劇的ビフォーアフター2

 さぁて。家具と言えばまずは何かな。

 がらんとした室内を前に仁王立ちして考える。

 

 そうだな、まずは机だ。オーソドックスな四本足で、ガタガタしないように足はちゃんと太いやつ。机の面はつるつるだけど、木目は残す。高さは少し高めで、立ったままの作業もしやすいように。

 それに合わせて椅子、というよりはスツールの高さも上げて。

 床にはカーペットを引きたいけれど、それは素材の問題でまた今度。


 これら二つは想像しやすいし、構造も単純だ。センネンジュの丸太一本から机を一つ、スツールを三つほどすぐに作り出せた。それを部屋の中央に配置する。


 うん、これだけでもだいぶ変わる。玄関から入ってすぐのリビングとなる場所、窓からの光もぎりぎり当たる位置に明るい木目の家具。家の雰囲気がずいぶんと明るく、というか人の住んでる感が出てきた。いいねえ。


 続いて取り掛かったのはベット。こちらは長方形の型にヘッドボードとなる部分を木材で作り配置。マットレスの準備はまた今度。今晩はとりあえず固い木の上で寝ることになるが、地面よりはよっぽどマシというものだ。

 こちらはリビングの隣にある小さめの部屋に置いた。


 ついでとばかりにベッドサイドの小さなテーブルも配置。どこかでランプでも買ってきたい。本だったり小さめの小物が置けるスペースもしっかり完備。


 さてさて、お次はリビングに戻って棚を作る。まず、食器などを収納する食器棚。ガラス窓をはめ込みたかったのだが木材をガラスにする、というのはやめておいた。のでそこだけガラスをはめ込む溝を作って放置。ここまでくると、ちゃんとしたガラスを集めてきて形と質量だけ変換しようかと思って。

 簡単に言えば縛りプレイというやつだ。なんでもかんでも想像通り作れてしまって、楽しくなったのだ。どうせなら、素材集めも自分の手でやればもっとこのマイホームに愛着がわくんじゃないかなって思う。


 さあ次の棚。こちらは衣服の収納用だ。棚っていうか、まあクローゼット。こちらは少しシックな暗めの質感。上の段がコートなんかをかけられるようにして、下はたたんで収納する感じだ。俺は服とか多く持つ方じゃないからそこまでの大きさは必要ないだろうと思って小さめだ。

 次。こちらは物の収納用。小道具とか、本とか、雑貨とか。似たような形をした小物とかフィギュアとか、そういうのを集めるのが前世から好きだったから、物を置く用の棚っていうのは重要だ。

 絶対壊れないようにしないといけないし、なにより直射日光はいけない。そういうの諸々考えて、一番手を込ませた。

 まず四本足で収納部分は宙に浮かせて、そこまで存在感がないように。明るい質感で、上の面は物がたくさん置けるように広めにとる。真ん中は開き扉でこちらもガラスをはめ込む予定だ。下には工具とかでかくてごつごつしたものを置いて傷がついても分かりにくいようにあんまり開放的じゃないデザインにした。


「さて……」


 6つほどの家具を作って、一息つく。作りたてのスツールに腰を掛けて、ため息を一つ。一気に作ってしまった。というかここまで大型のものを連続で変換したのは初めてかもしれない。なんでも想像通り作れてしまうというのは楽しすぎて。センネンジュの木材を手に入れたおかげで、質量を増やして形を変える、ってだけで済んでいる、が、結構しんどい。これあれだなあ。石からここまでの家具を作っていたら机とスツール、ベッドあたりでぶっ倒れていたかもしれない。


「今日は、これくらいにしておこうかな」


 ぽつり、とつぶやく。部屋はずいぶん様になっていた。明るい新品みたいな木材の家具。もともと日当たりがいいおかげで柔らかい光がそれらを照らし合わせる。壁がちょっとぼろぼろなせいでモデルルームみたい、とはいかないけど住むには十分。

 これらの空っぽの棚がもので埋まっていくところを想像する。あぁ、いいなあ。好きなものを好きなだけ買って、好きなように配置する。

 これが夢だったんだ。前世は、働いてたからお金はあったけど、買うものを吟味する時間も、余裕もなかったから。


「はぁ、しあわせ」


 するするで肌触りのいい机に腕を組んで体重を預ける。香ばしい木の香り。うつくしい木目とまぶしいくらい傷のない面。それをぼんやり眺めながら部屋に入り込む太陽光を眺めていたら瞼が重くなってきた。

 

 周りが森で囲われているおかげで、ほんの少し強く風が吹けばざわざわと葉のこすれる音が聞こえる気がした。風は窓から入り込んで家の中をめぐる。どこまでものどかな家で俺はひとりまどろみに身を預けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る