第17話:イレド衛兵の本性
詰所は石造の三階建で周囲を長い柵で張り巡らしていた。門の入口には交代制で詰所の警護にあたっているのか門衛が二人立ち、俺の前を歩いていた門衛が手を挙げて挨拶すると、すぐに道を開け、詰所内へと通してくれた。
中へ入ると、すぐに上と下に続く階段が広間の横にあり、俺達は地下へと誘導された。地下は例の光を放つ生物ランプで灯されているが、生物の数が少ないのだろうか、薄暗い。俺は地下に降りた右側の通路奥の部屋に通された。
「どうして彼女と別々の部屋に?彼女は私の付き添いですから一緒にしていただかないと困るのですが」
「黙って入れ」
部屋はランプが壁に六つ程かけられているくらいの薄暗さで、俺は隅の木のテーブルに荷物を置かされ、椅子に座らされた。俺に入都審査した男が兜を脱ぎ、油ランプをテーブルに置いて対面して座る。扉には二名の門衛が出口を塞ぐように立っている。
ただの確認事項なのにここまでするのか?俺は心臓がドクンドクンと徐々に強く鼓動してくるのを感じた。石壁をよく見ると黒に近い赤黒い液体が吹きかけられているようなシミが至る所に広がっている。
「さて…」
門衛が葉巻に油ランプから火をつけ、プカァッと吹かして切り出した。
「お前から受け取った
そうか、こいつらの狙いは竜鱗だったのか。あの対応は少々まずかったか。
「行商人のアンタならその価値は知ってるだろ?竜の鱗といえば、最高級の装備素材で普通は国の管理下に置かれるほどのモンさ。そんなモノをお前は十枚も持ってやがる。お前は行商人。竜と戦う力などない。となると、どこかでくたばった竜の死体から剥ぎ取ったしか考えられねえわけよ。それをだな、俺達にもすこーしばかり分けてほしいってことさ。なぁに、タダでとは言わねえ。教えてくれればこの町で暮らしやすくしてやるさ」
残念だがその竜の鱗は閃凛が手に入れたもので、ここから相当離れた場所にある。教えた所でこいつらがどうこうできるものじゃない。
「鱗はここから普通に歩いていくだけで数ヶ月はかかる森の奥深くで手に入れたものです。私も偶然見つけたものでその時には今ある分しか残っていませんでした」
「……」
門衛が煙を口に含ませながらじっと俺を目を細めて正視する。束の間の静寂。
「そうかい…おい、地図もってこい」
扉の前に立っている門衛に地図を持ってこさせ、テーブルにばっと広げた。それはロイエー国だけでなく、他の国の場所も記載されている縮小世界地図だった。雑ではあるが、この世界を知るにはもってこいだ。
「ここがイレドだ。お前が手に入れた場所を指差せ」
わかるわけがない…。だが俺達は南門から入都したから、やって来たのはこの南の広大な緑に塗られた地域からなのだろう。俺は適当に南の奥を指し示した。
「…この辺りです」
ドガアァッ!
「がぁっ!!」
門衛が突然テーブルを俺の方に蹴り、その角が腹に勢い良く当たった。
くそっ…。こういう時の悪人との駆け引きなんて知らねえよ…。
「てめえ、舐めてんのか?ああ!?ここに人間が行けるわけねえだろうが!ここは『
門衛がヤクザってどんなアニメ展開だよ…!
「…嘘じゃない…」
「そんなに言いたくねえのかよ。じゃあ、これなら言いたくなるか?ああ?」
男が戦闘用ナイフを取り出し、俺の顔を刃の横面でピシピシと叩く。
これはまずい…下手したら殺される展開か…?いくら体が頑丈だからといったって、刃は無理だ…。
「本当だ…嘘じゃなく、そこで手に入れたものだ…信じてくれ…」
ドガアアッ!
「ぐばっ!!」
男は俺の頭を思い切りテーブルに顔面から叩きつけた。瞬時ににぶい痺れるような痛みが全身を突き抜ける。
「俺はな、忍耐強くねえんだよ。おら、吐けよ」
再度俺の顔をテーブルに打ちつけて急かす。
「…嘘じゃない…!」
「……もういいわ。嘘じゃないなら、そんな危険地帯行けねえしな。この十枚貰っとけば十分か。これだけあれば闇市で売っても一生女はべらせて遊んで生きていけっしなあ!おいお前ら、コイツぶっ殺していいぞ」
私利私欲で平気で人を殺す兵隊がまさか実在するとは…。
「き、きさまら…!」
俺は立ち上がり拳を握り、体は震えているが戦う姿勢を前面に押し出した。
「ああ?なんだてめえ、商い人の癖していっちょ前に殺ろうってのか?笑わせんなよ!」
他の二人の門衛もギャハハと下品に笑っている。
「あーそうだ。くたばる前に教えてやるよ。お前の親戚のあの美少女はこれから俺達が別室で可愛がってやるからあの世でみててくれよな!その後はバイバーイだからすぐに会えるさ!ダーーーハッハッハ!!」
俺はその言葉に激昂し、攻撃に転じようとしたが、閃凛の強さを知らないこいつらに対して笑いが出た。
「はっ、ははは…きさまらなんて閃凛の前では虫けらのようなものさ」
「なんだとこらああ!!おい、殺せ!」
扉の前の一人の門衛が俺に剣を振りかざして向かってきた。俺はテーブルを乗り越え、部屋を逃げ回るが、徐々に距離を詰められ、瞬間、剣が俺の左上腕部から下腹部辺りを切り裂いた。
「ああああああああ!!」
鋭く焼けるような痛みに叫び声を上げる。ここで俺は終わりか…と俺は死を覚悟した。
「あ…あれ、痛みがすぐに引いた…」
血も出ていない。切れたのは服だけだった。その様子に斬りつけた門衛が狼狽した。
「な!なぜ血が出ていない!?倒れない!?」
俺にもわからなかった。まさかこの体は刃物すらびくともしないのか?それとも切り口が浅かっただけなのか?しかし門衛がうろたえているこのチャンスを逃す手はない。小刻みに震える拳に目一杯力を込め、門衛の胸に思い切り突き出した。
「だああああ!!」
ボガアアアアアアア!
「ぐべあぁぁ!!」
ドゴオオオオオン!!
門衛はものすごいスピードで吹っ飛び、壁に打ちつけられ、地面に倒れ微動だにしなくなった。石壁はへこみ、衝突した箇所からひびが走っている。
「て、て、てめええええ!!今何しやがったあああ!!」
残りの二人が慌てふためき、俺に怒鳴り散らす。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
突如、遠くの部屋から大きな爆発音が轟いた。
「な、なななんだ!?何が起こりやがった!?」
またしてもパニクる二人。
「は、はははは…!閃凛に決まってるだろ?今頃、きさまら全員倒されてるさ、ざまあみろ」
「て、てんめえええええ!!」
俺の顔をテーブルに打ちつけた門衛が剣を抜き、俺に斬りかかってきた。刃先が俺の首の横から飛んできた。
「まずい!」
即座に声を上げてかわそうとしたが、既に遅く、剣が首の右側に当たる。
「ぐあっ!」
だが首は切れず、剣がそこで止まっていた。男が信じられないその状況に目を見張った。
「な、なんで斬れないんだ!?ばかな!!て、てめえ化物か!?」
化物…そうかもしれない。
「くそーーーー!」
男はがむしゃらに剣を振り、斬りつけてくる。その度に俺は激痛が走るが、体や意識ははっきりしており、状況を打開するために体当たりして体に掴みかかり、そのまま壁に突進した。
ドゴオオン!
「がはっ!!」
門衛は血を吐き、苦しむが、俺に拳を当ててくる。
「て、てめ!!死ね…!死ね…!」
俺は右拳を思い切り握り、下から門衛の顔を殴った。
「かふっぅ」
門衛はそれきり動かなくなった。みると、首が吹き飛び、地面に転がっていた。体の首の付け根からは血が吹き出している。
「うわあああ!」
咄嗟にその門衛の死体から離れる。信じられないその状況にたじろいでしまった。だが隣の倒れたテーブルに油ランプの火がうつり、メラメラと燃え始めているのを目にしてすぐに正気に戻った。
「ひ、ひいいいいい!化物おおおお!!」
残りの扉の前にいた門衛が急いで部屋から逃げ出した。
ドオオオオオオオン!!
門衛が飛び出した瞬間に、扉の前の通路に閃光が発し、爆発音が響いた。そして部屋の天上からパラパラと石が降り始める。
「
案の定閃凛だった。立派に煌く四本の角を生やしている。どんだけ強いんだ。
「よかったーー!!航無事でよかったーー!助けにきたよ!」
閃凛は俺に抱きつき喜ぶ。普通は男の俺が助けに行くと思うのだが、美少女に助けに来られるなんてな。
「怪我してない、航!?」
「あ、ああ、大丈夫。それよりここから早く出よう。いつ追手がくるかもわからない。閃凛、天上に穴を空けられるか?そこから飛んで暗闇に紛れよう」
「わかった!!」
閃凛が片手を挙げると同時に、その手が白い輝きを放ち、たちまちのうちに天上を破壊した。
「よし出るぞ!」
落ちてるリュックと竜鱗を両腕で抱え込み、閃凛に持ち上げられ、火の粉が激しくなった詰所から脱出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます