木材ショップ

 あの後リミールさんからとある何でも屋について教えてもらった。何でも屋との名の通り、何でも取り扱っているらしい。中でも鉱石や、木材、皮などの所謂全材料とされるものを多く取り扱っているのだとか。

 もうこの際、金が〜とか言ってられない。リミールさんの親切を無碍にするわけにもいかないし、これはもう行くしかないじゃないか!とういうことで俺はリミールさんに地図を貰い、そこへ向かうことにした。



 店はギルドから歩いて10分ほどですよ、と言われていた通りだいたい10分で着いた。ギルド自体が割と王都の中心にあるのだが、そこから少しはずれへと向かった、住宅地のはずれ。


 ━━━━変なでっかい角があるお店なので、わかりやすいかと思います。


 そんなことを言ったリミールさんに首を傾げたものだが。全くリミールさんが言うことは間違っていなかった。



 ふつーの住宅地に囲まれた場所に位置するその店は若干、浮いていた。それもそのはず、店の木製のドアの上には、多分俺の身体ほどある大きさの角を持つトナカイみたいなのの生首が貼っつけてあって、そこになんでも屋と書かれたプレートが引っ掛かっていた。いやなに、その生首が割と怖いのだ。トナカイっぽい、といいつつこっちの世界特有のモンスターなのであろう、瞳が異常にでかくて突き出した口から見えるのは異様なまでに尖り肥大化した歯。普通に幼い子供が見たら泣き泣き出しそうだ。

 あいにく俺はちゃんと大人なので泣くことはなく、店内に入ることにしたが。

 店内に入ると、すぐそこにカウンターがあって、その奥には椅子に座った女性が本を読んでいた。ドアを開けたときになった、ちりんという鈴の音で女性が顔をあげ、俺を見た。


「いらっしゃい」


 落ち着いた声音だった。女性にしては低めで、少しかすれており、耳に残る声だった。また、女性の髪は白かった。まるで年老いた老婆のように真っ白だ。だがそれにあまり違和感を感じないほど女性の肌もまた白く、すっとしたどこか儚げな顔立ちによく合っていた。とはいっても、年齢は見たところ20代後半かそこらだろう。


「こんにちは」

「こんにちは。初めてのお客さんだね?」


 女性は口の端をニッと釣り上げて笑った。それはパッと見たとき受けた印象がガラッと変わるものでもあった。


「あ、はい。ギルドにいたのリミールさんに紹介されてきたんですが…」


 リミールさんは私の名前言えばわかってくださるでしょう、と言っていた。


「あぁ、リミールちゃんか。そうかあの子の紹介ねぇ」


 女性は楽しそうに声を弾ませる。俺としてはちゃんと店を間違えていなかったことに今更安どして小さくため息を吐いた。


「それで?今日は何を探しに来たんだい?」

「木材を探しに」

「木材?どんな木だ?」

「えぇと、ある程度丈夫であれば特にこれがいいとかはありません。普通に、そこらへんに生えている木とかでいいんですけど…」

「はぁ?」

「え?」

 

 俺、何か変なこと言っただろうか。女性が素っ頓狂な声を出す。


「お客さん、うちの店にまで来てそんな木材を探しているのかい」

「え、リミールさんに、いい木材を扱っている店があるって聞いてきたんですが…」

「あー‥‥。いいかい、お客さん。ウチはこれでも王都で名の知れてるなんでも屋なんだよ。そんな普通の木材なんてほかで買えばいいだろう」

「そうなんですか。俺、昨日王都に越してきたばかりで、そういうの全く知らなくて…すみません」


 なんだ、リミールさん。俺、かなり恥ずかしいことをしてしまったのではないだろうか。あれだ、すっげー有名な宝石店に行って石ころくださいって言ってるようなものってことだろ、要は。心の中でリミールさぁぁぁん、と喚く。が、それは表に出さず、なんとなく気まずくなってしまった店から早く出たい。


「えっと…あの、じゃあ帰ります。ありがとうございました」


 と、背後のドアノブに手をかけたとき。


「まぁちょっと待ちな。リミールがわざわざ紹介してきたってことは、何かあるんだろうよ。ウチにはそこらへんに生えてる木なんてわざわざ取り扱ってないが、グレードの高い立派な木材なら取り揃えてるんだ」


 そう呼び止められる。が、俺的にはいまグレード値段の高い木材はあんまりお呼びではないわけで。


「いえ、あの、俺今あんまり手持ちがなくって。すみません」

「それで安い木材探してるのかい」

「はい」

「あー、それじゃぁ多少は値引きしてやるさ。まぁ初回特典とで思ってみてみるだけどうだい?」


 そう言って女性はカウンターの奥へと引っ込んでいってしまう。話の聞かない女性なのかな…と失礼なことを思いながら一人店内に残された俺は帰るに帰れなくなってしまった。

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