猫眼の阿修羅(びょうがんのあしゅら)

 名留羅が時々鴉丸に言われた酒場へ通う様になって一週間が過ぎた。

 酒場と言えど、旅篭もある村のせいか、昼から開いている。

朝にそこへ向かって何もことづけがなければ夜に、夜に時間を取ってそこに向かい、何もなければ昼間にそこへ、という生活パターンが出来上がっているが、楽しい内容の伝達ではないので、彼は内心うんざりしていた。

「あーあ……女抱きてえ」

と、名留羅はしみじみと呟いた。


 この村に来てしばらくが過ぎたが、千手丸はお時に首っ丈であまり構ってくれなくなった。

 最近では体に触れる事もままならない。先日の夜など、さて寝るか、と布団に入ってから猫なで声を出して右に寝ている千手丸の事を抱きしめた所、無情な答えが返って来た。

「俺さ、お時さんの事を真剣に考えているから、

『もうこういうのはよそうかな』

と思うんだ。

 そんな訳で名留羅、悪いけど、おやすみ」

と、千手丸は更にその右に寝ている沙衛門の方を向いて寝てしまったのである。

 左に寝ている雨代が小声で呟いた。

「……まあ、当然の成り行きよね。男らしくなっちゃって……」

「……ううっ、さみしい……」

 雨代の方を向いて体を丸めながら、名留羅は嘘泣きを始めた。

……沙衛門の声がした。

「名留羅よ」

「何だい、沙衛門さん」

「何か面白いな、お主」

「えー? ううっ、楽しまれた……しくしく」

 それまで仰向けで目を閉じて、眉間に少ししわを寄せて寝ていた雨代が遂に口を開いた。

「……ああん、もう。どうして名留羅さんは時々とてつもなく子供っぽいのかしら」

「済みませんね、子供っぽくて。

……あーあ、何て言うんだろ、実に不健康だよなあ。

 雨代の香りでも嗅ごう……」

 くんくん、と闇の中、名留羅は鼻を鳴らし始める。

……しばらく経ってから雨代が苦しげにうめいた。

「……一寸、名留羅さん」

「何ですか?花の香りがする雨代さん」

「その、人の匂いを嗅ぐの、気味が悪いからやめてくれない?」

「だってみんなつれないんだもん」

「俺が良くしてやろうか?」

と、仰向けで目を閉じている沙衛門。

「おじさんはやだ。こっちの弱い所を全部お見通しなんだもん」

「長い付き合いだからなあ。お主が、自分からの時は平気なのに、誰かに手を握られると目が潤む事も知っているぞ?」

「あっ……んもう、ばらすなよ。恥ずかしいだろう?」

「まあ、今のは俺がお主と組む様になってから気付いた話だがな」

「気付かなくていいっつーのに……」

 横で雨代がおかしそうに声を潜めて笑っている。決まり悪そうに仰向けになり、頭の下で腕を枕にしながら、ややあって名留羅が口を開いた。

「……なあ、おじさん」

「ん?」

「ちったあ吹っ切れたみてえだな」

「ん?……ああ、るいの事か」

「ああ」

「何時までも情けない醜態を晒してもおれん。

 千手丸の行く末を見届けたいし、みんなと一緒に行きたい、というのもある。

……面倒事も近くにあるしな」

「ああ……」

「あれから何か分かったの?」

 雨代が訊ねて来た。

「まあな。近い内にみんなで顔合わせする事になる。

……最終的に決めるのはこいつだけどな」

 名留羅は、何時の間にか沙衛門にすがり付いて一人こんこんと眠る千手丸をちらりと見た。

「そうか。明日にでも日取りを決めよう。

……おやすみ、二人とも……」

 少しして、沙衛門の寝息が聞こえて来た。


 名留羅はもう一度雨代の方を向いた。

「なあに?」

「いや、

『居心地のいい寝床って大事だな』

と思ったのさ」

 口でそう言ってから

(こうしていられるのは多分今だけだ)

とも思った。この前酒場でやり合った苦悶の存在がそれを示している。そしてそれを見ていた鴉丸と躯螺都の存在もだ。

 自分と苦悶の間にいたはずのあの二人は、何時の間に苦悶の背後に回り込んだのだろう。それも

『日頃手を焼いている』

というあの苦悶の攻撃を苦もなくかわして。

 彼のあの無造作な前髪での攻撃と、疾風の斬撃は周りにいる者の事など微塵も考えぬ激しさを持っていた。

 あれはまるで

『死ぬ方が悪い』

とでも言わんばかりの、髪と剣による結界だ。

 その針に糸を通すほどの隙間を瞬時に縫って、彼らは苦悶の後ろに立っていたという事だ。


……片手剣一本でよく生き延びたものだと思う。

 以前に沙衛門と共に相手にした根来の忍法僧達にも、たまたまだろうがあれほどの手練はいなかった。

 更に自分は、雨代は、そして恐らく沙衛門も、苦悶を除いた鴉丸達の手の内を何一つ知らないのだ。千手丸が何処までかつての同郷の者の術を知っていよう?年端も行かない子供であった千手丸が。

 次に苦悶と立ち合った時、自分は彼の攻撃を捌き切れるであろうか?

……思い出しただけでも身震いする。


「……一寸いいか?」

 雨代が答える前に、名留羅はすました顔で彼女の布団に潜り込んで来た。

 しかも、彼女をしっかりと抱きしめる。

「え? あ、ちょっ……んもう。

……大人しく寝てよね?」

「ああ……勿論」

 彼に抱きすくめられたのは久々で、しかも彼の吐息を間近に感じ、少し落ち着かない雨代であった。そして

(最近あまり優しくしていなかったかもな)

と、反省したい様な気分にもなった。

……彼の心臓の音が聞こえて来て、雨代は眠気が襲って来るのを感じた。

「柔らかいなあ……雨代……」

「ん?」

 気恥ずかしくも心なしか嬉しそうに雨代が返事をすると、名留羅は既に眠りに落ちていた……。



 日取りは案外容易に決定した。彼らの指定した場所で話し合いをするのだが、それは村の外れにある、一軒の廃れた寺であった。

(自分達は見合いの席を用意して場を保つ仲人の様なものだな)

と、名留羅は思った。

 最終的に日取りを決める時、鴉丸と躯螺都にもう一度会った。その時は沙衛門と雨代が一緒で千手丸は留守番をしていた。

 苦悶が気まぐれにお時・お夕の所へ向かうのを危惧しての事だ。何故なら彼らは伊賀の里の郷士で、探索・潜入のプロだからである。

 自分達の仮の住まいの場所などとうにばれているに違いない。その気になれば人数の多い向こうの方が有利であるから、何時襲って来てもおかしくはない。そう思っての事だった。


 さすがに互いを見た時の沙衛門や雨代、鴉丸と躯螺都の放つ空気には緊張感が漂っていた。伊賀攻めの時に手を取り合った二つの古来より続く流れとは言え、本気で殺し合うライバル同士でもあるのだ。

「俺達のまとめ役の鬼岳沙衛門、こっちはその連れの雨代だ」

 千手丸の紹介に沙衛門と雨代は控えめにではあるが、名乗り、一礼した。

「鴉丸肖座という者だ」

「俺は躯螺都」

 彼らの挨拶を終え、日取りについての話し合いのまとめをした。


 全てが終わり、雨代が用意して来た茶を、何の確認も無しに先に飲んだのは躯螺都であった。

「ふむ、毒は入っていないな」

 雨代の墨で引いた様な片方の眉がつい、と上がったのを見て、鴉丸が躯螺都をたしなめた。

「これ、話をまとめようとしたのに苦悶の様に荒らす気か?」

「あ、そうか。済まん、口が悪いのは勘弁してくれ」

「別に良い」

 雨代はしれっと返事をした。彼女は彼女なりに相手の事を窺っているのかもしれない。

 沙衛門は何時もの様に眉間にしわを寄せ、黙ってそれを見ているだけであった。


「沙衛門殿、その右目はどうされた?」

 鴉丸が話を変えて、彼にそう訊ねた。

「ん?ああ、これか。昔一寸やられてな」

 沙衛門は苦笑しつつ己の閉じた右目を撫でた。

「焼かれた様にお見受けするが」

「ああ、奇妙な術を使う奴でな。気が付いたらこのザマよ」

「そいつは災難だったな」

 躯螺都も相槌を打った。

「ああ、全く。不覚を取った」

 そう呟いてから沙衛門は空を仰いだ。それとなくつられて、みんなで空を仰ぐ。

 雲ひとつない青空が何処までも広がっていた……。


 夕暮れ。大きな暗い影を落として来る寺の外での別れ際、鴉丸が名留羅達に告げた。

「名留羅にはこの前うちの苦悶が済まない事をしたが、せっかくであるからお主達にも伝えておく。顔合わせの際、お主ら腰の物を忘れてくれるなよ?

 うちにはすぐに腰の物を引き抜く奴がおってな。俺達も、俺達の頭も手を焼いておる。

 やすやすとやられるお主達ではないとお見受けするが、一応のたしなみとして忘れてくれるな。奴が何を理由で刀を抜くか、俺達にも計り知れぬ所があるのでな」

「ああ、肝に銘じておくぜ」

と、名留羅が言うと、沙衛門達も頷いた。

「千手丸がいい返事をくれる事を期待している」

と、鴉丸が微笑して呟いた時、名留羅は胸がちくりと痛むのを感じた。


 そして今日が来た。考えてみればこれほど緊迫感に満ちた見合いの席はあるまい。

「普通の見合いの席の方がどれほど気楽か知れねえや」

と、名留羅が呟くと、雨代と沙衛門が苦笑した。

 千手丸は何か思う所があるのか、躯螺都達の方を見たままだ。その視線を名留羅が追うと、その先には巴がいた。

 彼女は千手丸の視線に気が付くと、自ら視線を逸らし、名留羅と眼が合うと一礼して躯螺都の影に隠れてしまった。

 躯螺都も複雑そうな表情を浮かべると、腕を組んでそっぽを向いてしまった。


……様子がおかしい、と名留羅は感じた。

 彼は千手丸にそれとなく声をかけた。

「なあ、千手丸よ。巴って子、随分そっけなくねえかい?」

 千手丸はそちらを見たまま、答えた。

「俺も変だと思っている。後で話をしてみるよ」

 少し元気がなさそうに聞こえたのは、名留羅の気のせいだろうか。

「ああ、そうだな。まあ、お前のしたい様に決めてくれ。

 俺達はちゃんと付いて行くから」そう言って、名留羅は千手丸の肩をぽん、と叩いた。

 千手丸は振り返り、彼らの顔を見回した。

「そうだぞ、千手丸。したい様にするが良い。俺達は皆、一蓮托生だ」

「そうそう。ちゃーんと付いててあげるからね?」

 それぞれそう千手丸に声をかけ、雨代と沙衛門は微笑した。


 寺の中のかろうじてまともな床の残っていた本堂に、一同は集まり、座して向き合っていた。

 千手丸の後ろには名留羅達が。

 柘榴の後ろには鴉丸達が。


 物音ひとつしない中、柘榴が口を開いた。

「本日はこの席に集まって頂き、感謝している。私が後ろのみんなをまとめる『七ツ針』(ななつばり)の頭を務める柘榴じゃ」

 千手丸は一礼してから名乗った。

「俺は後ろに控える仲間達と共に旅をしている十手千手丸だ。重大な話があると聞いて本日ここに参上仕った」

「うむ。各々(おのおの)方、膝を崩されよ」

 その声に、そこにいる男衆は腰の物を傍らに置いてあぐらをかき、女衆は膝を崩した。


 千手丸はこの目の前の女の事よりも、その後ろに控える屍鬼藤、そして苦悶の事が気になって仕方がなかった。沙衛門達は知らない事だが、苦悶こそが千手丸を震え上がらせる天敵であったのだ。


 かつて伊賀にいた頃、苦悶は幼い自分に目をつけた。人気のない所では自分の腰に手を回し、頬と言わず唇と言わず首筋と言わずしゃぶり付く。

「いや」

と、声を上げようものなら力ずくで抱きしめられ、容赦なく脅しをかけられた。

「小僧、いや、千手丸よ。かつて俺はお前の母に恋をしていた。道に咲く花を見てはお前の母を思い、月を見上げてはお前の母を思ったものよ。

 俺は何度かお前の母に求愛した事がある。しかし、何時も答えは同じだ。

『お前様は怖いからいや』

とな。

 ふふ、俺はそう言われる度に熱を上げて行ったものよ。諸国を旅して剣の師に付き、腕を磨いた。全てはお前の母の為にな。

……それが今はどうだ。

 お前の父とくっついて、二人も子供を作った。俺にはそれが我慢ならぬ。

 二人の子、特にお前は母にそっくりだ。俺はお前が可愛くて、そして憎たらしくてならぬ!」

 苦悶は三白眼を見開いて、千手丸を嘗め回す様に見た。

「しかもお前は服部半蔵殿に直々に忍法を仕込まれたそうではないか。しかもそれは秘伝中の秘伝と聞く。

 十手千手丸……貴様一体どの様な術を身に付けた?」


 幼い千手丸はそれを打ち明けてはならぬとだけ言われていた。自分でも普段はその忍法の事が深層意識下にしまい込まれていて、思い浮かばないのである。

 己が危機を感じ取った時にのみ、忘れた記憶が不意に蘇るが如く、脳裏に浮かぶ、今で言う、幾層もの厳重なプロテクトが彼にはかけられていた。


 忍法の事も両親の事も今の自分にはどうしようもない。自分に向けられるいわれのない害意に、幼い千手丸はただただ震え上がるばかりであった。

 自分を探して父親と姉が現れ、身分が下の苦悶を棒で打ち据えるまで、ただただ震え上がるばかりであった。



……そして今、自分の村は滅んだ。自分を守ってくれていた父も姉も、もう傍にはいない。

 しかし沙衛門、名留羅、雨代が自分を囲んでくれている。そしてキリシタンの姉妹。

……お時。


 柘榴は余計な話は無用、とばかりに結論を求めて来た。

「さて、十手千手丸。私は無念の内に散って行った仲間達、そして後ろに控える者達の為にも、是非ともお主の力を借りたい。お主の忍法を遣わせてもらいたい。

……返事を聞かせてもらえぬか、十手千手丸」


 自分の忍法を使った上で起こるであろう争いにみんなを巻き込む訳にはいかない。

 千手丸は決断を下した。


「俺はお前達と共に行く訳にはいかない。俺はもう半蔵殿の手から離れ、野に下ったのだ。

 野心も何もない。お前達に盾突くつもりも毛頭ない。何処かでみんなと自由に暮らして行き、そして死にたい。

……この話はなかった事にしてもらおう」


「……その答え、曲げるつもりはないな?」

と柘榴はらんらんと光る猫の瞳を彼に向けつつ、訊ねた。

「ああ」

とだけ千手丸は答えた。

 その時、低い声が上がった。

「……巴がどれほど酷い目にあってもか?」

 躯螺都だ。

「お前が力を貸してくれぬせいで、巴が、散り散りになった仲間達が……どれほど諸大名にぞんざいに扱われ、無意味に殺されようと何とも思わぬか、十手千手丸!」

 躯螺都の血を吐く様な叫びが、千手丸の胸に突き刺さった。

 千手丸は押し殺した様な声で眉間にしわを寄せつつ、言った。

「……俺に出来る事は何もない。政(まつりごと)に関わるつもりも毛頭ない!」

 鴉丸はそれを聞いて苦い表情を千手丸に向けた。


 みんながそれぞれの思いを態度に表しているその時、小さな呼びかけがその中にあった。

「千手丸……」

 巴である。


 つい先日、名留羅達が鴉丸達と話をしている間、何故か屍鬼藤と苦悶に連れられて、こっそりと千手丸の寝泊まりしている姉妹の家を見に行った巴は

「見るが良い、お前の昔馴染みの姿を」

と、苦悶に言われて、草葉の陰からそれを覗き見た。

「……ああ……!」

 巴は眼を見張った。


……そこには、自分の知らない女と笑い合っている千手丸の姿があった。照れくさそうに頭をかき、女の仕事を手伝おうと右往左往する千手丸の姿があった。


 それまで千手丸は彼女の中で大事な存在として大事にしまい込まれて来た。つい先日再会した時も、千手丸は昔の様に優しく抱きしめてくれたのだ。

 その時の自分には、千手丸にまさかそんな存在がいるとは思いもよらなかった。




……あの女の人は誰?




 驚き、切なさ、大事なものを取り上げられた様な悲しみ。そしてそんな自分を恥じ入る気持ち。


 その中で混乱し、うめく巴に苦悶は囁くべく近づいた。

……自分の欲望を満たす段取りを進める為に。

 何時か千手丸を犯し尽くす邪魔立てをしない様、釘を刺すだけの為に。

 何時か、千手丸と巴を己の刀でまとめて血祭りに上げ、それを浴びて快楽に打ち震え、己の恋路が失敗に終わった事への復讐をする為に。

 ただ、自分の身勝手な都合を貫くという、それだけの為に。


 地に膝をつき、肩を震わせてうめく巴の横の髪をかき上げ、その耳に口を近づける。巴は驚いてそちらを向いた。

「……な、何を……!?」

「千手丸にはもうあの女がいるのだ。巴、諦めろ」

 巴は歯噛みをしたが、それから無理に微笑を浮かべ、震えながら搾り出す様に声を出し、言った。

「……ち、違う。違います。千手丸は……お世話になっている家の人を手伝おうと……」

「お前がそう思いたいのはよく分かる。じゃが、俺が見るにあれは紛れもなく好き合う男と女の触れ合いよ。

 見や、手を取り合って笑っておる」

 うつむき、いやいやをする様に首を振る巴を見て、苦悶は長い前髪の奥でニヤリと笑った。巴は顔を上げないであろうと見越しての嘘である。

 しかし、その言葉は彼女の胸を深くえぐった。地面に涙の粒が幾つも落ち、沁み込んでゆく。


「……ああっ……」

 離れて生死も分からずにいた為、何時しか勝手に千手丸も自分を好いてくれているままだと思っていたかもしれない、と巴は胸の奥で思いながら、ぎゅっとつぶった瞳から涙をこぼし続け、しゃくりあげた。

 屍鬼藤が不憫そうにその肩に手を置く。

(離して……!)

と巴は思った。

 しかし彼女にはそれを振り払う手がない。

 涙を拭う為の手がない。


「ううっ……」

 背を丸めて地に額を付けて泣きじゃくる巴を、苦悶は下腹部に湧き上がる衝動を感じながら、ただただ見下ろし、冷徹な視線を浴びせ続けた……。




 千手丸達が去った寺の本堂。巴が泣いている。その肩を躯螺都が抱いている。

「……泣くな、巴。こんな時代だ、よくある事さ。

 こんな事言いたかないが……お前の知っている千手丸はどっかに行っちまったんだよ……」

「違う……違うの……」

 それだけ言うと、巴は自分の胸にすがり付いて来た。何も言わずにそれをそっと、彼は支えてやる。


 鴉丸が腰を上げ、外へ出て行ったのを見送ると、躯螺都は巴をそっと抱きしめた……。

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