエアロックは宇宙船の反対側にあるはず。そうすると命綱の長さが足りない。
「切るか」
命綱を手繰り寄せ、先端の結合部を取り外す。
今、もっとも重要なことは、当たり前であるが、私は無重力空間にいる。
これの意味するところは、一度、宇宙船から体が離れたら最後慣性の法則のみが支配する空間へ放り出される危険性がある、ということだ。もちろん、どこが壊れているかもわからない宇宙船が急に加速したり、旋回したりするリスクもある。
足がすくむ。気を抜くと手から力が抜けて飛んでいきそうな感じがする。でもまあ、このまましがみついてても死ぬ訳だし、思い切ってみよう。
最初の掴めそうなポイントは…、少し遠いな。
何度かの命がけのジャンプと安全な迂回策を繰り返した結果、宇宙船の反対側にたどり着くのに1時間半を要した。
「頼む、生きててくれ」
思わず、予備のエアロックに向けて祈る。酸素の残量は10分を切って、気のせいか息苦しさを感じるようになった。
手順通り、外部と通じる蓋を閉め、体ごとぶつかるように緑のボタンを押し込む。しばらくすると、微かにシューっと言う空気の音が聞こえてきた。音が聞こえるということは空気が満たされているということだ。
「助かった…」
気圧が船内と等しくなるまでの間、私は考えた。
私はなぜ、宇宙飛行士になったのだろう。
恐らくは強い憧れや、きっかけがあったのだろうが、残念ながら覚えていない。ただ一つ確実なのは、救助された後、現場復帰するか選ばせてくれるなら、私は絶対宇宙には上がらないだろう。
ランプが赤から緑に変わった。エアロックの反対側から船内に入る。
新鮮でひんやりした空気が脱いだ宇宙服の隙間から流れ込んで気持ちがいい。しかし、このままでいたら寒くなって活動に支障が出るだろう。
「さて、私は私物をどこに置いていたのかな?」
着替えなくてはいけない。宇宙飛行士になった理由については、興味深いテーマだが時間があるときに考えるとしよう。
ロッカールームはコントロールルームの隣にあった。一番手前に「アメリア・アンダーソン」と刻印してある。おそらくここが私の私物入れだろう。
「なんだ?これ…」
ロッカーを開けた私は文字通り呆然と漂っていた。
「汚いな…」
もしかしたら、他のエリアで備品が散乱していたようにロッカーでも固定してあった私物が漂って、空の飲料用チューブが入ってきて、畳んであった衣服が瞬間的にシワになったに違いない…。
他のロッカーを見てみれば済むことだ。
「アレックス。男性だな。開けるぞ、アレックス」
顔も思い出せないアレックスに詫びを入れると勢いよくロッカーを開けて見た。
「…」
そこにあったのは、必要なものがすぐに見つかるように考えられていることが一目でわかる機能的に整理された…、いやもういい、分かった、私はこういうのが苦手だったんだ!
ともかく、服を着替えなければ風邪をひいてしまう。
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