忍法 無残絵(にんぽう むざんえ)
躯螺都幽冥牢彦(くらつ・ゆめろうひこ)
前編
……夕暮れ。
とある廃村の外れにある橋の上で一組の男女が黒い影の群れと向かい合っていた。
相手の数は……七、八、九人。同じ黒の旅の僧侶の姿に身を固めているが、漂って来るのはその姿とは全く相容れぬ殺気、妖気。
対する男の方は前下がりのざんばらの髪の奥から相手を見据えている。黒髪を風にはためかせている女の白い肌を見て相手側の男達の中から壮絶な獣臭が吐き出された。
頭目に付き合ってこの村に来るまで女を絶ったままだ。
……そろそろ自分の中の精を吐き出さないと下腹部が裂けるかもしれない。その対象にふさわしい女が目の前に立っている。
着物の上からでも分かる女の豊かな乳房、腰、そして太ももの奥にあるであろう自分のそれを叩き込むべき穴を思って男達は下卑た笑いを浮かべた。
皆でかかったら、この女はどういう声を上げて許しを乞うだろうか。
ざんばらの髪の男がそんな空気を受け流し、口を開いた。
「頭目の居場所を吐いてもらおうか」
「笑わせるな」
嘲笑が彼を包む。女の視線がきつく相手を睨み据えた。
「やれ、るい」
男の言葉が終わらない内に、黒髪をなびかせつつ女が手を頭上へかざし、何事かと振り仰いだ男達の頭上に赤く燃え盛る球体が現れ、墜落し、かわし損ねた数名を橋もろとも焼き潰した。
ひょう、と風を切って飛んで来た苦無をかわした男の太刀が、鞘に収まったまま唸りを上げて下から薙ぎ上げる様に一人の顎に吸い込まれ、喉仏を突き破り脳天まで貫いた。目玉がこぼれ落ち、脳味噌がぶちまけられる音を相手が聞いたかどうか。
一瞬怯んだ別の一人の体に銀の線が何十にも絡み付き、端を掴んでいる女が、手元を見ても分からぬくらいについ、と動かすと相手の肉体からぞぶ、と音がし、細切れになりその場に崩れ落ちた。
残った男たちが飛びかかったのは男の方だった。空に舞った男達とざんばら頭の男の前には、何時の間にか一枚の鏡があった。
「『
呟きながら男は鏡の後ろから大振りな裏拳を振り抜く様に叩き込む。砕け散る鏡。
映っていた男達は怪訝な表情のまま、砕けたそれにあったのと寸分違わぬ位置で肉の一片、骨のひとかけらに至るまで切り刻まれ、鮮血を浴びせ合いながら粉々に砕け散った。
赤い血の霧が晴れた。血の匂いを嗅ぎ付けた鴉が集まって、頭上で二人がいなくなるのを待っている。
男と女は一滴も返り血を浴びていなかった。血の霧も避けて行った様だ。
「話の途中だったな」
まだそこらで湯気を上げている血味噌を乗り越え、男は転がっている首を掴むと、これまた無造作にその横っ面をはたいた。あろう事か、髪を逆立てたその首は意識を取り戻した。
「喋れ。貴様らの頭目の居場所を」
……首は話し始めた。
「この……村の奥……」
「その者達だけか」
「そ……だ……」
「御苦労」
男が川に向かって首を放り投げる。水飛沫を上げ、それは見る見る内に沈んでいった。
ゆっくりと男は立ち上がると、先程るいと呼んだ女の方を振り返った。
「日が暮れる。それまでに少しでも追い付かねばならん。
行こう、るい」
「はい、
二つの影は無くなった橋の真ん中を軽々と飛び越え、そのまま闇へ走って行く。
奥へ、奥へと、足元さえ見えぬ闇の中を昼日中の様に。
るいの目に一瞬浮かんだ安堵の光。それは先を走る沙衛門の背中に優しく注がれていた。
森。古寺の中で、口に銀の糸をくわえた男が呟いた。
周囲に相手の姿はなく、糸は垂れていたが、糸電話の要領で会話している様だ。
「……骸が?」
「まるで火の玉を食らったかの様に原型を留めておりませぬ。橋は焼け落ち、見た所生きている者はおらぬ様子で」
少年の声が返って来た。
「俺達の場所は知れたやも知れぬな……まあ、それならそれでよい。血震いするわ」
「五月雨殿も懲りませぬなあ」
男達は闇の中で微笑した。
男の名は
お抱えの忍びを持って奪還しようと城主は追手を仕向けたが返り討ちに遭い、しかも更に金銭を要求された。応えなければ、返り討ちに遭った者達の首を関所の門の上に並べると言うのだ。
他の国からも目を付けられつつあり、弱り果てた城主は流れ者のはぐれ忍び、沙衛門とるいに奪還を命じた。
……彼らには同じ目的で雇った他の者達の事を明かさずに。
夜。
廃村に入った沙衛門達は一軒のあばら家の中にいた。そこへ至る道には、恐らく戦の通過地点になり、蹂躙され潰されたのだろう、あちこちに人骨が転がっていた。ここではどこの空でも鴉が餌を欲しがる様に空で鳴いている。
沙衛門は暗闇の奥にあるであろう森の方向へ視線を飛ばす。相手の二人はこの村を抜け、堺へ向かう様だ。
誰かにそれを売りつけるとしたらその間だろう、と沙衛門は見た。
季節はもう夏の終わりであった。蛍が窓の外を舞っている。
一晩ここで相手の様子を伺うつもりだ。それにるいは明らかに疲労の色をその顔に浮かべている。彼女の気丈さが沙衛門には痛々しく見えた。
自分が『休め』と言っても、自分が休まない限り、この娘は気を緩める事はないのだ。
座り込み、自分の横顔をずっと見つめている沙衛門をるいは微笑を浮かべ、見つめ返した。
「いかがなさいました? 沙衛門様」
「るい、傍に寄れ」
「はい」
手招きされて寄り添うるいの頬を両手で挟み、沙衛門はその唇を吸った。一瞬戸惑った様な表情を浮かべたるいは頬を染め、目を閉じると自分から彼の首に腕を回し、脚を絡めた。袖の中に手を差し込み、彼女の二の腕をまさぐる沙衛門。
「う、ん……」
舌を絡め続けながらるいは彼の手を自分の着物の前を開き、中で揺れる白く豊かな乳房に導いた。唇を離した沙衛門は、残念そうなるいの眼差しを視線に入れたまま、熱を持つそれを優しく口に含んだ。るいが嬉しくも恥ずかしそうな顔をするのは何時までも変わらない。
「あ、ああぁっ……」
黒いまつげを揺らし、彼女は消え入りそうな声を上げ、見つめ返して来た。舌で乳首を転がし、歯で軽く噛んでやると、るいは切なげに喘ぐ。その口に指を入れ、吸わせておく。
反対の乳房が早く触ってと挑発している様に見えた彼は、そちらの方に手を載せた。優しく撫でさすっていたが、次第に荒々しく揉み、なぶり、彼女の息を荒げさせた。
苦しそうな彼女の口から指を抜いてやる。しつこく吸い、指で撫で、抜き取られた彼の指先を名残惜しそうに舌で舐めると、彼女は髪をその白い顔に貼りつかせながら息をつくと、ねだって来た。
「沙、沙衛門様ぁ……」
彼女の乳房からゆっくり顔を上げ、少し見つめあう。恥ずかしげに顔を背けようとするるいの手を取り、指を口に含む。子供の様にそれを吸う彼を見て、るいが微笑んだ。
「く、くすぐったいです……あっ」
ゆっくり乳房を揉む手の動きを止め、少し彼女の反応を楽しむ。
「?……あ、あの……沙衛門様っ。そんな……意地悪……しないで」
彼は彼女の手を口元から離すと、優しく訊ねた。
「揉んで……欲しいか?」
「だって、恥ずかしい……」
「恥ずかしいか?」
「あなたが触ってくれているから……嬉しいですけど……恥ずかしいです……」
「るい」
「な、何でしょう?」
彼の指が乳首をつまんでこねくり回し始めた。しかし揉む事はしない。
「揉んで欲しかったら言ってみてくれ」
「うっ……さ、沙衛門様……ん……い、言えませ……ん……」
彼女の桃色の唇から上ずった声が漏れた。
「笑わないぞ? 言わせたいだけだ」
「はあっ……あ、ああ……揉んで……下さい……」
沙衛門は今度はその頬を舐め、首筋を舐め、耳たぶに吸い付いた。それから再び言った。
「頑張れ、もう一度して欲しい事を」
「……お願い……私の……あうっ……あ……胸を……揉んで、下さい……」
彼は再びるいの恥辱に揺れる乳房を優しく揉み始めた。
「あ……あっあっあっあっ!……は、ああっ……。
うふ……んんっ……沙衛門様って……ああ、あ……時々、意地悪……ですっ……」
彼女の瞳から涙がこぼれた。それを唇ですくい、おいしそうに舐める沙衛門。
彼女の耳元に囁いた。
「本当に……お前は可愛いなあ」
「……沙衛門様ぁっ……」
抱き付いて来た彼女をしっかりと受け止め、抱きしめる。そしてそのまま彼女の尻に両手を回し、裾をめくり上げ、揉みだした。
「あ……っ! ああ……はあ……あっ、あんっ……うっく……ひっ……い、いや……あああっ……」
後ろから沙衛門が、るいの両の乳房を揉みながら突き上げて来る。
……久々に自分を愛してくれている。最近は仕事続きで二人で過ごす時間などなかった。
激しく喘ぎながら彼女は瞳を閉じて涙をこぼした。彼のものが自分の中で暴れているのを感じ、るいは嬉しさと恥ずかしさが入り混じり、両手で顔を覆いたかったが、手は床についたままだ。
……今、自分は四つんばいで彼に尻を向けている。それが彼女の羞恥心を煽った。声に哀れみが増し、背中を舐めている沙衛門の気を引いた。
動きを止め、彼は訊ねた。息が荒い。
「……辛いかな?」
「だい、じょうぶです……自分の格好を想像したら恥ずかしくて」
「そうか」
彼は微笑を浮かべ、そして勢いよく捻り込む様に円を描きながら一突き入れた。
「んああぁっ!」
「……いい声だ、るい……」
沙衛門は彼女の右の乳房から手を離し、脇腹をなぞり、股間へ滑らせた。ぷっくりと膨らんだそこを優しく撫でさすり始める。左手は再び乳房を揉み始めた。
「あ……あっ」
「俺の可愛い連れにもっと恥ずかしくなってもらおう」
そういうと彼は彼女に入れたまま抱きかかえ、正座して膝の上に座らせた。角度の変化によって生じる刺激が背筋を登り、彼女に再び声を上げさせた。
「んん……あ、あはっ……」
歓喜が彼女の涙腺を緩めさせ、桃色に染まっている頬を涙が幾つも伝った。
……彼に出会った頃の頑なな自分からは考えつかない。どちらが幸せかと言えばそれは勿論今だった。
戦国時代。
他の土地の血を入れない閉鎖的な甲賀の村。それをいい事に村の者を奴隷の様にこき使う今の首領。彼に目を付けられた沙衛門の従者の自分。
それを本当に好きな様にさせる為に故郷を捨て、追手と戦ってくれている。
……守ってくれている。
「お前が気に入った。据えた性根もその理由も。
俺の様な奴には勿体無いと考えていたがな、気が変わった。誰が奴になどくれてやるものかよ」
それを聞いて彼女は本当に自分を任せる気になった。自分にとって、後にも先にも仕えるのは彼だけだ。
そう告げると彼は切なげな表情を浮かべ、優しく抱きしめてくれた。
先は見えない人生。だが、るいは幸せだった。
「……大丈夫か?」
その声で我に返った。
彼の手が自分の乳房をもてあそんでいる。
彼の手から伝わる熱が、刺激が切なさを、愛しさをかきたてる。
……どうしてここまで弱点を知っているのだろう。どうしてここまで自分をさらけ出そうと思ったのだろう。
……おかしくて、嬉しくて、彼女は微笑を浮かべながら答えた。
「平気です。
……ただ……熱いの……あなたが……」
「体重をかけてみろ」
「ん……ああ……」
「……動くぞ」
彼の動きにるいは自分の動きを合わせた。
自分から動いた。
今だけ、日頃の不安に揺れる自分を忘れた……。
彼のそれを綺麗に舐めとると、るいは仰向けになった沙衛門に重なった。その背に手を回し、彼は彼女をしっかりと抱きしめる。
「……久々だな、お前とこうするのは」
「もっと強く抱いていて下さいませ……消えてしまいそうです……」
沙衛門の顔をいとおしげに見つめながら、彼女は彼の胸に手を這わせた。
「……大丈夫だ。そう思う事が大切だぞ、るい。
心配事など気にし始めたらキリがないからな」
「私の事ではありません。あなたが消えてしまわないかと心を配っているのです」
「……そうか」
沙衛門はるいを更に強く抱きしめると、改めて唇を重ねて来る。
るいも彼の唇に自分のそれを強く押し当てた。
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