第29話:無
突如階上から爆音が鳴り響き、建物が激しく揺れだした。
メンバーから悲鳴や驚きの声が上がる。
「なんだ!!何が起こった!?」
「奴らの襲撃じゃ!!アジィ、メイカク、戦える者を集めて外に出るように命令を!」
「わかった!戦闘員は全員装備を持って表へ!!襲撃に対抗する!!それ以外は全員ここで待機!かかれ!!」
ネフタスの提案にアジィが全員に命じた。
戦闘員が一目散に表へ向かっていくのを見て、俺も一緒に向かった。恐怖で体が震えていたが、それよりもこの力が何か役に立つのであればそうしたいと思ったからだ。
だが、ネフタスから「ここにいて皆を守れ!そして隙をついて逃げるんじゃ!」と一喝され、俺はそのまま待機することになった。
戦闘員が一斉に庭に出た瞬間、彼らは全身に激しい悪寒が走った。
ギャクザンと焔艶妃が空に浮かび、こちらをじっと凝視していた。
「きゃーーーーはっはっはっは!!いるいる、ぶっさいくな子ネズミちゃんたちが巣穴からどんどん飛び出してきたわ!!」
「ふっ。ではその子ネズミとやらに挨拶をしてくるか」
二人はゆっくりと庭に降りた。組織の戦闘員らは攻撃態勢を取り続けている。
「先程はせっかくの大闘技大会を大いに盛り上げてくれたことに感謝するよ。おかげで闘技場も一部破壊され、しばらくは改修工事で使えそうもない。これは痛手だよ。やるなら闘技エリアだけにしてほしかったものだ」
「ふざけたことを…!貴様らが私達の故郷にしたことはそんな比じゃない!」
「あートリルの町か?そうだな、君達におしおきした後は、もう一度トリルを破壊してみるのもよさそうだ」
「ダメよ、ギャクザン。あそこはいい生地がとれるんだから、やるなら元々いるその町の生き残りにしましょうよぉ」
「それがいいな。ぜひそうしよう」
「貴様らああああ…!!」
アジィが怒りに身を震わせ、武器に手をかけている。
絶対的な強者が弱者を食い散らかすような目でギャクザンと
「ねぇギャクザン、雨が強くなってこのままじゃずぶ濡れだから、早く殺っちゃいましょうよぉ、ネズミは早々に駆除するに限るわぁ~」
「ふふ。では、レジスタンスリムダーフの歴史に緞帳を下ろすことにするか。イレドを混乱に陥れた罪は君達の死をもって許すことにしよう」
「そう簡単に行くと思うなよおおお!!糞どもがあああああ!!総員攻撃!!」
二十数名の戦闘員が一斉に襲撃者に向かって突撃した。
武器を駆使し斬り込む者、炎や氷魔術を放つ者、広い庭で繰り広げられる死闘。
悪の執政者は息もつかせぬ早さで攻撃を躱し続けていく。
「きゃーーーはっは!そんな陳腐な攻撃、やっぱりネズミねぇ!」
「どうしたどうした愚鈍な凶徒共!もっと本気でやってもらわないと面白くないだろう!?」
「お前たちは絶対に許さなーーーーい!!奥義!『
イセイが素早くスピンしながら二刀を振り回し、焔艶妃に斬りかかった。瞬間、片腕がボンッと爆発し、吹き飛んだ。
「あああああああああああああああああ!!」
イセイが余りの痛さに転げ回る。腕の付け根から血が噴出する。
「イセーーーーーーーーーーイ!!」
「あらぁ~あの英雄とかいう男程度にやるのかと思ったんだけど、てんで弱いわねぇ」
メイカクがすぐにイセイを抱え、前線から離れる。
「ああああああああ…!」
「じっとしてろ!すぐに応急処置を施す!」
その時、急に体が押しつぶされる力が戦闘員全員に押しかかった。
ズウウウゥゥゥン……!
「ぐあっ…!!なんだ!体が重い…!押しつぶされるようだ…!」
戦闘員がその場で上からの見えない重圧により、動けずにいた。
「こ…これは…重圧魔法か…!!」
精一杯の力を振り絞りなんとかその場に立っているアジィが推測を口にした。
「正解。俺の重圧魔法『
「やだぁ~おデブのネズミになっちゃったのねぇ」
自身の重さに耐えきれなくなり、次々と地面に伏していく戦闘員。
「こ…こんな高等魔法まで使えるのか…」
「おいおい、俺は
「化物め……だが…それでも私達は貴様らを倒さないと…いけないんだああああ!!喰らえええ!
アジィが自らを奮い立たせ、渾身の魔力を込めてギャクザンに炎の巨大な槍を放った。
「『
ボッ!ズウウン!
その炎の槍はギャクザンの詠唱と共に重圧の風によって吹き飛ばされ、槍だけが地面に落とされた。
「どうやら、ここまでのようだね」
「じゃぁ~仕上げといきますしょうかぁ~」
ギャクザンと焔艶妃は動けずに苦しんでいる戦闘員をかろうじて殺さない程度に、赤子を弄ぶように、体の部位を破壊していった。
その場が阿鼻叫喚の巷と化していった。
「ん…はぁ…おれは眠っていたのか…」
公園の樹に寄りかかり眠っていたセギィが目を覚ました。
「起きたセギィ!?多分傷の痛みでしばらく眠ってたんだと思う」
「そうか…今は何時だろう…」
「十時半くらいかな。帰還時間は十時から十一時だから心配しないで」
「そんな時間か…よし、ホームに戻ろう」
「傷は大丈夫?」
「ああ…大分よくなったと思う。戻ったらちゃんと治療をしよう」
「うん。じゃあ飛ぶからね」
「ありがとう」
ホーム地下二階には戦闘員を除く組織員と非活動員の四十名前後が外の様子を心配しながら待機していた。
そんな中で
彼には強大な力を有するこの町の支配者に対する恐怖心があったが、恐らくこのまま地下に隠れていてもいずれやられる、それならこの頑丈な体と力で何かできるかもしれないと決意し突き進んでいった。
扉を勢い良く開けると、そこには地獄絵図が広がっていた。
「みんな!!!!!」
アジィ、メイカク、イセイ、ネフタス誰もが五体満足でない有様で、その場で悶え苦しんでいる。
「おや、新しい子ネズミが来たようだ」
「あらぁ~不運な子ねぇ」
航はアジィを抱え込む。
「アジィ!!しっかりしろ!!」
「わ、航か…逃げろ…逃げるんだ…」
「そこの今登場した君、後からやって来たということは、強いってことでいいのかな?」
航はキッとギャクザンを睨む。
「おーこわいこわい」
「やってみないとわからないな…!」
「ほう。では君もこの太ったネズミにしてあげるよ」
ズゥゥン…!
「ぐはっ…!」
航はその場で倒れ込んだ。
「こ、これは…重力魔法か…」
「はぁ~どうやら大したことはなさそうだな。焔艶妃、どこか吹き飛ばしてやれ」
「あああああああ!!」
己に気合を入れた航は一人、ギャクザンの魔法から立ち上がり、ギャクザンの方へ歩いていく。
「へえ…少しはできるのかな?それとも火事場の馬鹿力ってやつかな?」
「航…!?」
意識が朦朧としながら傷口を手で抑えているイセイが航の様子に反応した。
「また自分の体でわかったことがある。俺の力は意識を解放しないと発揮できないということ、そしてその力は破壊力だけでなく、重さにも対応できるということだ…!」
「何をわからないことを」
「じゃぁ~これはどうかしらぁ?」
焔艶妃が航の足を触り、その途端に彼の足が爆発した。
「ぐわああああああああ!!」
「せっかく歩けたのに、残念だったわねぇ。…って、え!?」
航の足は服だけが焼け、吹き飛んではいなかった。
「は、ははは…どうやらひどい激痛は走るようだが、体は問題ないようだな…」
「こいつ…すっごい面倒そぉ~じゃぁこれはどうかしら!」
焔艶妃は彼の体を何度も触り、爆発を起こす。
だが、彼は痛みで絶叫し、倒れはするものの、またすぐに体に異常はなく立ち上がる。
「焔艶妃の
「わ、航…貴方一体…」
何度も立ち上がる航に焔艶妃は苛立ちを隠せない。
「…あの四本角の小娘といい、こいつらには少々癇に障る奴がいるんだねぇ…ギャクザン!もう鬱陶しいから、やっちゃいましょうよ!」
「そうだな。そろそろ大団円といこうか」
ギャクザンと焔艶妃は宙に舞い、魔力を貯め始めた。
「な!!貴様ら一体何を!!??」
「レジスタンスの皆さんさようなら。これにて統治天導者ギャクザン対反逆者の演目を終わりとする。最後はいい声で鳴いてくれよ」
ギャクザンが更に上空へと舞う。彼の片手の上には巨大な紫色の球が浮かび、焔艶妃の掲げた両手の上からは黒炎の球がゴウゴウと燃える音を立てている。
「楽しかったよ」
「バイバァ~イ」
「『
「『
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
紫の巨大球がホームへと覆いかぶさっていき、黒い煉獄の炎球が庭で倒れている戦闘員と航に向けてホームの方向へ放たれた。
轟音。
その衝撃はホームへと向かっていた閃凛とセギィにも伝わった。
「な、なに、この音!?」
「閃凛、ホームの方向だ!!」
「え!?あれって、黒煙!?」
「まずい、急いでくれ閃凛!!皆が!!」
「うん!!」
………俺はまた大丈夫のようだな…。上の瓦礫をどかさないと…!
「むんっ!!」
ガゴン…!
俺は上に覆い被さっていた瓦礫をどけ、立ち上がった。激しい雨が降り注ぐ。
「…どうやらあの黒炎の球で遠くまで吹き飛ばされたようだな…」
俺は至る所に散らばる瓦礫の後を辿って急いでホームへと走った。
「ひどい瓦礫の山が続いている。くそ!みんな無事でいてくれ!」
しかし、ホームの場所まで着いたそこは目を覆うような惨劇の跡だった。
ホームの建物は地下深くまでえぐれ、もはや見る影もない。そして周りには仲間の遺体が散乱し、体の部位が瓦礫や周囲の草木に引っかかり垂れ下がっている。どうにかその亡骸がアジィやメイカク達だと言うことがわかる程度だった。
「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
俺は泣き叫んだ。それしかできなかった。
「アジィ、イセイ、メイカク、ネフタス、ジョウガン、アイケイ、みんな…みんなあああああああああああああああ!!」
膝から崩れ落ちた俺は頭をかきむしる。涙が止まらなかった。
「航!!」
閃凛とセギィが戻ってきた。
「これって…これってどういうこと…!?嫌だよ、ワタシ、嫌だよーーーー!!」
「こ…これは…これは一体どういう…どういうことなんだあああああああ!!」
二人がその惨憺たる光景に泣き叫んだ。
「航!!航、どういうこと!?何があったの!?ねえ!!」
「航!!一体何があったんだ!!??教えてくれ!!航!!」
俺は泣き震える自分の声をなんとか振り絞って、二人に説明した。
「ギャクザンと…焔艶妃が…ホームを襲撃して…みんな…みんな殺された…!」
「あああ…なんてことだ…なんてことだあああああああ…!!」
「いやーーーーーーーー!!イセイ!?アジィ!?みんなどこ!!??やだよワタシ!!みんな死んでないよね!!??ねえ航!!??」
俺は声を押し殺し、どんどん溢れこぼれてくる涙を流しながら、黙って首を横に振る。
「姉貴…!イセイ…!メイカク…!くそがああああああああああああああああ!!」
セギィは辺りをよろけながら歩き、かろうじてアジィとイセイだとわかる頭を抱きかかえている。
閃凛は座り込み泣き叫んでいた。
「こんなことって…こんなことってないよおおおお!!」
激しい雨がとてつもなく不快だった。一体この悲劇からどうするのか。セギィだけが生き残り、まだ何もわからない俺と閃凛だけで一体どうするというのか。
その時だった。
「ぎゃあああああああああ!!」
「セギィ!!??」
俺は声の方を振り向いた。
「と、トレビィ!!」
「じっと潜伏していた甲斐があったよ。生き残りがいると思うから、その時は始末しろとギャクザン様から命じられてな」
トレビィは背中から腹にかけて剣を突き刺されていた。
「貴様ああああああああああ!!」
「お前達もすぐにあの世に送ってやる!滑稽だったぞ!騙されていた時のお前達の反応はな!!死ねえええ―」
瞬間、閃凛の足蹴りがトレビィの脇腹に入り、トレビィの上半身と下半身が引きちぎられた。
「ぐばっ!」
「消えてなくなれええええええ!!」
閃凛は閃撃を撃ち、トレビィは塵となって消えた。
「セギィ!!」
俺と閃凛はセギィの元へ駆け寄り、抱きかかえた。
「セギィ!セギィ!」
「セギィ!!しっかりして!!」
セギィはもう命の灯火が消えかかる寸前だった。
「はぁ…はぁ…わ、航、閃凛…す、すまないな、こんな…ことになって…」
「もういい!喋るな!傷口が開く!!」
「お、おれはもう駄目だ…。こんなはずじゃ…なかったん…だけどな、ガハァッ…」
口から大量の血を吐き出した。
「馬鹿野郎!!お前が死んでどうする!!生きろ!生きてもう一度立て直すんだ!!」
「おれの…責任だ…。航と閃凛が…生き残ったということは…きっと…きっと意味があるはずだ…お前達には何か…特別な運命があるんだろう…」
「セギィ!セギィ!」
「…頼む…どうかおれ達の…おれ達の意志を継いでくれ…継いでそして…いつか奴らを倒してくれ…きっと…お前達ならできるはずだ…」
「そんなこと…お前が必要なんだ!だから生きてくれ!生きて…くれ!」
「親父に…怒られるな…これじゃあ…。くそ…みんな…。航…お前達と過ごした日々は…楽しかった…よ…後は…まかせ………た…ぞ…」
「セギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
「いやーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
篠突く雨の中、俺と閃凛はいつまでも泣き叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます