第30話 告白と気づき

 全員が着席する。薄暗くは感じるものの、円卓の反対側に座る人物の顔が確認できる程度には明るい。


「それでは会議を始めよう。だが、その前にこいつを紹介しておく」


 雪菜は冬夜を親指で指差しながら言った。


「オーリア以外には先ほど説明したが、こいつはルーフェンの息子の冬夜だ」

「あら〜。この子が冬夜君でしたか〜」


 そのおっとりとした喋り方のせいで驚いていないようにも聞こえるが、目を軽く見開いているところを見るに、驚いてはいるのだろう。


「ですが〜、どうしてその冬夜君がここにいるのですか〜? 神になる決心でもつきましたか〜?」

「それでもいいと私は思っているが、今日は別件だ」

「雪菜さん、ちょっと待ってくれ。俺は神になる気はないし、なれないだろ」

「そんなことはないぞ。実力は私が認めている。それで問題ないだろう」

「いや、俺の神力の総量は天使の平均程度しかないんだぞ? それに俺は半端もの……」


 神力の総量は人それぞれだ。少ないものもいれば、異常な程に多いものもいる。

 そして、神になる条件に神力の最低値が定められていた。その最低値に冬夜は遠く及ばなかったのだ。


「まだそんなことを言っていたのか? お前らしくない。お前には神力の総量など気にしなくてもいい程の技術力があるだろう?

 それに半端ものということに関しては論外だ。そんなことを言っているのは年老いた老害供と、一部の頭のおかしい馬鹿な天使供だけだ」

「そうだぞ、冬夜。お前の実力は俺だって認めている。だからこそお前の修行を終えたんだ。お前が神になりたいというのなら俺は自信を持って推薦する」


 雪菜の言葉に同意したヴァンが真剣な目で冬夜を見つめながら言った。


「そうだよ、冬夜くん。僕だってこの目でキミの力を見ているからね。僕もキミの実力を認めているよ」


 そう言ったルースの瞳には嘘偽りなど一切感じられかった。


「だが、俺は怠惰だぞ? ここ一年ほどは訓練もしていない」

「それこそ問題ないな。そこでだらけている奴を見てみろ。あれでも神が務まるんだぞ」


 雪菜は鋭い視線をウェンドに送るが、ウェンドは一切気にしていない様子だ。見向きもしていない。


「あたしだってとうやんの実力を見て見たいな。街を救った大英雄くんの」

「すごいですよね〜、大英雄って〜。私も見て見たいです〜」


 アンウィとオーリアの2人はにやにやとした笑みを浮かべながらそう言った。

 冬夜は顔が引きつるのを感じる。おそらくこのネタで今後もからかわれ続けるのだろう。

 だがそれよりも冬夜は腹の立つことがあった。

 先ほどまで全くの無関心を貫いていたウェンドが、なにやらいい笑みを浮かべて親指を立ながら冬夜を見つめていたのだ。

 これには思わず冬夜も額に青筋を浮かべる。場所が場所でなければ冬夜は叫んでいた。


「さて、話は逸れたが本題に入るとしよう」


 先ほどの微笑んでいた表情とは打って変わって真剣な雪菜に場の空気が固まったように冬夜は感じた。


「単刀直入に言おう。地球に歪人が襲撃しにくる。いつなのかは不明だが、そう遠くない話だ。相手はルーフェンを殺したレイスだ。よってこれより厳重体制へと入る」


 すると、つい先ほどまで誰もが笑みを浮かべていた空間が、鉛のように重く、ピリピリとした怒気を含んだものへと変化した。

 そこに笑みはなく、誰もが怒りの感情を隠すように真剣な表情をしていた。

 冬夜はその場の空気の重さに思わず生唾を飲み込む。


「おい、それは冗談じゃねーんだよな」


 ヴァンの声には怒気が含まれていた。


「ああ、私が嘘を言うとでも思うか?」

「いや、思わないが、どうにも信じられなくてな。どこからの情報だ?」

「情報源はクーリュイアだ。冬夜が聞いて、それを私が聞いた。まず間違いないだろう」

「クーリュイア、か」


 ヴァンはその名を聞くと顔をしかめ、何か考えるように目を瞑った。

 するとルースが両手を組んで口元を隠しながら言った。


「雪菜、雪菜はまだクーリュイアっていう子が敵ではないと信じているのかい?」

「ああ、私はルーフェンから冬夜とクーリュイアのことを頼まれた。なら私はルーフェンを信じるだけだ」

「ちょっと待ってくれ、雪菜さん。父さんがクーリュイアのことを頼むように言ったというのは?」


 冬夜はそんな話聞いたこともなかった。

 クーリュイアは自分の両親を殺した奴の仲間だ、彼女のせいで両親が死んだのだと、そう思いひたすら恨み続けてきたのだ。

 だが、冬夜の父は雪菜にクーリュイアを頼むように言ったらしい。

 そのことが冬夜には理解できなかった。


「……そうか、お前が抜け殻のように言葉を話さなくなってしまっている時に話をしたから覚えていないのか。

 お前の父は最後に、お前とクーリュイアを頼むと言い残して死んだ。だから私はなにがあろうとお前とクーリュイアの味方なんだ。

 それがルーフェンの最後の望みだからな」


 冬夜の頭の中はパンク寸前だった。

 どうして父は仇であるはずのクーリュイアのことを雪菜に託したのか。

 再び自分の心を閉ざしていた扉に亀裂が入るような感覚を覚える。

 父はクーリュイアのことを恨んでなどいなかった? どうして? クーリュイアのせいで幸せが壊れたというのに?


 冬夜は会議だということも忘れて考えに耽る。

 しかし、答えは出そうで出てこない。もう寸前まで出かかっているというのに。


「正直そいつの言うことは信じられねーな。なぁ、雪菜、そのクーリュイアとかいうガキは歪人なんだろう? どうして信じられる」

「私はあの子を信じているのではない。あの子を信じるルーフェンを信じているのだ。お前はルーフェンを信じられないのか? 親友だったはずだろう? ヴァン」

「……だが、そいつのせいでルーフェンが死んだことには変わりはない」

「確かにそうだな。あの子がそもそも冬夜たちに近づかなければルーフェンも死ななかっただろう」

「なら――」

「だがルーフェンは自分と愛する妻が死んでも、あの子を頼むように言ったんだ。お前もあいつの親友なら分かるだろう。一体あいつが何を望んでいるのか」

「……」


 ヴァンは黙ったまま目を瞑る。表情からして、ずいぶん葛藤しているようだ。

 沈黙が続く。時間にして数分経った頃、ヴァンはようやく目を開け、言った。


「分かった。この件は雪菜、お前に一任する。いつものようにな」

「ああ、それでいい」

「ただし、俺はクーリュイアとかいうガキを信用しない。敵対はしないが、万が一こちらに牙をむくようなことがあれば、俺がそいつを殺す」

「そうはならないだろうがな。その辺は任せる。他に反対する者はいないか?」

「あたし! はい! はいっ!」


 雪菜の問いかけにアンウィが元気よく手を突き上げる。小さい体を少しでも大きくして目立とうとしているところが子供らしい。


「お前はいい、どうせ大したことは言わないだろう」

「もうっ、いつもゆきなんはあたしに冷たすぎ! 冷たいのは属性だけにしてよね」

「お前にくれてやる暖かさなどみじんもないわ」

「ゆきなんは恥ずかしがり屋なんだから。アンウィお姉ちゃんって呼んでくれてた頃が懐かしいな」

「……殺すぞ」


 雪菜は絶対零度の冷めた目でアンウィを見る。その様子を見守る神々は皆、顔が引きつっていたが、アンウィだけは不敵な笑みを浮かべ続けていた。


「アンウィお姉ちゃんに勝てるとでも?」

「……チッ。それで、何だ?」


 部屋中に聞こえるほど大きな舌打ちをすると、結果は意外なことに雪菜が身を引くことで事なきを得るのだった。

 雪菜の厚顔無恥な性格からすればここで一戦というのもあり得たはずである。

 だが、そうはならなかった。冬夜は雪菜とアンウィの力関係が分からなくなる。


「あたしはね、とうやんに一つ聞きたいことがあるの」

「俺に?」

「そう。とうやんはさ、どうしたいの?」

「どう、とは?」

「クーリュイアっていう子に復讐したいの? 自分の手で殺したいの?」

「……俺は、まだわからない」

「とっても重要なことだよ。今後の未来を決める、ね。それも恐らくそれはそう遠くない。いつまでも答えを出さなければ、きっとあなたは後悔する」

「……」

「今すぐにっていうわけでもない。でも、もう時間が残されてないの。そんなに待ってはくれない」

「……分かった。近いうちに答えを出す」

「うん、頑張ってね、とうやん」


 ニコリと笑うアンウィに、先ほどまでの子供らしさは一切なかった。







「それでは会議を終了する。各々先ほど決めたように動いてくれ」


 その後会議は続き、神々がどう動くかなどを話し合った。だが、冬夜の頭の中はクーリュイアのことで頭がいっぱいで、ほとんど会議の話が頭に入ってくることはなかった。

 いつもであれば話を聞きながらでも考え事ができたが、今はクーリュイアのことしか考えることができなかった。

 冬夜はぼー、とする頭で神々に挨拶をすると、雪菜に連れられて家へと帰る。


「お前、会議中全く話を聞いていなかっただろう」


 帰るや否や雪菜は冬夜の頭を軽く小突きながらそう言った。

 冬夜は返す言葉もなく黙ったままだ。


「それで、答えは出たのか?」

「……いや、もう少しで出そうなんだが」

「そうか。お前は昔のルーフェンにそっくりだな」

「えっ?」


 冬夜は顔を上げ、雪菜の顔を見る。そこには優しげに微笑む雪菜の姿があった。


「昔のあいつもお前みたいに悩んでいた。

 馬鹿みたいに悩んで悩んで、自分の答えを出しては今度は後悔して。本当に馬鹿な奴だった。

 でもあいつが人間の女性と結婚するって言い出してからあいつは変わった。

 常に自分が本当にしたいことを考えて、後悔しないようになった」

「父さんは俺と同じだった、のか」

「ああ、お前の父親は自分がしたいと思ったことはなんでもしたぞ。

 特に人間の女性と結婚すると言い出したときはすごかった。

 当然のように老害供が止めに入ったんだが、全員ぶん殴って押し通したからな。あれは傑作だった」


 雪菜につられるように冬夜も笑みを浮かべる。

 冬夜の記憶に残る父からはそんなことをするなど想像もつかなかった。

 冬夜が知る父は、常識のある、そして優しく、時には厳しいと感じるが全て子を想ってのことだと分かる、そんな父親の鏡のような素晴らしい人物だった。


「冬夜、最後に決めるのは自分だ。だが、誰かに聞いてもらってからでも遅くはない。

 自分では決められない、分からない時は誰かに聞いてもらうのも1つの手だということを言っておく。ルーフェンのようにな」

「雪菜さんに聞くのは駄目なのか?」

「今回に関しては私の意見は参考にならない。私はルーフェンからあの子を頼まれている。だから無条件に私はあの子の味方だ。……たとえ誰が敵になったとしてもな」


 その言い方から、冬夜自身もそこに含まれているのだと分かった。

 すると、玄関の扉が開く音がする。時間からしてティリアが学校から帰ってきたのだろう。

 冬夜は体育祭をすっぽかしたことに関して申し訳ない気持ちを抱えながら玄関へと向かうと、そこにはティリアだけではなく和人、そして桜の姿があった。


「冬夜、大丈夫か? 見舞いにきてやったぜ」

「冬夜、大丈夫? 何か病気じゃないんだよね?」


 和人と桜の心配する声が冬夜の耳に入る。ティリアは何も言わなかったが、その瞳が心配だと物語っていた。


「ああ、悪い、ちょっと用事があってな」

「用事? その用事は解決したの?」

「当たり前だ。体育祭を休んでまで終わらしたんだからな」


 しかし、桜の瞳が人を見通すような眼へと変化する。すると桜は機嫌が悪そうに言った。


「……嘘だね。冬夜、本当にどうしたの? いつもは冬夜の考えていることなんてさっぱりわからないのに、今ははっきりとわかる。なにをそんなに考え込んでいるの?」


 桜の言葉に冬夜は思わず動揺する。今は考えていることを隠す余裕など一切ないようだ。冬夜はいつものように振る舞おうとするが、うまくいつもの自分を出すことができなかった。


「……何を言っているのか、俺が考えているのはどうすれば眠れるか――」

「違うね。冬夜はどうすればいいのか悩んでる。それももう自分でもどうしたらいいのか頭の中がぐちゃぐちゃになってる。違う? 冬夜は――」

「おい、桜。それ以上はやめろ」


 和人が桜の肩を引きながら止めるように言う。すると桜も申し訳ないと思ったのか俯いた。

 冬夜はそんな二人を見ながら先ほど雪菜と話したことを思い出していた。


(自分では決められない、分からない時は誰かに聞いてもらうのも1つの手、か) 


 冬夜は大きく深呼吸すると、どうすればいいのかわからずにたたずむティリアの頭に手を置きながら言った。


「ティリア、悪いが夕食の用意をしておいてくれるか? 俺はこいつらと少し出てくる」

「お兄様……。分かりました。お待ちしています」


 ティリアは冬夜の目を見ると、それ以上何も言わなかった。そしてティリアが家の中へ入っていくのを見送り、振り返って二人を見る。


「悪いが少し付き合ってくれ」






 冬夜たちが向かったのは冬夜の家の裏手にある山の中だ。山の中といっても、草はしっかりと刈られており、上りやすいように木の丸太で階段も作られている。

 その階段を上っていくと、少し開けたところに出る。そこには木でつくられた雨をしのぐ屋根と、簡易的なベンチと机が建てられていた。

 冬夜は二人にそのベンチへと腰かけるように促すと、二人は驚いたように席に座った。冬夜は二人のその表情と視線を見てすぐにその理由を理解した。


「ここ、景色が綺麗だろ? 俺のお気に入りなんだ」

「……ああ、こんなところがあったんだな。俺らが住んでいるところになると自然も少ないからな」

「私も。……とても綺麗」


 二人が感動しているのを見て冬夜はうれしく思った。

 二人の視線の先には田んぼが広がり、その近くには泳ぐのにちょうど良さそうな川が流れていた。遠くでは畑仕事をしている人や、川に沿って続く道を歩く人達が見える。

 また、家はそれほど多くなく、ちらほらと建っている程度だ。大きく山で囲まれているため、和人達の住む街並みは見ることはできない。

 そして、以前冬夜が住んでいた所とは異なり、車が通るために道路がコンクリートで整備されている。

 冬夜にとってこの山の上から見る景色はこの世界で二番目に好きなのだ。

 冬夜はその景色を見ながら深呼吸すると、新鮮な森の息吹を感じた。その空気を吸っただけで冬夜は活力と、やる気と、勇気をもらえたような気がするのだった。


「桜の言うとおり俺は今悩んでいるんだ。どうか解決する手助けをしてほしい」

「当たり前だ。悩みの一つや二つくらいいくらでも聞いてやる」

「私も。さっきはごめんね。無理矢理聞き出そうとして」

「いや、どっちにしろ話そうとは思っていた。うまく説明できないかもしれないからわからないことがあればその都度言ってくれ」


 冬夜は二人が頷くのを確認してゆっくりと話し始める。


「俺は7歳の時に心の底から好きだと思える人がいた。別にその子が俺に何かしたからというわけではなかった。だが、一目会った時から俺はその子のことから目が離せなかったんだ」

「その子とはその時に初めて会ったの?」

「ああ。だが、その子ははっきりとした帰る場所がなかった。だから俺の家族で引き取ったんだ。その間、俺とその子、そしてもう一人と一緒に俺らは遊んだ。その時俺は本当に楽しいと思っていた」

「そのもう一人というのは近所の子か誰かか?」

「ああ、もうずいぶんと会っていないがな。……そして、そんな生活が1ヶ月ほど経った頃だ。俺とその子が遊び場から帰ってくると、そこには血まみれで倒れる母さんと、不審な人物と闘う父さんがいた」


 すると二人は驚いたように目を見開いた。それもそうだろう。あまりにも唐突すぎると冬夜自身もそう思ったが、神や歪人のことを放さないとなると、どうしても短くなってしまうのだ。


「そして、その不審な人物はその子の知り合いだったようで、その子は不審な人物のもとへ帰ってしまい、最後の最後で父さんはそいつに殺された」

「……それで、どうなったの?」

「その子は不審な人物とともに俺の住んでいたところから去っていった」

「……そうか。冬夜の両親がいないのは知っていたが、そんなことがあったのか」


 そう言って呟く和人は恐らく今の話に神や天使の話を加えて考えているのだろう。


「それで、冬夜はこの話のどこに悩んでいるの?」

「まだ続きがある。俺はそれはもう恨んだ。その不審な人物を、その原因となったその子を、そしてそれを招いた俺自身を。だが、7年程前、その子と俺は再会した。本当に偶然だったがな。そして俺は恨み言ばかり言ってすぐにその子とは別れた。いや、向こうが去っていった」

「冬夜はその子のことが憎かったんだね。両親の死の原因となった」

「ああ。殺したいほど憎かった。そして、今日またその子と会ったんだ。だから俺はその子を殺そうとした。両親の敵が目の前にいると思ったら殺したくて仕方なかった。

 ……だが、俺は殺せなかった」

「……無抵抗だったからだね」


 冬夜は思わず苦笑いしてしまった。桜の言葉は冬夜が次に言おうとした言葉だったためだ。


「その通りだが、なぜ分かる?」

「分かったよ。冬夜の悩みも全部。そしてその答えがなんなのかも」

「……聞いてもいいか」

「うん、でもこれはあくまで私の推測。だから、自分の答えと違うと思ったら忘れてね」

「ああ、分かった」


 すると、桜は目を瞑る。どうやら考えをまとめているようだ。

 数分もしないうちに桜は目を開ける。


「冬夜。冬夜はその子のことを殺したいほど憎かった。でもいざ殺そうとしたら無抵抗だったために殺せなかった。そしてその子は冬夜に聞いたんじゃないかな。「どうして殺さないの?」って」

「ああ、その通りだ。そして俺は答えることができなかった」

「それがなぜなのか知りたいんだよね。それはね、冬夜。冬夜は今、その子のことを恨んでなんかいないんだよ。

 冬夜は今もその子のことが好き。小さいころに受けた両親の死というショックとその不審な男が憎いということがごちゃ混ぜになってその子のことが憎いと勘違いしているだけなんだよ。

 もしくは、その子が不審な男のもとへ戻ってしまったから裏切られたと思った。でも、心の奥底ではその子のことが好きだから、冬夜にはその子が殺せないんだと思う。

 どうかな?」


 冬夜は桜の言うことをしっかりとかみしめるように聞いた。すると今まで自分の心を閉ざしていた扉が砕け散るような感覚がした。

 そして冬夜は理解する。どうしてクーリュイアを殺すことができなかったのか。その理由がはっきりと見えた。


「そうか、俺はまだクーのことが好きだったんだな」


 冬夜は呟くように言葉に出した。

 今まであてはまることのなかったピースがぴたりとはまり込む。

 冬夜の視線の先では、言葉には表せないほど美しい夕日が冬夜を祝福するように輝いていた。

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