旅立ち
「ふぅ、これくらいかな」
レイナは大きな荷物を小屋の外に出し、ふぅ、と、息を吐いた。
外は暖かかった。
現在カルタナ村は春であり、暖かな気持ちのいい風か吹いていた。
そしてレイナは今日、旅に出る。
「この村ともサヨナラか……」
レイナがこの村に来たのは一年前の春だった。
何の変哲もない、ただの村より少し、いや、かなりちんけな村だったのだが、山に囲まれて、凄く自然を感じられた。
だからレイナはここが気に入った。
村の集落から少し離れた場所に家を置き、そこに住み着いた。
家では村人の治療や、魔法学をしていた。
そうやって、一年をこの村で過ごした。
魔女が旅立つ。
噂を聞いたのか、子犬を抱きながらサラが魔女の元に来た。
「魔女さん!どっかいっちゃうの?」
サラの目には涙が滲んでいた。
たった一回の交流でも子犬を治した。という事はサラにとってとても嬉しい事で、まだ小さな子供の、サラの心を掴んだのだった。
だからサラは魔女が旅に出る。とい聞いてすぐにここに来た。
涙を滲ますサラの頭を撫で、レイナは優しく呟いた。
「サラちゃん、私はこの村を出ていきます。それが私にとっての始まりだから。」
その言葉を聞いて、サラはとうとう涙を流した。
レイナはサラの頭にあった手を、そっと目元へ持って行き、大粒の涙を一本の指で拭いた。
「でもね、サラちゃん。出会いがあれば、別れがあります。それがこの世界の成り立ちだから。だから寂しくない、別れがあるのなら、出会いがある。きっとまた会えますよ」
「本当?」
「本当です」
レイナは笑顔で強く頷いた。
その顔を見たサラは、涙を
「えへへ、約束だよ?魔女さん、絶対また会いに来てね?」
「分かりました。約束です」
レイナは小指を差し出し、サラの小指と絡めた。
「「指切りげんまん嘘ついたらハリセンボンのーます、指切った!」」
レイナとサラは向かい合って笑い合い、また会う事を約束した。
「またね!魔女さん!」
「うん、またね。サラちゃん。よい、しょ」
「その大きな荷物、大丈夫?」
「あ、う、うん、大丈夫だよ」
レイナの荷物は大きかった。
一年間ために溜めた本や服。風呂敷にはしまえるものの、とても重たかった。
「うーん、これじゃ
「魔女さん大丈夫じゃなさそうだね」
「大丈夫だよ。魔法でお片付けするから」
「そんな魔法もあるのー!?」
「うん」
興味津々のサラを他所にレイナは風呂敷に向かって手をかざし詠唱した。
「フィア・ザ・メルン」
詠唱と共に現れた魔法陣に飲まれるように風呂敷は消えていった。
「えー!どこいったの!?風呂敷さんどこいったの!?」
「この魔法はね、『フィア・ザ・メルン』って言ってね、違う次元に仕舞う魔法なの」
「ふぃ、ふぃあざめるん?」
「そう、上手」
「お家に仕舞わなくていいならお母さんが喜ぶ!いつも片付けるとこなくて困るーっていてたの!」
「うん、それはいい案かもしれないけど、魔法はね、
「へぇ~」
サラはよく分かってないがとりあえず返事をした。
レイナもそれを察し「あはは、わかんないか」と微笑した。
その笑いに釣られてサラもフフっと微笑した。
その笑っているサラの顔を見てレイナは心が暖かくなった。
そして、この村から出たくないとも思った。
だから、だから戻りたいと思わないうちに……
「じゃあ、サラちゃん。そろそろ私は行くよ」
「え……」
サラから笑顔が消え、悲しみの表情が一面に現れた。
レイナが声をかけようとすると、サラは大きく首を振り、
「魔女さん、行ってらっしゃい」
その笑顔は、作り笑いなのか、そうでないのか、分かりはしないが、レイナには一つわかった。
今までで一番の笑顔だと。
その笑顔に答えるようにレイナは言った。
「うん、行ってきます!」
レイナは箒を取り、サラに向けて手を振りながら飛んだ。
しばらくして、サラの姿は見えなくなった。
出会いがあれば別れがある。ならば、その逆、別れがあるなら出会いがある。だから悲しくない。
そうは言ったものの、箒で飛び立った白の魔法使いの目には、微かに涙が見えた。
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