たった一度の異世界ライフ

センラ達が帰ってからは家の周りの森を少し探索して回ってみることにした。木とか切っちゃってもいいかわからなかったし。このマイホームを囲う森は、街に接した方にはあまり広くは無いのだが、家の裏手に行けば王都の外まで広がる森となっている。つまりは、家の裏の森はモンスターが存在する。王都にモンスターが入り込まないように結界があるお陰で、自分の家の背後から敵襲、なんてことは起こらないがそれなりに森へ入り込めば結界の境界がある。そこを超えればもうモンスターが闊歩する街の外である。聞いた話、平均してモンスターのレベルが20~30程度だとか。あくまで目安だ。

行ってみたい気もする。俺の実家の村だと、だいたいレベル5とかそこらでつまらなかったし、でっかいネズミとかそういうやつばっかだったのだ。荒事を好む訳でもないが、異世界に来た手前、モンスターとの戦闘も、やってみたいと思う一つである。

しかし、一度きりの異世界ライフなんだ!すぐさま死ぬ訳にはいかない。


と、言うことで!


装備とか揃えたい。そしてモンスターと戦うと、ステータスも上昇する。でも今の俺がレベル20のモンスターを倒せるのだろうか?



……いやいや、ちょっと待て。俺は!家の家具を揃えることをしなければならないのだ。

…………でもモンスター狩り、行ってみたい。


「うーーーーーーーん」


いや、流石に今夜も床で寝るのはさすがに嫌だ。モンスター狩りは我慢しよう。


というわけで、取り敢えず、木を切ろう。元々この家手入れもされず放置されていた訳だし、周りに生えている木を切ったところで怒られもしないだろう。


家の裏手に回って、手頃なものがないか辺りを見渡すと、少し大きめの石があった。人の頭一つくらいの苔の生えた石。


「ま、これでいっか」


石に手を当てて、目を閉じる。


変化change


石に魔力を流し込む。そしてそれを鋭い刃を持った斧を象るように変形させ━━━━


「……よし」


目を開けたそこには、想像した通りの斧があった。上の刃の部分は反射して俺の顔が映るほどに鋭く、取っ手の部分も石でできている訳だがかなり上出来だと思う。

ソレに丈夫になるよう補助の硬化魔法をかけ、自身にも身体強化の魔法をかける。

2つとも魔法としては初心者でも扱える簡易的なものだが、こういった魔法は幅広く使えて便利なのだ。


石の斧、完成である。

俺は斧をもって、適当に目の前に生えている木を見る。樹齢なぞパッと見分からないが、それなりに立派な木である。俺のあまりない筋肉でこの木を倒すことはできるのだろうか?木なんて倒した事ないし。

しかし、そうして木を眺めていれば勝手に倒れてくれる訳でもなく。俺は家の方に倒れないように、家を背にして木の前に立つ。

足を肩幅よりも広めに開いて、斧を握る。そして、そのまま斧を横に振りかぶった。前世で俺はインドア派だったので野球とかはやっていなかったが、まぁ野球のバットを振るような感じだ。思い切り、フルスイング。


「はッ!」


木に斧をぶつけた瞬間。ガゴッという音と、激しい衝撃。手から腕へと痺れが這った。


「━━━━ッッ!」


ヒュ、と引きつった呼吸。ジンジン痺れる腕。まじで痛い。めちゃくちゃ痛い。腕がガクブルする。声にならない悲鳴を上げて蹲る。


痛い痛いと転げ回ること数分。

俺は腕の痛みが治まってきた頃に、斧で殴った木を見れば、そこには小さな傷がついているだけだった。軽く絶望した。無理だ。今の俺の筋力では木なぞ切れないだろう。それこそチェーンソーとかでも使わないと。


「あーーー、痛てぇ」


未だ痛みは残っていたが、立ち上がる。石の斧は刃先がかけていた。まじかぁ、とため息。チェーンソー……チェーンソーかぁ。作くれるかなぁ……。それっぽいものを作るのは無理ではないけど面倒臭い気がする。


「うーーーーーーん、どうしよう」


これは大人しく木材を手に入れるには街へ出た方がいい気がする。


俺は取り敢えず斧を回収して家に置いて財布をもった。財布の中にはそれなりの金額はあるが、それも無限じゃない。取り敢えず、寝床の分だけでもどうにかしようと思う。

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