第33話:対決其の1
闘技場には誰一人おらず、ただ場外から
「素敵なチョイスだと思わない?ここが貴方達組織の作戦が失敗に終わった始まりの場所なんだから」
「そうだね…ワタシがオマエを殺し損なった場所であり、今度は間違いなく殺せる場所なんだから、最適の死地を選んだんじゃない?」
「…お前…さっきからムカツクねえ…」
「貴方、魔族でしょ?私もそうだからわかるのよ。その四本の角の内、前に伸びている二本は明らかに魔族の角の形状。貴方、何者?そして後ろの角は何かしら?」
「オマエに答える義務はない。ただオマエの存在は…非常に不愉快ということだけ」
「…まあいいわ…。どうせここで死ぬんだから。魔族は滅多にいないから、会った時は同族の好として仲良くやっていく心づもりだったんだけど、貴方は不快だから消してあげる」
「そっ。じゃあ可愛がってあげる」
閃凛と焔艶妃が戦闘態勢に入る。
刹那、焔艶妃の双角と瞳が光り、閃凛の眼前から消える。だが閃凛は彼女を見失うことはなく攻撃を躱していく。
「きゃーーーはっはっは!やるねえ!!魔覚醒状態のスピードについてこれるなんて!!おかげで
「そんな魔法、たとえ当たってもワタシには効かないよ」
焔艶妃が変わらぬスピードで体術を繰り出す。閃凛はその攻撃を手や脚で受け止め、反撃を繰り出していく。
しばらく続く攻防劇の後、両者が離れる。
「…貴方、
「魔覚醒しなくても、オマエには勝てるさ。それをする時はとどめを刺す時だけ」
「…へえ…じゃあ、使わずに死ぬお前の後悔する姿が……楽しみだねえ!!!」
焔艶妃が後ろに下がり、魔法を詠唱する。
「『
無数の赤や黄色、青、白の炎の玉が放たれた。
閃凛はそれを光を纏った手と足で相殺していくが、膨大な数には対抗しきれず、体全体に当たって、爆発していく。
「く!!」
「きゃーーーはっはっは!馬鹿なことを!!魔覚醒した私の玉焔は力技で相殺できる程度の威力じゃないよ!!ほーーら、どんどんいくよーーー!!」
次々と放たれる玉焔が閃凛の体を直撃する。周囲に爆炎と爆煙が巻き起こる。
焔艶妃の攻撃が止み、爆煙が空に向かって巻き上がる。闘技エリアの壁が瓦礫の山と化していた。
「死んだかしら。大した事ない口だけの魔族だったわねぇ」
だが、そこには何事も無かったかのように立っている閃凛の姿があった。
「!!??」
「ふぅ~流石に今の攻撃は痛かったなー。おかげでせっかくの服がボロボロになっちゃった」
「ば、ばば馬鹿な!!まともに食らっただろ!?そうか、魔覚醒か!!」
「だからそれはオマエにとどめを刺す時だって言ったはずだけど?次はワタシの番だね」
「ぐっ!!」
「よーい…ドン!!」
掛け声と同時に閃凛が焔艶妃に向かって跳び、突きや蹴りを繰り出す。
「『
焔艶妃は防御障壁を体全体にかけ、閃凛の攻撃を受ける。防戦一方で反撃すら許さない閃凛の猛攻に焔艶妃は必死の形相で動きについていく。
「ぐっ!!くっ!!」
「ほらほらどうしたの!!さっさとオマエの得意な炎魔法で反撃してきてよ!!」
「かあっ!!!」
焔艶妃は反撃の一撃を繰り出すが、閃凛はそれを避け、怯むこと無く攻撃し続ける。
「くそっ!くそっ!!」
「そうだ!その声をもっと仲間たちに聞かせて!!」
「ふ、ふざけるなああああ!!『
「!!」
ドオン!!
「うっ!」
焔艶妃の体を囲むように
「きゃは…きゃーはっは!この魔法は私の手足の動きに合わせ、その方向に高熱の焔の波動砲が放たれる私の最強の攻防魔法!例えばぁ、こう!」
焔艶妃は華麗にその場で閃凛に向けて足や手を突き出していく。するとその突き出された方向に波動砲が放たれていった。
「ほらほら!私はただここで踊るだけで、離れたお前にも自由に攻撃できるのさ!!」
閃凛は空中、地上を縦横無尽に駆けながらそれを避けていく。闘技場が爆音と共に至る所で爆発し、瓦礫が轟音と共に落下していく。
「闘技場がこのまま破壊されるのはまずいかな。よし!」
「どうしたのーー!?何か攻撃をしてこないのかしらああ!!?」
閃凛が空中に留まり、その場で詠唱した。
「『
今度は閃凛の両手から無数の閃光弾が下の焔艶妃に放たれた。
フォン!フォン!フォン!
焔艶妃はそれを
ドオオオオオオン!!
直撃した焔艶妃は吹っ飛び、闘技エリアの壁に激突した。瓦礫をどかし、姿を現す。
「ふ、ふふ…なあに?その閃撃ってそんな威力なのかしら…?」
焔艶妃のその言葉に閃凛はニヤッと笑った。
「そんなはずないでしょ?手加減したんだよ」
「…だったら…本気の一撃をみせてもらおおおおかあああ!!」
焔艶妃は両手に炎の刃を握り、閃凛に斬りかかった。
「へえ、さっきの攻防一体の魔法は使わないのかな?」
閃凛は刃の太刀筋を軽やかに避けていく。
「生意気な貴様には、直接切り刻まないと気が済まなくなったのさああ!!」
「そうそう!それそれ!やっとワタシのことを『貴様』って呼んだね!」
「その減らず口を貫いてやるわああ!!」
「…オマエは、ワタシの大切な仲間を弄び、殺した…」
「あははははは!貴様の仲間は見ものだったわ!!手足がないまま泣き喚いて、這い蹲ってさ!!毛虫になっちゃったんだよね!!」
閃凛の顔つきが憎悪へと変わっていく。
「…だから、ワタシも同じように…殺してやる!!」
瞬間、閃凛の手の甲から光の刃が伸び、そして
ザシュッ!!
焔艶妃の右腕の肘から先が斬り飛ばされた。
「え?あ、あれ…?私の、私の腕があああああ!!」
焔艶妃は悶絶する。紫の血が勢い良く切断面から吹き出る。
「ああああああ…腕が…私の美しい腕がああ!!」
閃凛がゆっくりと彼女の元へ歩いて行く。
「き、貴様あああああ!!」
「無残に殺された…仲間の痛みを思い知れえええ!!このクソ野郎ーー!!!」
焔艶妃がその気迫に押され、距離を取った。だが閃凛はこれまで以上の早さであっという間に彼女の前に現れ、その光の剣で残った右腕を肩から切り離した。
「があああああああああああああああ!!!!」
焔艶妃は再び距離を取る。
近づいてくる四本角の女の目が淡く光っているのに気づいた彼女は驚愕した。
「そ、その目は…ま…まさか……竜!!??」
縦の瞳孔に黄金色の虹彩と角膜を有した閃凛の容貌。
「馬鹿な!!!竜と魔の血を引いているのか!!??」
ザキン!
「ぐわっ!!」
焔艶妃は自分の一本の角が地面に落ち、慌てて空高く舞い上がる。
「よ、よくも私の高潔な角をおお!!こうなったら…私の最大の魔法で塵と化してやろう!!震えるがいい!完全詠唱の
「やってみたら?」
閃凛は微笑し、挑発する。
「こ…後悔するといい!!『灼熱の両翼!獄炎の飛翔!
焔艶妃の高く掲げた左手の頭上に想像を絶するほどの大きさの黒炎が現れ、勢い良く閃凛に放たれた。
「死ねえええええええええええええええええ!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
「ワタシは許せなかった…あの時の自分を…だから!もう後悔はしない!!今ここで貴様を殺し、仲間の弔いを果たす!!」
開いた右手を近づいてくる黒炎に向け、左手で右手首を握ると、そこに黄金色の闘気が集約した。
「喰らええええ!!『
ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「な、なにいいいいいいいい!!??ぎゃああああああああああああああ!!」
閃凛から放たれたその閃撃は黒炎を押し戻し、焔艶妃は黒炎の渦に巻き込まれた。
爆煙が落ち着いたそこにはまだ焔艶妃がかろうじて浮いていた。だがその妖艶な容姿は焼けただれ、もはや見る影もなかった。
「がっ…ぐ…ぐ、ぐそおおお!!ば、ばかな…私の…最強の魔法が…!」
「よかった。もう少しだけ生きていてね。これからとどめを刺してあげるから」
閃凛は飛び、焔艶妃の前に位置する。
「ま…、待って!こ…殺さないで…!私が悪かった!なんでもするから!!」
命乞いする焔艶妃だったが、閃凛はそれを冷たく突き放す。
「そうやって命を乞う罪のない人達をお前は容赦なく殺してきた」
「そ、それは……これからはその人達のために、罪を償うから…!」
閃凛は手の甲から光の剣を発現し、焔艶妃の四肢を斬り捨てた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
闘技場全体に響き渡る断末魔。頭と胴体だけになった焔艶妃は浮遊魔力が消失し、落下した。
ドオン…!
「い、いや……死ぬのはいや…宝石、美食、ドレス…いや……!」
「醜いね。どんな気分?お前の殺しのやり方を自分で体験するのは」
「た…助けて……悪夢よ…そうこれは悪夢…」
「終わりだね」
閃凛は焔艶妃の頭を掴み、そして空高く投げた。
「ま、待って!!な、何を!!??」
「約束したよね!とどめを刺す時は魔覚醒をするって!」
閃凛の四本の角と瞳が美しく煌く赤と黄金色に光り輝いた。そして両手を頭上に上げた。
「これが仲間の恨みだあああ!!!死ね!!『
閃凛の体全体が角と瞳と同じ色に輝き、そして巨大な閃撃が焔艶妃に放たれた。
シュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!
「いやああああああああああああああああああああああああああ!!!!あぺぇ…―」
直撃を受けたイレド参謀焔艶妃は肉片残らず消え去った。
「…やったよ、皆…。さて次の仕事に取り掛かるかな!」
圧倒的な力で焔艶妃を葬った閃凛は闘技場を後にした。
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