第24話:次第に近づく運命
作戦が完了し、無事にホームへと戻ってきた時には朝日が顔を出していた。
ホームに到着してすぐに作戦関係者はセギィの部屋へ集まった。ここでセギィへ成功の報告をするのが通例なのだという。
「みんな、よくやってくれた!そして全員無事に帰ってきてくれたことを本当に嬉しく思う!」
セギィは俺達に激励の言葉をかけ、一人一人と腕を十字に交差させてぶつけていく。これが互いを褒め称える挨拶なのだろう。俺も見よう見まねでその動作をして応えた。まあ…何もしていないのでちょっと複雑な気持ちだったが。
セギィは最後にトレビィに挨拶をした。
「ようこそリムダーフへ。おれはここのリーダーでセギィ=チサジウス。今は突然の出来事でよくわからないと思うが慣れればなんてことはなくなるから安心してほしい。おれ達は仲間で同志だ」
トレビィは真っ直ぐ彼の目を見ている。
「よ、よろしくお願いします。頑張ります!」
「頑張る?ははは、緊張する必要なんて無い。ここでゆっくり生活していけばいい」
その後は地下二階の大広間で朝食を皆で囲んだ。俺は特に腹は空いていなかったので水だけを飲みながら、談笑していた。
トレビィは食欲がないのか、パンを二口三口食べて部屋に戻っていった。助け出された人は右も左もわからないため、生活に慣れさせるために色々身の回りの世話をしてくれる役割の人と一緒に地下一階の部屋でしばらく過ごすのだという。
アジィが向かいの席に座った。
「
「アジィ、おつかれ。そうだな、どうだったって聞かれても、俺は草むらで横になって戦況を傍観していただけだから、なんとも言えないのが正直な気持ちかな」
「はは、いや、航はちゃんとやったよ。
「ふん!わひゃるがいひょいひょおひえへふへ―」
「閃凛、物を食べてる時に話しちゃだめだよ?」
「あ、
閃凛はごくんと朝食を飲み込み続けた。
「航が色々作戦での動き方とか考え方をわかりやすく教えてくれたからうまくできたんだよ!ありがとね、航!」
「あ、っと…い、いや、こちらこそ…」
閃凛に直接礼を言われたことなんて初めてじゃないだろうか。いつも俺が助けてもらっていたから、なんだか妙に恥ずかしかった。
「そういうことさ、航。君も作戦参加者として立派な働きをしたんだ」
「ありがとう、アジィ」
「ま、航のことは変態だと今でも思ってるけど、作戦においては助かったわ。おつかれさま」
「こちらこそ、お疲れ様、イセイ」
皆からの礼に俺は初めて作戦参加者の張本人だったんだと自覚することができた。
アジィから、体内リズムが狂うから今日は夜まで無理してでも起きていたほうがいいと忠告を得たので、俺はいつもの特訓場で未だ慣れない武器術に汗を流した。次の作戦は組織結成以来最も大規模なものになるらしい。身体と力には誰よりも自信があるが、閃凛や
閃凛は他の戦闘員と特訓をし、彼らの戦力を増強する力になっている。
「…俺も魔法使えないかな」
「魔法はまだ航には難しいな」
俺の独り言をエメラルドグリーンの髪の女エルフ、アイケイが聞き、応えた。
「あ…聞かれてたか」
「魔法は長い魔法特訓でようやく習得できる戦闘技術。アジィや私らは幼少時より訓練を繰り返し初めて習得できたんだ。そうだな大体七十年くらいか」
「な、七十年!?俺…死んでるな…」
「いや人間の寿命は五百年ほどだから、大丈夫だが…そうか航は地球人という種族だったか」
「…はぁ、地球じゃ到底習得なんて無理な話か」
「まあ人には得手不得手がある。航は魔法や武術ではなく、違うところに才を見出すことがいいと思う」
「…同感だ」
「ただ、そうやって武術を一生懸命になって習う姿勢は私ら戦闘員には好ましく思う。戦闘員以外が戦う機会はないとは言えないからな」
「頑張るさ。力になるために」
アイケイは美しく微笑し、閃凛との訓練に戻っていった。
俺は特訓を終え、固すぎる身体で開脚ストレッチとは到底言えないそれをしていた。
すると、閃凛が俺の背中に抱きついてきた。
「航ー!相変わらず固いね!ワタシが押してあげよう!」
「え!?い、いや、大丈夫だ…って、アイタタタ」
「ほらー全然ついてないよ。えい!えい!」
徐々に抱きつく力も強くなり、遂には痛さよりも柔らかすぎる胸の感触の方に自然と全神経が集中し、耳に吹き付ける閃凛の声と吐息に気持ちよくなってくる。
「せ、閃凛、ダメ、ストップストップ…!」
久しぶりの閃凛の感触に俺は身体に幸せを感じていく。
「ん?あれ?航、また股が大きくなってる!どうしたの!?痛いの!?」
「え!?」
するとたちまちのうちにイセイやアイケイ、その他女性が集まってきた。
「うわわわわ!なんでもない!これはしかたないんだー!」
俺はその場からすぐに離れて彼女たちに弁解するが、時既に遅し。
「や、やっぱりお前は変態よ!!」
「航…お前というやつは…」
「ち、違うんだ!これは仕方がなく―」
「ええーい!あっち行け変態!あー閃凛かわいそう!大丈夫?あの変態に変なことされてたんでしょ?」
せっかく誤解が解け始めてきた所だったのに…トホホ…。
俺は女性達から色々な目線でじろじろ見られながら、男仲間達からは「仕方ない、あれは仕方ない、そして羨ましいぞ」と慰められながら帰りの獣車内で過ごすはめになった。
ある日の午後、トレビィの大声がセギィの部屋から聞こえた。俺はネフタスとドアに聞き耳を立てる。
「お願いします!ぼくも組織の活動に参加させてください!」
トレビィが奴隷から解放されてまだ数日のことだった。
すごいな…人間としての生活をこれから歩んでいけるってのに、命をかける実行部隊に参加を表明するなんて…。
「トレビィ、おまえの気持ちはよくわかる。だがおまえはまだここでの生活に慣れきっていないし、若い。今の人間としての生き方を蹴ってまで、生死をかける組織の活動に参加させる酷なことは勧められない」
セギィは命をかける重たさをトレビィに説くが、彼もひかない。
「覚悟の上です!」
「その覚悟はどこからくる?」
「ぼくは両親、妹をギャクザンに殺されました。復讐を果たしたい!そのためにはこの命、組織に捧げる覚悟なんです!どうか、どうかお願いします!」
「…命をそう簡単に捧げるとか言うもんじゃない。ただ、おまえの覚悟は十分伝わった。そうだな…戦闘員はまだ早いから、とりあえず情報員として任務についてみるか?」
「はい!お願いします!」
トレビィの情報員配属が決まった。
俺達は盗み聞きがばれないように、そろりとその場を後にした。
「トレビィは肝が座ってるな。俺は命をかけるってこと、なかなかできないのに」
「ふむ…ま、意志と心の切り替えが早いんじゃな」
大規模作戦開始十五日前のこの日は、作戦会議が開かれる重要な日だった。集まるのは幹部と副幹部。俺は閃凛の助役として参加することになっていた。
大規模作戦に関してはセギィから事前に聞いていた。それは最も困難で、最も価値ある作戦だったが、途方もない内容だったため俺には未だにそれが現実に起こるのか想像すらできなかった。
会議室に幹部が集まった。幹部にも話は伝わっているのだろう。士気が高く、その目に決意が宿っているようだった。
セギィ、アジィ、メイカクが入室した。
「みんな…遂におれ達の目的の一つを達成する時がきた。周知の通り、十五日後の大闘技大会が行われるその日、リムダーフはトリル町長であるドウセイと、仲間を助け、ギャクザンと焔艶妃を討つ!!」
「やってやるぜええええええええええ!!」
セギィのその言葉に男幹部らは抑えきれない興奮で叫ぶ。その叫びは部屋を揺らすほどだ。
大闘技大会は半年に一度開かれる最大の闘技場イベントで、そこにはイレド天導統治者ギャクザンと参謀の焔艶妃が観覧する。別名天覧大会と呼ぶらしい。
「これは、ドウセイ町長達がその場にいなければ叶わなかった作戦だ。おれ達の英雄ドウセイが生きていた、その事実はリムダーフに希望の光を照らしてくれた。英雄ドウセイとおれ達の力を結託すれば、憎きギャクザンと焔艶妃を討つことは絶対にできる!」
「うおおおおおおおおおおお!!」
「同志よ奮い立て!!我らに自由の導きあれ!!」
「我らに自由の導きあれえええええ!!」
俺と閃凛が組織に加わる前から計画していたこの大規模作戦。この作戦があったと事前に知っていたら俺は仲間に入っていただろうか、とそんな疑問が一瞬脳裏をよぎった。
俺の目的は奴隷を解放するのも当然だが、地球に帰ることが最大の目的。この作戦はそれに近づくものだ、俺はそう自身に言い聞かせ、気持ちを切り替えた。
メイカクが作戦の概要について話を始めた。手元の分厚い資料を閃凛と目を通しながら聞く。
「まず当作戦は戦闘員、情報員全員参加となる。戦闘員は闘技場内と場外に分かれる。場内は二十一名、場外に八名。場内はドウセイ町長とその仲間の計七名を合わせ、合計二十八名でギャクザンと焔艶妃を討つ」
総力戦。恐らく命を失う者もいるだろう。が、素より覚悟の上なのだろう。彼らには誰一人として動揺がみられない。
「場内の戦闘員は闘技エリアの前観客席を一定間隔で待機し、セギィの合図で作戦を開始することになる。その合図で踊り場の衛兵を倒し、一斉に炎魔法で貴賓席のギャクザンと焔艶妃に放つ。貴賓席周囲には近衛兵が護衛しているため、その周囲に配置された戦闘員は奴らごと燃やしつくせ。閃凛、期待している」
「わかった!」
会議は粛々とメイカクの説明で進められた。そして最後に作戦後について話があった。
「作戦はギャクザンと焔艶妃の抹殺をもって完了とする。もしくはセギィの合図によっては作戦途中で完了することもある。それは奴らが来なかった場合等だ。ただ来なかった場合でもドウセイらを救出することには変わりない。そして作戦完了後が重要だ。作戦後は当然ながら兵士の追跡が予測される。そこでホームへの帰還時間を決める。作戦が完了したと同時に各員は闘技場から脱出し、兵士の目をかいくぐり身を潜め、帰還時間になったらホームへ集合すること。これを徹底するように。そのため、各員は潜伏先を決めておくなり、準備をしておくように。作戦は帰還までが作戦だ」
その後は各班それぞれが集まり、作戦の趣旨や内容がメンバーに伝達された。
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