特集2「技術者としてのアメリア船長」

特集第2回目となる今回は、現在、国際宇宙機構輸送船団整備局長であられます。キャシー・ヤン女史にお話を伺いたいと思います。女史はアメリア・アンダーソン大佐がメリフラワー号の船長を拝命する1年前、月面アームストロング基地ドックにおいてメリフラワー号最終組み立てに技術総監として従事した際にエンジニアリング補佐の担当副官として行動を共にしておられました(軍属ではないため階級はなし)。現在は、前述の通り宇宙開拓地の生命線と言える輸送船団の安全を預かる重職についておられます。



―アメリア大佐との出会いについてお聞かせ願いますか?

大尉(当時)の赴任はアームストロング基地始まって以来2番目の大事件だったのではないでしょうか?一番はメリフラワー号建造、2番目が鬼神アメリアの赴任。えぇ、基地司令を筆頭に大尉の赴任に恐れおののいていました。のちに知ったのですが、大尉は前任地の訓練センターで訓練生の繰り上げ配備に猛反対して本部に怒鳴り込めないように月に派遣されたそうです。当時はただの噂だと思っていたのですがね。

そんなわけで、基地中が恐れていたアメリア大尉の副官を誰にするか、という話になったときに当時一番下っ端だった私に白羽の矢が立ったわけです。アメリア大尉が実際にやってくるまでは完全なとばっちりだと思っていました。(少し考えて)実際に やってきてからも思ってましたね。


―アメリア大佐の仕事ぶりはどうでしたか?


アメリア大尉の受けた辞令は、技術総監というものでアメリア大尉のために月面司令と宇宙局長官が協議して作ったものでした。内容は「月面基地における技術者の査察、並び業務に関する勧告、要請をだすこと」。よく解釈すれば、新造宇宙船の建造に関して宇宙飛行士の観点から意見をいえると言えますし、穿った見方をすれば、上層部の技術的なことに夢中になって上層部の方針に逆らわないで欲しい、という願望も感じます。実際、権力なんてなにもありませんでしたから後者が正しいでしょう。今の私のような地位にいると嫌でもそういう策略の匂いを嗅いでしまいます。

しかし、アメリア大尉はそこで腐らなかったんです。それはそれは、是正勧告に次ぐ改善要請の嵐でした。人員輸送の関係で人事の変動が少なく、組織としての新鮮さが失われていた月面基地は技術部門だけ見違えるように改善されました。やってることはまるっきり暴走でしたけど。

大尉の暴走は私の人生も大きく変えました。大尉は、人を完全に能力で判断する方でした。もっとも、能力のある人材を平等に扱うだけじゃなくて、能力が役割に合っていない方を容赦なく罵倒される方でしたが…。そんな大尉がある日、ある勧告を出したんです。その名も「技術部門長の罷免勧告、後任の指名権の技術総監への付与要請」。


―そんなことまでしていたんですか?


確かに、いきなり聞いたら驚かれますよね。でも、当時の月面基地を占めていた考えは、「まあ、順当に行けばそうなるよな」と言った感じでした。もともと技術部門長は当時の宇宙局長官のかつての政敵だった方で、技術者でも宇宙飛行士でもありませんでした。要するに島流しでやってきただけのお飾りだったのです。月面司令も長官の派閥に属する方でしたので、そんな部門長がなんかしらの形で更迭されることは当然だとみなされていて、関心は誰が後任になるのか、でした。

一番人気はアメリア大尉が自ら部門長になるという意見で私もこれに属しました。他には、実質的に技術部門を仕切っていた部門長補佐官を部門長に昇進させると言ったものでした。

ところが、辞令交付の日の朝、非番で惰眠を貪っていた私を友人が殴らんばかりの勢いで起こしてきたのです。「あんた、いくら賄賂送ったの?」と、よく考えなくともとんでもなく失礼な物言いですが、そんなことを考えられなくなった友人の心境もなんとなく理解できます。なんと新技術部門長はもっとも下っ端だったはずの私だったのです。


—機密解除された事故原因調査報告書では「アメリア大佐の月面基地への指揮系統介入が事故の遠因となった」と書かれていますが。


皮肉にも必ずしも嘘とは言えないですね。アメリア大尉がいなかったら計画が遅れた末に予算打ち切りになって、そもそもメリフラワー号が飛ぶことはなかったでしょうから。





今回のインタビューでは技術者としてのアメリア・アンダーソン大佐に迫りました。アメリア大佐は前回のインタビューで伺ったような卓越した指導者としての側面とは別に、組織を立て直す政治力もを持っていたということがご理解いただけたと思います。彼女の政治力を大統領選への立候補を目論むワイルズ航空宇宙局長官(当時)が恐れていた、という噂はあながち間違っていないのかもしれません。

次回のインタビューは、そんな噂の元となったアメリア大佐の異例なキャリアについて、当時人事部書記官だった、ジョセフ・ベーカー氏にお話を伺いたいと思います。

(聞き手:ジョン・ジュール)

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