騒がしい

「いやぁ。まじでどうしようかなぁ」


 家の片付けをしたいのに、片付ける場所がない。どこかで木材でも入手できればいいのだが、引っ越してきたばかりで街のどこで木材を手に入れれるかなんて知らないし。

 

 いっそ家の周りの木でも切るか。

 半分冗談で家の外に出たときである。


「センラの馬鹿!阿保!ゴミカス!」


「!?」


いやどんな低知能な罵りだよ。

そんな声が聞こえたすぐあとに、森から人が出てきた。走って木の間をくぐるように俺の庭へ出てきた人物と目が合った。そして俺を見ると目を丸くして、


「あれ!?ここ、人住んでたっけ?」


と叫んだ。


「あ、どうも、最近引っ越してきたものですー」

「そうか!引っ越してきたんだな!それよか早く……」


どうにも急ぎの用があるらしく、落ち着く様子がない。


「えっと……大丈夫?」

「おう、全然大丈夫じゃな────」


言いかけた瞬間、目の前の人が、


「ゴハッ」


吹っ飛んでくる。


「は?」


避けるなんて考える前に、前から凄まじい衝撃。

次に浮遊感。最後に背中に走る痛み。


「!!??」


「イッテェ……あ、ヤバ、お前大丈夫か!?」

「あ、はぃ…ぜんぜん、だいじょう、ぶ…」

「それは大丈夫じゃねーな!ごめん!あっ…」


何が起こった?頭がグラグラする。背中がかなり痛いし、前からの衝撃で若干気持ち悪い。それでもどういうことだと周りを見渡した。

さっきたっていた場所が少し遠くに見える。背中の衝撃は反対側にあった木にぶつかった為だろう。何故?それは前の男が吹っ飛んで、直線上にいた俺も巻き込まれて吹っ飛んだから。じゃあ男を吹っ飛ばしたのは?


目を回している俺を見てごめんと言っていた男だったが、


「やっと追いついた!もう逃げないでよ?」


その声を聞いて見事に固まった。


「ねぇ、センラ?」

「…んだよ」

「私が何言いたいかぐらい、わかるよね?」

「うんうんわかるわかる悪かったって!いやそれよりもな?」

「は?それよりもってなに。わかってないね、うん、わかってない。じゃ、歯、食いしばれよ?」

「え、ちょ、まっ……逃げろ!」


急に逃げろと言われ、なにか恐ろしい予感しかしなかったので俺は全身の力を使って横にズレた。芋虫的な感じで上半身を折り曲げる感じで。とっさのことで、悲しいかな一般人の俺にはそれ以上は無理だった。


「はっ……!」

「くそっ」


 目の前の男が素早く後ろを振り返り、手をクロスして攻撃を受ける。男がずれたことで俺は俺と男を吹っ飛ばした人間の姿を見ることができた。そこにいたのは、


「マワリ!お前1回落ち着け!人を巻き込むなっていっただろうが!」

「へ……?人?」


 それなりに可愛い女の子だった。センラと呼ばれた男へ思っきし拳を振り下ろしていた。女の子のヒステリーにしては随分暴力的だなぁ。

 ごほん。

 改めて俺は嵐のように現れた二人を見た。


「ぁ……ごめんなさい!!人がいると思わなくて……!」


 俺にやっと気がついたらしい。今謝ってきた子……先程の衝撃の原因は、彼女らしかった。薄目の茶色の髪に、同じ色の瞳。ショートカットに身長は低いがボンキュッボンのいい体型。顔は小さく、クリッとした目が印象に残る子だった。カワイイ。


 そして、最初俺に話しかけていた奴は、女の子と対照的に真っ黒の髪と瞳。身長は俺より高く、モデルかという体型をしている。顔も当然……イケメンである。


 さっきの会話を聞いていると原因ちゃんがマワリちゃんでいいのかな。奴はセンラというらしい。見たところ二人とも若そうだった。二十歳はいってないと思う。まだほんの少し幼さの残る顔立ちだった。


 この世界では黒髪というのは珍しい。前世の世界とは違って、金髪や赤髪……色鮮やかな瞳や髪の色が多い。だから、こっちに来て日本にいた頃見慣れた色を見てこなかったのだ。二人を見て何となくだがある予感がした。其れはほんとにただの直感だったけど。


__彼らも前世の世界となにか関係があるのだろうか?


「ああ、うん、なんとか大丈夫…。それよりさ…何してたの?」

「暴力……だな。一方的な」「喧嘩かな」

「だからといって殴るのはやりすぎだと思うなぁ……」


 あはは、と乾いた笑い声が漏れた。

 二人ともなんか雰囲気的に仲良さそうだし。恋人とかそういう奴だろうか。リア充め。


「えっと、二人はマワリちゃんとセンラくん?」

「そうだよ!私はマワリ。こいつがセンラ」

「あぁ、センラだ。さっきは巻き込んでしまって申し訳ない」

「気にしないで。それより何があったか聞いても?」


 夫婦喧嘩は犬も食わぬとは言うがまぁそこは気になるというもの。苦々しい表情を浮かべるセンラと、キッとその可愛い顔で瞳を吊り上げるマワリちゃん。


「あー……えっと」

「センラが、私の楽しみにとってたプリン食いやがったの!」

「あぁ、プリンか……久しぶりに俺も食べたいなぁ……」

「「……えッ!?」」

「え……どうしたの」

「プリンなんで知ってるの?」


 プリンって言った途端びっくりしだした二人。こっちの世界にもプリンあるのと分かって嬉しかったのだが……。あ、まじ?そゆことか。

 話しにくそうに話すマワリと、未だにびっくりしているセンラ。マワリが話ずらそうに続ける。


「えっと……変なことを聞くかもしれないんだけどね……」




「あなたも勇者ですか……?」

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