第32話:対峙へ
南門はほぼ壊滅状態だった。転がる無数のイレド兵の死体に、瓦礫の山と化し、道を完全に塞いだ門、大声を上げ逃げ出す民衆。
「朝日も顔を完全に出し始めたな。計画的には順調だ」
「だね!じゃあ次はいよいよ…」
「宮殿だ…!宮殿に着けば、この辺りの兵士よりも強い近衛兵や親衛隊が襲ってくるだろう。だが、俺達は前に進むだけだ」
「うん!皆、もうすぐだよ…見守っててね…!」
「行くぞ閃凛!全速力だ!!」
「おっけー!!」
宮殿前は既に多くの兵士らが戦闘配置についていた。銀の鎧に赤や青の細かな彫刻が刻まれ、その装備からしてこれまでの衛兵や門衛とは何ランクも上の戦士である。
「ディーボ隊長!来ました!襲撃者です!」
兵士の一人が上空を指差した。
「よし!全員詠唱準備!」
「うわー全員勢揃いだね」
「これはこれは丁寧なお出迎えだな」
「準備完了しました!」
「放てええええええ!!」
親衛隊長ディーボの一斉合図により、地上の衛兵らが上空の襲撃者に向けて魔法を放った。
ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!
「どんどん撃ち込めええええ!!灰塵一つ残すなーーーーー!!」
間髪入れず放たれる魔法で周囲に爆音が響き渡り続ける。
「休むなーーーーー撃って撃って撃ちまくれーーーー!!」
シュイーーーーーーーーーーーーーーン!!
突如爆炎の奥から一筋の閃光が兵士らの隊列全体に差し込んだ。
その光を見た瞬間、ディーボに何が起こったかすぐに理解した。
「ま、まずい!!!全員障壁を張れーーーーーー!」
その瞬間、地面に差し込んだ一筋の光から巨大な光柱が上空に伸び大爆発を引き起こした。
ギュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
障壁を張るのが遅れた者、弱い魔力で張られた障壁内にいた者がその爆発により一瞬で絶命した。
「ば、化物め!!!!」
ディーボと生き残った精鋭らが同じセリフを口にした。
爆煙が晴れ、航と閃凛の姿が顕になった。
「へえ、ワタシの『
「流石はエリート集団ってところか」
二人の前に見事な鎧を装備した女戦士が現れた。
「我は外地調停部隊隊長ミーアー!大逆者よ、我の正義の剣を受け、その命を散らせ!!」
「俺は女性を傷つけることはなるべく控えたいから、閃凛、降ろしてくれ。あの隊長らしき男を殺る」
「航優しいね!了解!」
閃凛は航を降ろし、ミーアーと対峙した。
「秘技『
ミーアーが高速で槍を回転し、閃凛に向かっていった。
疾風怒濤に繰り出される攻撃だったが、閃凛は軽やかに宙を移動しながら躱していく。
「どうした!?躱すばかりじゃ我は倒せないぞ!」
「へーなかなか強いじゃん!」
「戯言を!!まだまだこんな早さじゃないぞ!!『
ミーアーの速度が増す。その一撃一撃に強風も加わり、その戦闘域は激しい空気の渦を作り出した。だが、閃凛には当たらない。
「く、くそっ!!なぜ当たらない!!」
「えへへーまだまだ遅いかな。よっと!」
その言葉と同時に彼女はそのまま後ろに回転し、足を蹴り上げたと同時にミーアーの左腕の尺骨をボキッと粉砕した。
「ぎゃあああああああああああ!!」
「そんな程度で骨を折ってるようじゃ、もう終わりかなー?」
呼吸一つ乱さず、平然と立つ閃凛の姿にミーアーはこれまで感じたことのない恐怖を全身で感じた。
「あ…あ…あ…」
ミーアーは直感した。この大逆者によってイレドの歴史が終わる、と。真に力のある賢き者は相手の強さを敏感に捉えられるという。まさにミーアーはそれだった。
「あ…あ…そんな…こんなことが…ああ…」
ミーアーの歯がガチガチ震えだし、鎧の下から液体がポタポタと流れ出る。
「どうやら、もう技は無いってことかな。じゃあワタシからいくよー!!」
「ま、待って―」
閃凛の超高速の動きを全く捉えきれず、ミーアーは大腿部に強烈な蹴りを喰らう。瞬時に骨が砕け、折れた骨が太腿を突き出した。
「があああああああああああああ!!」
そして閃凛が逆さまになり、彼女の胸に両手をかざし光をこめた。
「ま、まってええええーーー」
グボオオオオオン!!
ミーアーの存在が消し飛んだ。
「ミーアーーーーーーーーーー!!」
親衛隊長ディーボが叫んだ。
「こ、この化物共があああああ!!」
航は攻撃をその一身に受け、痛みに耐えながら兵を各個撃破していく。その様子は鬼神そのものだった。
「隊長ーー!!この男は人間じゃありません!!撤退をーー!!ガバァッ!」
「次」
その圧倒的ででたらめな身のこなしと破壊力の航に、エリート部隊が狼狽える。
「くっ…なんて強さだ…こんなことが起こるとは…!」
「お前が隊長だろ?どうした、攻撃してこいよ」
「ば、化物があああ!!後悔するがいいいいい!!」
ディーボが巨大な両手剣を頭上に召喚した。
「私の秘技『
ディーボが両手を下に振り下ろし、それに合わせて両手剣が航の頭上から斬り下ろされた。
ズドオオオオオオオオン!!バガガガガガ!!
「なんだとおおおおお!!??」
航は両手を上に交差させ、その斬撃を受け止めた。その衝撃で地面が大きく陥没する。
「はは…そんな程度だと思ったぜ。次は俺からだなーーーー!!」
ディーボに向かって航が駆け出す。その姿を見て、ディーボは地面に置いていた大盾を構え、航の攻撃に備えた。
バゴオオオオオオオオ!!
だが航の一撃は大盾を紙のように折り曲げ、その衝撃はディーボの脇腹にまで伝わった。
「げはああああっ!!」
肋骨が何本も折れ、内臓も破裂させられたディーボ。
「た、隊長おおおおおお!!」
「これで、終わりだああああ!!」
「ぐっ!『
ディーボは咄嗟に航の第二撃を防ぐために障壁を張ったが、徒労に終わった。
バリイイイン!!
「なあっ!!??」
航の拳は障壁を貫き、そのまま下から突き上げたアッパーがディーボの鎧を打ち砕き、腹を貫通した。
「げぼぁあああっ!!」
ディーボはそのまま倒れ伏した。
「ひいいいいいいいいい!!隊長がああ!!逃げろおおおおお!!」
戦意を失った兵らが宮殿前の門から闘技場方面へ向けて遁走を図ったが、閃凛が待ち構えていた。
「逃さないよ。オマエ達はここで死ぬんだから」
閃撃を兵らに容赦なく打ち込み、その場にいた親衛隊らエリート兵は全滅した。
航と閃凛は宮殿入口の門をくぐる。その門内には怯え隠れていた兵士が何人かいたが、閃凛が瞬殺していった。
「この門が無傷の状態でよかった。閃凛、うまく閃撃を調整したね、ナイス」
閃凛が親指を上げてニコッと応えた。
「さて、最後の舞台だ。準備はいいか?」
「早く殺したくてウズウズしてるよ!!」
「その意気だ」
閃凛は教えられた通り、倒すではなく殺すと言うようになり、凄みが増していた。
二人は宮殿へと足を踏み入れた。
空模様は完全に朝を呈していた。
門をくぐり少し歩くと、百メートルはあろうかという高さまで上ることになるだろう石の大階段が待ち構え、その先に広大で絢爛華やかな庭園が広がっていた。空気が一際澄んでおり、庭園からは町の景観が望め、町最大の建造物闘技場もはっきりと見える。
色とりどりの見たこともない花が計算されて作られた花壇に美しく咲き誇り、見事に手入れをされた柔らかそうな緑、赤、黄色の芝が花を一層引き立たせていた。
「すごい庭だ…これは芸術だな…」
「ほんと綺麗!!人間は腐ってるけど、こういう建造物は立派だよねー」
鮮やかな植木に豪奢な彫刻、噴水、贅を凝らしたその庭園にただ感嘆するだけだった。
少し歩くと中央広場が見え、そこに二人の影が立っていた。
「ギャクザン宮殿へようこそ、大逆者達」
緑と黄色の細かな刺繍を施したローブに身を包み、手には紫の宝玉を装着した金属製の杖を持ったロングブロンドヘアーのギャクザンが挨拶をした。
「早いお出迎えだな。どうせなら奥の宮殿で迎え入れてほしかったんだが」
「あれは俺の最高の芸術品。どうせなら君達の死体と共に案内しようと思ってね」
「ギャクザン、あの男って…」
「ああわかってる。俺達の魔法に耐えた奴だ。そして…
「まさか…!」
「おいおい、客人をほったらかして何を話しているのかな?」
「ははは、失礼失礼。これから君達をどう料理しようかと考えていたところだ」
「ああ、なるほど。料理スキルなど持っていないのに慣れないことをするわけだ」
「…口が減らないようだな…」
ギャクザンが少し苛立ってきた。閃凛は航の返し文句に「なるほどなるほど、そういうふうに返すんだ」と感心した。
「隣の少女は、その角からして魔族かな?いや、四本角の人間など見たことがないから古来種か何かか?」
閃凛は何も答えず、黙って顔を少し上げ、目線を下にしてギャクザン達を見る。
「…何も答えずか…まあいいだろう。焔艶妃、あの女は天導者じゃないが、恐らく魔族だ。お前はあの女を殺れ」
「りょうかぁ~い♪」
焔艶妃は不敵な笑みを浮かべて、閃凛に目線を移した。
「そこの幼い少女ちゃぁん、ここはギャクザンの舞台だから、私達は場所を変えましょうかぁ」
「好きにしたら?オマエの死に場所なんだから」
「貴様…あまり調子に乗るなよ…ついておいで」
焔艶妃が一瞬素の性格を曝け出し、飛んでいった。
「じゃあ航、行ってくるね」
「閃凛、今の返しはなかなかだったぞ。あいつを倒した後はわかってるな?」
「大丈夫!」
閃凛も焔艶妃の後を追い、飛び去っていった。
「さて、俺とお前、サシの勝負だ。あっという間に終わるだろうがな」
「どうかな?俺は意外としぶといと思うぜ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます