カードゲーム作りました。〜切り札はフクロウ〜

ベームズ

いきなりクライマックス‼︎

「フハハハハ‼︎これでお前は終わりだァ‼︎」


男の高笑いが会場に響く。


男の名は有馬闘次、



有馬グループの社長その人だ。



有馬は、勝ち誇ったかのように向かいに立つ男へ視線を向け、指を指す。


「どう考えてもお前に勝ち目はない‼︎大人しく降参したらどうだ?」




「……クッ」


対して、向かいに立つ男



加藤誠


は、悔しそうに自分の『手札』を見る。


と言っても、現在彼が持っている『カード』は一枚だけ、どれだけ見ても変わりはない。


ここは歓声が上がる大会会場。


世界的に圧倒的人気のカードゲーム『召喚獣バトル』


その世界大会の決勝戦の真っ最中だ。


そして現在、その戦いもまさにクライマックスを迎えていた。



場の興奮は最高潮に達し、歓声は会場を震わせるほどになっている。



過剰なほどに明るく照らしてくる大量のライトに、対戦相手の威圧的な態度、周囲からは数え切れないくらいの観客の歓声。


そんな状況にいるだけでもう誠の胃はキリキリと締め付けられるような痛みに襲われている。


方や、有馬は周囲のことなど気にした様子もなく、高笑いを続けている。



それもそのはず、


有馬の盤面には見るからに強そうな召喚獣が3体も並んでいる。


『最大最強の陸上生物シロクマ』


ステータス

必要頭脳レベル『80』


攻撃力『100』


体力『300』


特殊能力『幸福度5、銃弾二発』


効果『このターン、この召喚獣は戦闘でダメージを受けない』



『深海の王ダイオウイカ』

ステータス

必要頭脳レベル『50』


攻撃力『50』


体力『200』


特殊能力『幸福度1』

効果『このターンのエンドフェイズ時、この召喚獣の体力を回復する』




『最速の狩人ハヤブサ』

ステータス

必要頭脳レベル『50』


攻撃力『90』


体力『40』


特殊能力『銃弾1発』

効果『このターン、この召喚獣が与えるダメージは倍になる』


手札は5枚。




方や、誠の盤面にはカードが一枚もない。


それどころか、手札は一枚、


言うまでもなく、戦況は大型の召喚獣が三体並んでいる有馬の圧倒的優勢


誠の手札と盤面では、どうやっても逆転の目はない。


「どうした?俺のターンは終了した。降参しないなら、さっさとドローしたらどうだ?」


有馬は、余裕笑みを崩さずに誠に最後のドローをするように進める。


「………ドロー」



弱気に一枚引いた誠。



(みんな、すまない……)


自らが引いたカードを見て、内心でみんなに謝る。


「何を引いた?今更何を引こうが、勝ち目はないだろうがな‼︎フハハハハハハハ‼︎」



腰が折れるんじゃないのかと言うほどに反り返って高笑いする有馬。


最早自らの勝利は揺るがないと、圧倒的な余裕の態度だ。


「……すまない。みんな」


もう一度、今度は口に出してみんなに謝る誠。



誠の言う「みんな」というのは、つい最近まで初心者だった誠に、親切に一からルールを教えてくれたショップの人たちに、


ここまで追い詰められているにもかかわらず、諦めるなと応援してくれる仲間たちに。


幾度も死闘を繰り広げ、互いに理解しあったライバルたちに、


……ではない。


「ふふふ………」


不敵な笑みを浮かべる誠。



「……⁇何がおかしい?」


様子がおかしいことに気がついた有馬が、誠に問いかける。



「追い詰められておかしくなったのか?」


だが、すぐに鼻で笑い飛ばす。


対して、誠は、



「いや……お前のファンたちに申し訳なくって……な?」


場に出す前に、引いたカードを有馬に見せつける誠。



「――ッッ!?そ、そのカードは‼︎‼︎」


そのカードを見た有馬の表情が変わる。



驚愕のあまり開いた口が塞がらず、急に大量の汗をかきはじめる。



あれだけ余裕だった有馬の表情が変わった原因は、


当然、誠が今、最後のドローとして引いたカードである。


誠が引いたカードの名前は



『レッドデータブック』


効果は『相手に10ダメージ』


ただ10ダメージ与えるカード。


…………。


……はっきり言って、雑魚カードである。



が、


そのカードを見た瞬間、明らかに有馬に動揺が見られる。



なぜ高々10ダメージのカードにそこまで動揺するのか、





理由は簡単。



有馬の場には頭脳レベル80の大型召喚獣がいる。


つまり、有馬の年齢は現在80以上まで登っているのである。


この局面での10ダメージは命取りになり兼ねないのだ。


ただ、




「フ、フン‼︎だが残念だったな‼︎俺の年齢は現在85、いくら直接10ダメージを与えるスペルを引いても、あと5残るぞ?」


かろうじて余裕を保ち続ける有馬。


だが、そんか彼でも分かっていた。


誠の様子が変わった理由、


つまりは、誠の後一枚の手札は……


「いくぜ相棒‼︎俺は召喚獣を一体召喚する‼︎」



『幸運の暗殺者フクロウ』


ステータスは、


必要頭脳レベル『20』


攻撃力『10』


体力『5』





…………。




このカード、ステータスだけを見ればただの雑魚カードに過ぎない。




が、このカードの真価はその特殊能力にある。

特殊能力『銃弾1発、幸福度1』

効果『このターン、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃ができる』



『直接攻撃ができる』



そう、


直接攻撃ができるのである‼︎




ただ、直接攻撃ができるとはいえ、ステータスがステータス。


与えられるダメージは高々『10』に過ぎない。


はっきり言ってこのカードも雑魚カードに分類される。



が、


「なっ……なっ……」


このバトルにおいて、このカードほど強いカードは存在しなかった。


それこそ、勝敗が決するほどに。



「どうした?有馬?さっきまでの余裕はどこへ行った?」


誠の高笑いが響く。


「クッ……クッソォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎」



有馬の心からの叫びが、すっかり静まり返った世界大会会場に響く。




……その日、歴代最強の『召喚士』が誕生した。

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