晩御飯

「……んんん、もう、夜かあ」


 気が付けばもう夜。体を起こせば変な体制で長時間寝たおかげで、ずいぶんと首やら肩が痛い。どうやら突然魔法を使いまくったせいで疲労がたまっていたらしい。昼時をすっ飛ばして、今の時刻はだいたい夜の9時とかじゃないだろうか。眠る前までは心地よかった風はひんやりと冷え切ってしまって、少し肌寒い。

 明るい日差しの代わりに真っ白な月光が差し込む窓を閉めて一息つく。

 

 えぇと、腹、減ったなあ。

 寝ぼけ頭で考える。それから風呂にもいい加減入らないと。転生してからこっち、1日2日は風呂に入らないこともざらになってしまった。以前は湯船につかれなくてもシャワーだけはなるべくするようにしてたのだが。

 さてこのぼろぼろのマイホーム。水道インフラがどうなっているかというと、実はそれなりに整備されている。と言うのも、購入する前にはなかったのだが、両親がそこはちゃんとしろと言って事前に水周りだけは改装してくれた。だから実はキッチンとトイレ、それから風呂はぼろぼろの家の中ではずいぶんときれいになっている。壁、床などは自分で整備できるからそこらへんでなるべく費用は浮かせるつもりだった。

 昨日は風呂に入る余裕がなかったわけだけど、今日くらいは入るかぁと思う。けど浴槽に溜めると今度水道代というものがこちらの世界でもかかるわけなので。そこはちゃんと整備されているからね。ということでささっとシャワーを浴びる。


 風呂から上がり、再びスツールに座る。

 少し冷たい風に当たりながら薄暗い部屋をぼんやりと眺める。シャワーのおかげで目は覚めたが、寝すぎたせいで頭が重たい。


 一人暮らし、それも職に就いていないと、こんなに時間があるんだとひしひしと感じた。

 シンと静まり返った部屋。ランプの灯りがなく、家具はあるが雑貨がないからがらんとして見える。


「はあ。……おなかすいた」


 そういえば。朝食べてから何も食べてない。引っ越しの時に持ってきた鞄をガサゴソ漁る。こういうときのために……


「てってれーー、ドライフルーツ~~」


 ガラスの容器に入った色とりどりの乾燥させた果物。俺が趣味として実家にいるあいだちょこちょこ作り置きしておいたものだ。こうしておけばかさばらずに沢山持ち運べて、かつそのまま食べてもおいしい。さらに固有魔法を使えば割と簡単にもとのフルーツにしてしまえる。

 そういうわけで、いろいろなフルーツを乾燥させてはこうして瓶詰めにするという、まぁこれも趣味の一環である。きれいなガラス瓶に入った色とりどりのドライフルーツが並んでる棚って良くない?俺はそれを作りたい。今度ドライフルーツ用の棚を作ってもいいかも。そこにこの世界のいろんな種類のドライフルーツを並べる。……うん、実に楽しそうでお洒落な趣味だ。


 そんな妄想をしながら持ってきたドライフルーツをパクパク食べる。正直腹の足しになるかと言われればそこまでなのだが、甘い物は良い。あぁこんど回復ポーション漬けのドライフルーツとかもいいかも、なんて思いながら食べていればあっというまだった。気が付けばガラスの容器は空っぽだった。


「まだ食べ足りないけど……」


 明日でいいかな。うん、明日の朝はちょっとガッツリにしよう。そう思いながら、さっき沢山眠ったはずなのに再び襲ってきた眠気に逆らうことなく木製のかったいベットで眠りについた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る