▼ まわり と せんら が なかまになった !!
「勇者…?」
「うん、プリンと云うのはもともとこの世界にはないものなの。だから、それを知っているということは、別の世界の知識が必要でしょ。それであなたも異世界転移をしてきた勇者なのかなって…」
早口にまくしたてるマワリに、頷く。なるほど、そういうことか…。ただ、転生ではなく転移というところが引っ掛かった。
俺はこの世界に転移してきたわけではなく転生してきた。多分話しぶりからするにこの世界に転移してくることは勇者としての召喚される、という方法しかないのだろうか。マワリの口調は断定的な雰囲気があった。となれば、
「俺は勇者じゃないよ。だけど、君たちは勇者なんだね?」
「うん…まぁ」
先程のパンチはセンラがクッションになってダメージが軽減されていたが、かなり威力があった。マシにはなってきたがまだ背中がひりひりする。マワリの、少女と呼んでも相違ない体形で、センラを吹っ飛ばしていたのに本気ぽくもなかったし、勇者といわれても納得のいく程度の実力はあるのだろうな、と思う。
「じゃあなんで異世界の料理を知ってたの?」
「んー…」
正直、マワリの質問に素直に答えようか迷った。が、ここで隠してももうプリンといってしまってるわけだし。素直に伝えることにした。
「俺はこの世界に転移したんじゃなくて、転生してきたんだ。だから前世の記憶としてその“異世界の料理”を知ってこと」
「あぁ、なるほど。前世持ちだったってことか」
センラが頷く。納得してくれたようでひとまず安心した。
「へえ、俺、前世持ちって初めて会った」
「ね、私も。私たちみたいに転移してきたって人には何人かあったことがあったから、そっちかと思っちゃった。ごめんなさい」
「うんん、気にしないで」
ぺこりと謝るマワリにはさきほどのような怒りはなく、かわいらしい女の子に戻っていた。じろじろと見てくる二人に若干の居心地の悪さを感じながらも、なにを話そうかと黙っていると、センラが口を開いた。
「そういえば、あんたはここに住み始めたのか?」
「あぁ、うん。昨日ここに引っ越してきたんだ」
「へぇ。そうなのか」
「ええ、やっぱり前世の記憶とかがあると試してみたいこととかいっぱいあって…」
「こっちの世界楽しいよな」
「魔法とかあるもんね!」
「心躍るっていうか」
「それー!」
俺がぽつりと話した言葉に、二人がすごい勢いで乗ってきた。二人は何度か転移してきた人にあったことがあるといったが俺は転生してから、同じようにほかの世界の記憶を持った人と話すのは初めてのことで。久しぶりに同じ文化の人達に会えたと嬉しくなる。
それから、もちろん会話は弾んだ。二人とも俺と年齢が同じということもあり(ちなみに花の18歳)、打ち解けるのはすぐだった。しばらく話し込んで、二人は帰っていった。
「じゃーね!また来るよ!」
ぶんぶんと手を振るマワリが見えなくなるまで手を振って、独りになった家で考え込む。
二人の話でわかったことがある。
まず、この世界に転移してくるにはこちらの世界から“召喚”という儀式に巻き込まれる必要があるということ(転移と転生は別物である)。ただ、儀式と云うものは特定の誰かを定めて行われているわけではないようで、勇者としての適性があるかどうかは賭けなのだとか。勇者じゃない場合はステータスとかがまるで普通の一般人らしく、つまるところ勇者とはステータスが普通の人間より優れている人達の事を指すらしい。
なぜ転移者のステータスが優れているのか、というのはわかっていないらしい。それ故に、勇者と云うのは転移者の中から選ばれることが多いのだとか。過去は何人か転移者ではない勇者もいたらしいが、非常に珍しいことらしい。一代の勇者が魔王を倒し、その後魔王を倒した勇者が死亡すると、再び魔王は再臨する。そして勇者となるべくして新たな転移者が呼び寄せられる。まぁそんな仕組みなのだとか。そして、今の代はあの二人だけ。三年ほど前にこの世界に転移してきて、半年ほど前やっと魔王軍を倒してきたそうで。今は特に脅威的なものはいなく、元の世界に戻る気はなかった二人はこうして王都の端っこでのんびりと生活しているそうだ。
ただ、こちらに来る前の世界でそれぞれにいい思い出は無かったようだ。マワリは2027年の日本から来たと言っていた。自分が死んだのは2020年。丁度オリンピックの年だった。ブラック企業な自分はオリンピックなんか無かったけどねぇ!
でも、そう考えると時間軸がばらばらになる。自分が死んで転生してから18歳になるまでに着実に18年の時が流れている。が、2027年から転移してきて、今この世界で3年たって18歳になったらしいマワリ達。
2020年に死んだ俺が仮に18年生きたとすると現在は2038年。2027年からマワリたちが生きていたとしたら、現在2030年。同じ年齢にすると、8年分のズレが生じることになる。それらの事から、やはりこちらの世界とあちらの世界は別の離された世界ということなのだろうか。
マワリは俺と同じ世界から来ていると思ったが、偶然に同じ様な世界で、本当は別物なのかもしれない。それから面白いことに、センラの方はまた違うらしい。生まれた時から魔法が存在している世界に居たのだとか。でも今の世界とは違って銃など、科学もあったそうだから、この世界、俺やマワリがいた世界、センラがいた世界……多分たくさんの世界が存在しているのだと思う。
…なんというか、こういう、いかにもファンタジーな感じが凄く楽しい。
センラとマワリもそれなりに何かあったのだろう。魔王を倒す勇者なんてそうそう体験できるものでもないし。でも自分にはこんなふうにのんびり過ごすことが性に合ってるんじゃないかなぁとも思った。
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