第3話 実況2

 上空からとらえた兼六園けんろくえんの映像が、大型モニターに映し出される。


 広大な緑の中に、加賀友禅のぼかし技法のような桜が咲き乱れている。

 そのあと画面は、陸上競技場に設置された、放送センターに切り替わった。マイク付きのヘッドホンをした、石野アナウンサーと解説者が並んで座っている。


「4年に1度行われます、ワールドカップ人生マラソンの代表選考を兼ねました、第10回金沢人生マラソン。スタートゴール地点の石川県金沢市西部緑地公園陸上競技場です。このあとレースは、0時15分にスタートの予定となっております。朝から青空、そして時折強い風にあおられ、桜の花びらが散っています。放送センターからは、石川体育大学客員教授・瀬古敏文せことしふみさんの解説でお送りします。どうぞよろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


「今年はワールドカップの選考に加えまして、10回という記念大会。そして金沢初開催ということで、選手の気合も、かなり違ったものになるかと思いますが・・」


「そうですね。まぁ中には、すでに空回りしている選手もいますけども・・」


「かなり残念な仮装・着ぐるみの選手もいます」


「ええ、どういう姿であれ、まずは完走する、ということが大事ですね」


「毎年完走率が3%前後と、かなり低いわけですが、ずばり、完走する秘訣は何でしょうか」


「やはりですね、障害物に振り回されず、いかにおのれの道に邁進まいしんするか、でしょうね」


「それが勝利を導く第2の方程式」


「そうです」


「しかし選手にとっては、なかなか厳しいところ」


「すでに人生という荒波に、呑み込まれている人たちですからねぇ」


「ご存知のように、この人生マラソンは、タイムレースではありません。コース上に11の障害と、シークレット障害が1つ設定されています。その障害を乗り越え、見事優勝すれば、今年の8月にカナダで行われます、バンクーバーワールドカップ人生マラソンの日本代表が内定します。また優勝者以外でも、完走すれば自動的に、来年の別府大分人生マラソンの招待選手となります。35キロ過ぎでリタイアしても、完走した選手が5人に満たない場合は、招待選手の可能性が出てきます」


「人生のやり直しですね」


「さて瀬古さん、今回の見所は、ずばりどういったところになるでしょうか」


「そうですね、今年は40代のエントリーが増えましたから、不惑ふわくの年を過ぎてもなお、人生に翻弄ほんろうされる様を見ていただきたいと思います」


「人生マラソンウォッチャーからしますと、40代の選手に限らず、すべての選手が、地に足の着いていない走りのように見えますが・・」


「やはり生き様は隠せないですね」


「なるほど」


「このマラソンが、マイナスの人生をプラスに変えるきっかけとなってほしいと思います」


「それがこの人生マラソンの存在意義」


「そういうことですね。きっかけすら、自分でつくれない人たちですから・・」

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