第12話プレゼン
1
部長室に来たのは、久しぶりね。
私が直接、意見を聞いて以来かしら。
しかし布石はある。
実は会長と交流が深い。
部長が若い時に、当時専務だった会長に可愛がられていたとのこと。
つまりはしっかりした筋がある。
ところで、なんだろう。
私が……違う私とバ課長、そして……キミ。
なんなの?
「君達に社内プレゼンテーションを託す」
部長がはっきりとした大声を上げる。
社内プレゼンテーション? うそ!
私は会長の顔が、脳裏に浮かんだ。
社内プレゼンテーション、別名を出世品評会。
昇進候補が自分の部署をほめちぎり、目上の人達に気に入られ、出世するためのごますり合戦のこと。
お世辞にも良い社風とは言えない。
なんだか、ウザイ。
昇進候補なんて、決まっているから。
これは会長から、教えてもらった。
私を出世させる気があるかも。
これも会長の好意になるなら……しかし私の横にはキミがいる。
私は聞いてみた。
チャンスをくれるのか? こう聞いた。
少しぼやかす。
何をぼやかしたの?
誰にチャンスをくれたかを、私はぼやした。
「その通りだ、二人共、期待している。課長、二人をしっかり指導してくれるな」
やはりそうなった。
しかしこれが無難ね。
だってチャンスは、キミで私はあまり関係ないとは言えない。
私はエスカレーターだもの。
おそらく、出世も会長次第でもらえるから。
2
部長室を出ると、私はバ課長の机の前にいる。
そして横には、キミがいた。
何かいろいろと言っていたが、私の聞きたい内容はなかった。
こんな奴に、聞きたいことなんかはない。
……違う、一つだけある!
推薦者だ。
キミを推薦した人間を知りたい。
「簡単に言うぞ、お前は私の推薦だ。吉村さんは部長の推薦だ」
バ課長が偉そうに、ほざいている。
しかし少しだけ、見る目がかわる。
なぜなら、キミを推薦したから。
おそらく何か企んでいるとは思うけど、それは私が阻止しないと。
「仕事に戻れ!」
バ課長がほざく。
だけどここは、黙ってひく。
少しだけ、褒めてあげる意味で。
「ふう」
席に着くと、ため息を軽くキミは吐いた。
どんな意味のため息かはわからない。
聞きたいけど……今は仕事ね。
3
仕事を淡々とこなしているうちに、夕方になっている。
太陽は沈み、職場には私とキミしかいない。
仕事は終わりに近づいている。
だけどなんたか、おぼつかない。
二人きり……そう。
二人しかいない。
他のみんなは、帰ってしまった。
心臓が高鳴る。
喉が乾く。
バカみたいね。
学生じゃああるまいし、私は社会人で年齢もそれなりにある。
「よし! ここまでにしよう」
キミが言った。
終わるようだね。
「吉村さんは? 終われそう?」
キミの言葉に私はお構いなくと素っ気ない態度と、なにもしないで! と口走る。
なにもしないで!
こんな所でされたら困る。
それはキミも同じ。
私はバカ! バカ! バカ! と青ざめる。
これは思いきりの、マイナスでしかない。
「じゃあ、お疲れ様」
あっ! キミが帰ってしまう。
せっかく二人きりなのに。
このままでいいの?
このままで……良くない!
私は即座にプレゼンテーションを話題に出した。
一番無難だし、私とキミがいずれ絡まっていく。
それをこの状況で、私が使った。
キミの答えは……
「わかった、少し吉村さんと話をしたいと思っていたんだ。僕で良かったら、すこし居させてもらうね」
……イエス! やったあ。
顔に出さずに、心で喜びの悲鳴を上げる。
「すこし自販機で、買ってくるね」
そう言うと、キミは一時的に消える。
そんな、おこがましいよ。
あっ、ジュース代くらいは……
「やったあ! 麻衣子えらーい」
パソコンに写る暗い画面上に、はしゃぐ顔がある。
シャットダウンした暗い画面は、鏡のように磨かれていて黒白ではあるが顔が写っている。
私も仕事を終わらせたのだけど、まさかこの画面上に『麻衣』が現れるなんて。
「いいよ、いいよ、ここはプッシュだよ。押せ押せ! 麻衣子ガンバ!」
好きなこと言い放題言って、『麻衣』が消えた。
一言返そうとして、扉の開く音がした。
扉を見ると、ペットボトルを持つキミがそれを見せて笑っている。
子供みたいな無邪気な顔に、少し顔がほころんだ。
キミは不思議だね。
私とは違う。
なぜか、そう思える瞬間だった。
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