第2話

(ある若者視点)


辺りはもう暗い。

今日は満月だ。


松明を持って森を抜ければ人に見つかってしまう。


だから、人目に付かず、都を出るにはこの暗さが丁度いい。



都には飽き飽きしていた。


俺はもっと外の世界が知りたい。




「梅花(うめか)!」


聞き慣れた声が、遠くから追いかけてくる。

俺は草陰に隠れて、その声が通り過ぎるのを待った。


「見つけたよ」


がしかし、声の主人は俺のすぐ前で止まった。


「君は隠れるのが昔っから下手だったよね」


幼馴染として、共に育った彼には、俺の考える事なんてバレてしまう。


「業平…俺を京に連れ戻しに来たのか?」


在原業平。

俺より先に元服を済ませて、現実を知ったこいつ。

こいつは自分に与えられた枠の中で、精一杯優雅に生きている。




でも俺は違う。




「当たり前だよ!嫡男の君がいなくなったら、紀氏はどうなるんだよ!」



厳しい口調だが、友人として言葉の節々から俺への思いやりが感じ取れる。



「俺は絶対に帰らない。都で貴族の政争に巻き込まれるなんて、俺はもう嫌なんだよ」


だけど、俺はその一言で彼を突き放した。


中央に居る貴族は腐っている。

賄賂や縁故、天皇も形骸化して、まともな政治なんて全く望めない。



もううんざりだった。





とその時、近くで人が倒れたような大きな音がした。


「今の…なんだ!?」


俺が飛び跳ねると、業平は辺りを見回した。


「あそこに、人が倒れてる…!」


業平の合図で、俺たちは倒れた人の元へ駆け寄った。



「おい!大丈夫か!」


返事はない。

幸い、微かに息はある。


どうやら気絶しているらしい。



女か?

いや、それにしては髪が短い。


服装も、町人や百姓とは違う…形容し難い変わった服を着ている。


ここでこいつを見捨てていけば、都とおさらば出来る。




だけど……そんな野暮なこと、俺は出来ない。




「業平、これ持ってくれ」


俺は自身の持っていた荷物を業平に預けて、倒れていた少年を肩に抱えた。


「君はホント、お人好しだね」

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