整理整頓
センネンジュを受け取った俺はそのまま家に帰った。質量が詰まっているのか、センネンジュの木はとても重くて持って帰るのにも一苦労だった。
家について、センネンジュの木を床に降ろし、その前に座り込む。
一度、俺の魔法について整理してみようと思う。
固有魔法、
俺個人が、生まれた時から所持、つまり扱うことのできるとくべつなまほう。固有魔法は人それぞれで、その分、解明が難しくなる。というのも、一般に扱えるようになる通常の魔法などはもう長い間親しまれてきたものだからその分原理の解明も行われていて、それぞれの魔法の適正な使い方も対処も判明している。だが、固有魔法というものは多種多様で、個人差が大きい。故に明確な定義もなく、発動条件、効果は自分で手探りで知っていくしかないものだ。
俺の魔法はその固有魔法の中でも特殊なものだ。前の記憶を頼りに、”恐らく”原子レベルでモノを分解し、別のものに組み立てているのだろう、と思っているが、それが本当に正しいのかは知らない。なんで原子レベル、と言われれば、魔法を使っているときの感覚で、としか答えられない。
例えば、石を斧に変えるとする。
その場合、石を細かくして、原形がなくなるまで元に戻す。それからそれを粘土の様にこね回して、別の形に固める。この時、変換先のイメージがあやふやだと、その分出来上がりもあやふやで斧とは呼べないものになるのだ。
でも、斧は刃の部分こそ石でできているかもしれないが、取っ手の部分を木で造ったりもできる。取っ手まですべてを石で作るならそのまま粘土の様にすればいいのだが、それを木にするのであれば原形がなくなった石のかけらに魔力を混ぜ込んで、別の物質に変化させてしまう。それを固めれば、木材の出来上がり、というわけで。
我ながら、有用すぎる魔法だと思う。つまり、俺は石からダイヤモンドだって作ろうと思えば作れてしまうのだ。想像力さえあれば。多分、人だって簡単に別のものにできる。
元に戻すという過程で、それを何と言葉にすればいいか考えて、昔理科の授業で物質は全て原子から何経っていると習ったことを思い出した。物質を形作る一番小さな単位まで変換して、そこで魔力っていうまほうを一つまみ混ぜ込む。そしたら、俺の思うように変わる。
俺がこの能力を隠したのは、その便利性と限度のなさに由来する。そもそも、スキル、生命の源。これはどんな書籍にだって乗っていないスキルだ。この世界においてスキルと固有魔法は全く異なっている。固有魔法は言語化されていないが、スキルは言葉でしっかりと表示されることが大きい。
だからこそスキル辞書なんてものが存在するわけだが。
珍しいスキル、というのは保有者にとって有益なものばかりじゃない。珍しいスキルを持っているがゆえに人さらいに会うなんて話もよく聞く。スキルは売り買いできず、物質への変換も不可能だ。ならば、保有者をどうこうするしかないわけで。
これを悪用すれば、たぶん、おれはこの国で一番の金持ちになれる。人だって殺せる。冒険者も、なろうと思えばなれる。
だけど、それはしたくなかった。恵まれすぎている、と思う。魔力の保有量が異常なまでに多いことも、不明瞭な点の多いスキルに固有魔法のことも。なぜと思う。俺は普通に、凡人的に、ある程度仕事をしてお金を稼いで、趣味に費やす生活ができれば天国みたいなもんなんだけど。
けどな。人間、届くもんなら手を伸ばしてしまうのだ。
普通に、なんていってもこんな万能の力を持ったんだから、せっかくなら使い倒し て趣味へ没頭してやろうって思うじゃん。
と、いうわけで。
「センネンジュ、増やすかあ」
一本金貨一枚の丸太、50本くらいにはしておきました。
犯罪はばれなきゃ犯罪じゃないだろ?
この家の立地はそういう理由も、ないこともない。
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