なんでも屋
改めて店内を見回すと、店内は驚くほどに何もなかった。店に入ってすぐのカウンターに、それから腰掛ける用のソファー、あととりあえずといわんばかりに適当に置かれたようにしか見えない観葉植物。なんでも屋というからには店内には雑多にモノが置かれているイメージだったが、入ってみればそこはまるで前世の銀行のような感じだった。
そんなことを考えていると女性が再び奥から顔を出した。女性は三本ほど、きれいに皮がめくられた丸太を抱えており、それをカウンターの上にドゴッと置いた。かなり重そうな音だった。
「まず、こっちの一番左の奴が、カシの木で堅くて物持ちがいいのが特徴だ。それから真ん中がアオギリ。水をはじく性質があって腐りにくい。それで最後が、センネンジュの小枝だな。まぁこれが一番丈夫だし物持ちもいいし、なによりあのセンネンジュからとれた奴だから、含まれる魔力も二つとは比じゃないくらい多い」
女性がカウンターに並べた丸太はどれを見ても立派で、さっき見た目以上に重そうに見えたのは中身が詰まっているせいで、決して気のせいではなかったのかもしれない。この店が扱っているものが一級品だというのが、素人目から見ても確かにそうだろうなぁと思わせる品々だった。
「えっと‥‥」
とはいっても、俺はなるべく節約して木材を買いたいのだ。家に持ち帰ってから魔力で加工するわけなので、サイズ自体はあまり気にしない。勿論、いい素材でいい家具を作るに越したことはないのだが、この丸太たちはかなりの高値が付くことは間違いないのだろう。
「なんだい、気に入らないのかい?」
「あ、いやそういうことでは!ただ、俺今ホントにお金なくて…」
「はぁ、ったく。値段聞く前からそんなこと言うんじゃないよ」
「え、でも…」
あーもう、と唸ってがりがりと女性がその白い頭を掻きまわすように掻いた。カウンターのせいでどこまで伸びているのかはわからなかったが、少なくとも女性の胸より下まで伸びる髪の毛は絡まらないのだろうか。そんな場違いなことを考えた。
「いいよ、あんたが値段を決めな。それで売ってやる」
どん、とカウンターに手をだして男気溢れる言い方をする女性に、俺は
「え、そんないいですよ、申し訳ないです」
と返すものの、女性は納得しないような顔をする。
「あーもう、煮え切らない男だねぇ、あんた。いいんだよ、こっちがそれで構わないって言ってんだから、そういうときは好意に甘えるってもんだ」
「…どうしてそこまでしてくださるんですか?」
「まぁリミールちゃんの紹介ってのが一番デカいな。それから、ウチの店に折角来てくれたんだから、望みの品を買ってってもらいたいってのもある。これでもなんでも屋名乗ってんだから、店に来てほしいものがなかったって返すわけにはいかないだろ?」
そういって女性はまたニッと笑った。ほんとにいいのだろうか。俺としては安ければ安いだけありがたい話なのだが…。
「ほら、選んだ選んだ。あんたがどういう用途で使いたいか知らないからまぁ扱いやすい木を持ってきたが、他にも在庫はたくさんある。何ならここにない奴でもいいな」
女性は得意げにぺらぺらと話す。先ほど、王都で名の知れた、と言っていたから有名店なりのプライドとかもあるのだろう。
もういっそセンネンジュとかいうめっちゃ高価そうなやつとか買ってしまおうか。そう思って、目線をセンネンジュの丸太へ移した瞬間、
「お。センネンジュかい。いいとこに目をつけるじゃないか」
と楽しそうな女性のヤジが入る。まだ欲しいとは一言も言っていないのにである。
「…あの、ほんとに俺持ち金ないですよ?いいんですか?」
「だから、さっきからいいっていってんだ」
「すみません…あの、じゃあこのセンネンジュってやつ、いいですか?」
俺は木の種類とかに詳しくはないのだ。ただ木製の家具が造りたいってだけなのだ。そう言いつつもやっぱり一番高そうな、センネンジュの丸太を指さすと、女性が満足したような顔で頷いた。
「あぁ、わかった。値段はそっちで決めてくれ」
値段、値段かぁ。これまた迷う。これ、ほんとに正規の金額だといくらするのだろうか。
「あの、これって普段いくらくらいで売買されるんですかね…?」
「そうさなぁ…これ一本で金貨一枚くらいだ」
「え……」
え。やばくね?思わず冷や汗が流れた気がする。だって、金貨一枚って、あれだぞ。一か月は仕事せずに遊んで暮らせるぞ。この丸太一本でそれってマジで高くね???やばい俺はほんとに来てはいけない店に来てしまったのだろう。
「まぁそんなことは気にしなさんな。こっちだってあんたが金貨ほいほい払えるようには見えてないさ」
マジでいいんだろうかという気持ちと、そんな高価なものをこちらの言い値で購入できるといことに、ラッキーと感じないわけでもないし。リミールさんのこともあるし、この女性が悪い人にも見えないし。
俺は財布の中を思い出す。実家を出る際に持ってきたのは、両親が持たせてくれた金貨一枚と、俺が生まれてこの方家を出たときのためにためてきた貯金の銀貨が30枚ほど。これからのことも考えると、大体、銀貨10枚ほどに収められたらうれしいのだが…あんまり安い値段で買っても、女性に失礼な気しかしないし…
「……ま、そうだよなぁ」
「え?」
「いンや。じゃあ銀貨5枚。どうだ?」
ニッっと笑う顔には本当にマイナスな感情は浮かんでいなくて、いいのかと思いながら財布を取り出す。
「えと。それじゃあ、それでよろしくお願いします」
「おう!」
銀貨五枚とセンネンジュを交換する。ほら、と渡された木はずっしりと重く、落とさないように気を付けながら受け取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます